05.28
アジアの米軍を削減せよ──「居留守」ホットラインで圧力をかけ始めた中国
<対中防衛ホットラインの増設を主張するアメリカに対して「まずは誠意を示し中国に歩み寄れ」と要求> 中国はアメリカに対して、米中間の軍事的緊張を緩和するために、アジアに配備する米部隊を縮小して誠意を見せるよう勧告した。両国の間では今、南シナ海や台湾海峡での偶発的な衝突を回避するための信頼醸成措置について話し合いが行われている。 中国国防部の譚克非報道官は5月27日の定例会見で、ジョー・バイデン米政権の「インド太平洋戦略」は、軍事同盟や「排他的な小さな輪」を構築することで「意図的に衝突や対抗を煽っている」と批判した。 この「排他的な小さな輪」は、中国が日米豪印戦略対話(クアッド)に言及する際によく用いる表現だ。 クアッドは、台頭する中国の軍事力と、北米を除く全ての大陸に広がった野心的な経済的イニシアチブのけん制を狙うインド太平洋戦略における中心的な要素と考えられている。 「インド太平洋」という言い方は、日本の安倍晋三前総理大臣が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンに由来する。この言い方を最初に取り入れたのは、ドナルド・トランプ前米政権だった。 「誰も出ないホットライン」 譚克非は会見で、インド太平洋戦略は「集団と集団が対立する『新冷戦』を引き起こしている」と主張。両国間の緊張緩和に向けた最近の対話についても言及した。 米国防総省の関係者が5月に入ってフォーリン・ポリシー誌に語ったところによれば、米国防総省は中国との間の防衛ホットライン(専用電話)を増設したいと考えている。南シナ海や台湾海峡、西太平洋での睨み合いが頻発している両軍間のリスクを緩和するためだ。 同誌によれば、バイデン政権は「中国との間に幾つもの連絡経路をつくり、激化する両国間の戦略的な競争に対処し、紛争が起きるのを防ぎたい」考えだ。 この数日前には米国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官であるカート・キャンベルがフィナンシャル・タイムズ紙に対して、米政府がホットライン経由で中国政府の当局者に連絡を取ろうと複数回にわたって試みたが、「何時間も電話が鳴り続ける」だけだったと述べていた。 ===== 譚克非は27日の会見で、「中国とアメリカの軍は常に、両国の国防省同士の直接電話を含む複数のチャンネルを通して連絡を保っている」と確認。「ホットラインは信頼の醸成、疑念の払拭、危機への対応や紛争の防止のためにあると考えている」と述べた。 譚克非はさらに「アメリカは防衛ホットラインの増設を主張する一方で、アジア太平洋の軍事力配備を強化し続け、中国への接近偵察を頻繁に展開し、さらには意図的に艦船や航空機の危険なニアミスを起こすようなことをしてはならない」と主張した。「我々はアメリカに対して、言行を一致させ、誠意を示し、対話を増やして中国と互いに歩み寄り、意見の相違に対処して、両軍関係の健全で安定した発展を促進するよう求める」 ロイター通信は先週、ロイド・オースティン米国防長官が中国軍幹部の許其亮と何度も接触を試みたものの、まだ対話ができていないと報じた。中国政府内でオースティンと対等の地位にいるのは魏鳳和国防相だが、習近平国家主席が率いる中央軍事委員会の副主席である許其亮の方が権限が大きく、習近平に対する影響力も大きいとみられている。 バイデン政権の当局者はロイター通信に対して、アメリカは「適切なレベルでの対話」を望んでいるだけだと語った。 習近平と側近に権力集中 26日にスタンフォード大学のイベントで演説を行ったキャンベルも、同様の見解を示した。キャンベルは、習が2012年に国家主席に就任して以降、「約40年にわたって続いてきた集団指導体制をほぼ完全に解体した」と指摘。その結果、楊潔篪共産党政治局員や王毅外相(3月にアラスカでの会談で米当局者らと衝突した2人)はもはや、習近平の側近集団には「遠く及ばない」存在になったと述べた。 バイデン政権のインド太平洋調整官であるキャンベルはまた、中国に関与するというこれまでのアメリカの政策は終わったとも指摘。「今後は競争が主要な枠組みになっていくだろう」と述べた。
Source:Newsweek
アジアの米軍を削減せよ──「居留守」ホットラインで圧力をかけ始めた中国