04.29
ビリギャル・小林さやかさん「日本人の自己肯定感の低さ」に課題意識。コロンビア教育大学院に進学する理由とは
映画「ビリギャル」の主人公として知られ、米コロンビア大の教育大学院に進学する予定の小林さやかさん。
3月、自身のYouTubeチャンネルとTwitterで、コロンビア大とカルフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の大学院に合格したことを報告し、話題になった。
留学を決意した背景には、小林さん自身が周囲からかけられてきた言葉への違和感があるという。
「地頭がいい」って一体何なんだろう?
その言葉の根底に「日本人の自己肯定感の低さ」があるのではないか?
留学を控えた小林さんが、率直な言葉で語った。
「地頭がいい」は本当か?
ーーまず、大学院留学を決意するに至ったきっかけは何だったのでしょうか?
妹が高校から3年間、ニュージーランドに行き、英語ペラペラになって帰ってきて、最近は外資系の会社でバリバリ働いていますけども、なんかそれを見て「留学って人を変える力があるんだなあ」と、すごい憧れはあったんです。
私は慶応大学へ進学して、その後すぐに就職という道を選んだので、海外に出るという選択肢が今までありませんでした。そして、海外に行った経験を持っている人たちに会えば会うほど、私も行けば良かったとすごく思っていたんです。
ーー講演など教育に携わる中で何か心境の変化もあったのでしょうか?
教育活動をしていく中で、課題に直面しました。講演を今まで500回以上やってきて、聴衆は25万人を超えました。毎日いろんな学生や先生や保護者の方と対話するというのを7年やりました。
ビリギャルの話になると、私はもともと頭が良かったから合格できたという反応がすごく多いんです。それがまさに日本の課題だとすごく思っていて、日本人の自己肯定感の低さの現れだと感じています。「もともと頭がいい」「地頭がいい」とよく言うけど、そもそもそれって一体何だろうとよく考えます。
仮に私があのまま慶応に受からなかったら、もっと言うと坪田(信貴)先生に出会わなかったら、「もともと頭がいいよね」と言われる世界線はあっただろうか。絶対になかっただろうなと。
私は高校3年生の時に坪田先生に言われた言葉を今でも覚えていて、「さやかちゃん、このままいくと本当に慶応に受かると思うよ」と。「だけど、もし慶応に受かったら、周りの人はね、君にこう言うよ。もともと頭が良かったんだね」と。
「でも、君が同じだけの努力をして、同じだけの実力をつけて、受かるはずだったのに、慶応の試験本番の日に熱を出して集中できなくて、実力を発揮できなくて落ちたとしよう。つまり、プロセスが全く一緒で結果だけが違ったとしよう。そしたら周りの人は君に必ずこう言うよ。ほら、どうせ無理だって言ったでしょ」と。
確かに、私は慶応に受かるまでは「もともと頭がいい」と言われたことは一度もなかったので、世の中の反応を見て、本当に坪田先生の言った通りになったなと。人は結局、結果からしか判断しないんだなと思いました。
環境が才能を引き出す、周囲の人が重要
この7年、なんであのとき私は慶応に受かったんだろうと、すごく冷静に分析できました。あれは絶対に環境のおかげだったと思っているんです。仮にもともと才能があったとしても、環境に恵まれなければ発揮できなかった。
私は「環境=人」だと思っていて、今の日本の社会で、「やろうと思えば何だってできる」と周りが信じてくれることがいかに貴重なことか痛感してきました。だから、子供たちの未来を明るく照らすためには、講演して回るだけでは足りないと思ったんですよね。子供たちの周りの環境が変わらないといけない。
もっと主体的に学んで、学びというものをどんどん楽しんで、生涯にわたって学び続ける学習者を育成するためには、学校や家庭、そして地域教育でどんな環境や経験の場を子供たちに用意すべきなんだろうか。そういうテーマで日本の大学院で学習科学を学びました。
修士論文を書きながら、やはり私も日本からいったん出て修行して、いろんな価値観に触れて、持っているバイアス(偏見)を全部ぶち壊して自分自身をアップデートしないと、これ以上のことはできないなと思ったので、次は海外に挑戦しようと決めました。
ーーなぜ、他の国ではなくアメリカの大学院を選んだのですか?
アメリカは、日本と違ってデータやエビデンスを重んじる文化があるため、教育分野でも認知科学や学習科学の研究が進んでいることが一つ。
あとは、やはり多様な人と出会ってバイアスをぶち壊したいというテーマを持って留学する私にとって、アメリカが次のステージとして最適だと思ったからです。
特に、コロンビア大の教育大学院は全米でも最大規模なんですね。教育というだけでも81プログラムがあるんですよ。
音楽の視点で教育を見るとか、脳科学の視点とか、もう本当に数え切れないぐらい多くの視点があって、そこにニューヨークという地の利もあり、全世界からいろいろなバックグラウンドを持った人たちが来ます。
あと、優秀な教授もやはりトップスクールに集まっています。私は出会いによって人生が変わるタイプなので、どんな人と出会えるだろうと想像して一番ワクワクした進学先を決めました。
教育の実践者でありたい
ーー将来、教育にどう携わっていこうと考えているのでしょうか?
少なくとも、講演家として生きていきたいとは思っていないです。評論家になりたいとも思っていません。教師という立場ではないかもしれませんが、教育現場と直接関われる位置で、子どもたちの未来に貢献できる人でありたい。
ただ、あんまり「これ」と決めることもやめたんです。結局、ここから私自身の価値観も新しい環境でどんどん変わっていくだろうから。見える景色が変わるはずです。
いずれにしても、いろんなセクションをつないだり、新しい視点を取り入れたり紹介したり、何か化学反応を起こすようなカタリスト(触媒)的存在であれたらいいなとは思っています。
私はいつか日本が「世界一幸せな子どもが育つ国」と言われるようになってほしいんです。日本の子どもたちの低い自己肯定感は、私たち大人の責任です。
子どもたち自身が「自分はできる!」と信じて、何かに挑戦できるようになるためには、周りが信じてあげることが不可欠です。
子どもたちにとって、そんな理想的な環境が日本で広がっていくことに貢献したい。そのために、アメリカでしっかり学んできたいと思います。
こばやし・さやか 1988年、愛知県生まれ。塾の担当講師だった坪田信貴さんの著書「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(KADOKAWA)が2013年に出版され、広く知られるように。21年に聖心女子大大学院修士課程修了(学習科学)。22年秋からコロンビア大の教育大学院で認知科学を研究する予定。今後、自身のTwitter(@sayaka03150915)やnoteでも、アメリカ留学での体験記を更新していく予定。
Source: HuffPost