05.21
1カ月でTOEIC 900点、1年で馬術日本一、2作目で小説家デビューした女性の最強時短スキル
<新型馬インフルエンザが題材の作品『馬疫』で、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した茜灯里氏。職業作家を目指し始めたのは、わずか1年半前だ。彼女の「短期間で目標を達成するスキル」とはどんなものか> 1年の受験勉強で、東京大学に合格した。1カ月の対策で、TOEICが600点台から900点台になった。 馬に初めて触ってから1年後に、全日本選手権に出場して優勝した。小説を書き始めて2作目で、新人賞を受賞してデビューした。2024年、東京五輪の連続開催を控える日本で「新型馬インフルエンザ」が発生した――という設定のミステリ、『馬疫』(光文社、2021年2月発売)だ。 周囲から「何をするのも効率がいいね」とよく言われる。 秀才の家系に生まれたわけではない。私の両親は作曲家と女優だったが、勉強をしろとも言われなかった。 私はどうやら「短期間で目標を達成するスキル」を自分で編み出して使いこなしているようだ。と言っても、このスキルには特別な才能は必要ない。 最初に行うのは「己を知り、目標設定する」 私の時短スキルには、勉強用とパフォーマンス用がある。もっとも、どちらもまず行うべきことは「己を知り、目標設定する」だ。 「己を知る」とは、目標に取り組むときに、自分は他人と比べて何が強み・弱みなのかを探ることだ。 あなたは、暗記に自信はあるだろうか。記憶力が良いならば、資格試験の勉強では1分野1冊のテキストを厳選して丸暗記したほうがいい。過去問も、解かずに読んで覚えたほうが効率的だ。 記憶力には自信はないがコツコツと努力できるタイプならば、まず、過去問を毎日、1回分ずつ読もう。読んで分からないところは、テキストを辞書として使う。つまり、過去問に出てきた部分だけ、テキストをとびとびに読む。 コツコツタイプの人は、試験の構造をつかんでから最後にテキストを通読するほうが、効率的に覚えられる。 「目標設定する」とは、達成期限を決めてから、逆算して時間の使い方を考えること。ここで重要なのが、攻略対象の徹底的なリサーチと計画表の作成だ。 ある資格試験が半年後にあるとする。ネット情報を見ると、この試験は半年から1年の勉強で合格している者が多い。「すぐに勉強を初めなければ」と焦りそうになるが、遠回りのようでも1週間かけてさらに情報を集めたほうがよい。 合格者は人数が決まっている(相対評価)のか、それとも合格点が取れれば全員が受かる(絶対評価)のか。合格最低点は何点か。 お薦めのテキストは何か。複数の科目があるならば、どの科目が難しいという声が多いだろうか。合格体験記のブログなどにも目を通し、躓きやすい点なども把握しておく。 試験攻略法が何となく分かったら、自分のスタイルに合わせた計画表を作る。 スタイルとは、「平日9時から18時に働いているから、朝に◯時間、夜に◯時間の勉強時間を取れる」という勉強スケジュールだけではない。最も大切なのは、自分は一気呵成型か、継続型かということだ。 ===== 一気呵成型は、一夜漬けタイプだ。暗記が得意だが、地道に努力し続けるのは苦手。このタイプならば、「土日に集中して10時間ずつ勉強して、平日は1時間の復習のみ」などとメリハリをつけて、飽きてモチベーションが下がるのを防ぐ。 時短スキルなので、合格するまでの標準勉強時間の半分から3分の1での目標達成を目指す。 継続型であれば、平日は出勤前の1時間で過去問1回分を読む。仕事を終えてから3時間かけて、朝の勉強分をテキストで調べながら復習する。 土日は軽い見直しと休養にあてる。努力を続けるにはリフレッシュも必要だ。 継続型でも、標準勉強時間の3分の2くらいの時間での合格は可能だ。 試験勉強の時短では「取捨選択力」が鍵 勉強用の時短スキルを、もう少し詳しく話そう。 例えば、あなたは4科目の勉強が必要な資格試験の合格を目指しているとする。各科目100点の400点満点で、全体の7割である280点を取れば合格できる。科目ごとの合格最低点はない。 勉強の時短では「取捨選択力」が鍵を握る。 この試験がマークシート方式の試験であれば、応用力は必要ない。10年分の過去問を読んで覚え、関連部分だけをテキストで確認すればよい。 ノートは作らない。問題集に、テキストから抜き出した補足事項を書き込んでいく。 「過去問ではカバーしきれない問題も出るはずだ」と心配する人もいるだろう。だが、勉強した部分で9割を取れれば、全く知らない問題が解けなくても合格できる。 試験勉強は「何を勉強するか」ではない。「どこを捨てるか」だ。網羅的に勉強すれば効率が悪くなる。と言っても、ヤマをかけるのはさらに非効率だ。 4科目あれば、得手不得手が分かれる。「A科目は得意だから90点、B科目は苦手だから75点を目指す」などと計画し、取りたい点数によって科目ごとの勉強時間を変える。 基本的に得意科目を伸ばしたほうが効率はよいが、コンスタントに9割以上取れるようになったらその科目の勉強は終わりにする。平均点を90点から95点にするのは、70点から75点にするよりも格段に難しい。しかも、当日のミスで5点くらいは上下する。 目標点によって勉強時間を配分して「1日3時間ならば、A、Cに1時間ずつ、B、Dに30分ずつ使う」などと戦略的に決める。各教科に使う時間は、一定期間ごとに見直す。 試験が記述式だった場合でも、過去問を覚える勉強法に変わりはない。ただし、一言一句を丸暗記するのではない。解説を読んで、段落ごとの流れ(論理展開)を覚えるのだ。 各段落に一行のタイトルをつけ、フローチャートにしてノートに書き出す。「この設問には、この流れで解答する」と文の構造が明瞭になると、連想ゲームで思い出しやすくなり、部分点も取りやすくなる。 ===== 小説新人賞を短期間で取れたのはなぜか 一方、習い事の上達や文学賞への応募などに役立つのは、パフォーマンス用の時短スキルだ。パフォーマンス用では、「情報収集力」が重要になる。 私は2019年11月に「職業作家になる」と決意した。 新聞記者やフリーの科学ライターの経験はあるものの、小説は短編も含めて書いたことはなかった。ただ、本はジャンルを問わずによく読んでいたし、「この内容を書くならば、原稿用紙何枚になる」という分量の感覚が身についていたのは強みだった。 書きだす前に1カ月間かけて、小説執筆の指南本を20冊ほど読んだ。自分がノウハウを身につけて真似するためではない。ライバルがどのように書くのかを学び、一歩先を行くためだ。同様に、さまざまな新人賞の講評も熟読した。 目標設定は「1年で長編小説の新人賞を受賞し、単行本を出版する」とした。当時携わっていた、責任を持って進めなくてはいけない職場のプロジェクトの区切りまで、2年強だったからだ。1年で作家デビューをして、残り1年で引き継ぎをしつつ専業作家になる準備をするためだ。 「己を知り、目標設定をする」は整った。あとは応募用の原稿を書くだけだ。 とはいえ、これが初の小説執筆だ。自分がどれくらいの期間で1篇の長編を書けるのかは見当もつかなかった。 1作目は時代物のミステリを書いた。場面ごとの枚数などを詳細に決めた構成メモ(プロット)を作った後、毎日、15枚から20枚で区切りのつく場面まで書くことを心掛けて、400字詰め原稿用紙で522枚を2カ月弱で書いた。 初めての小説は、2020年1月末が締切の新人賞に応募した。 分量・スピードの感覚がつかめたので、「2カ月に1本の長編を書き、6回のチャンス内で新人賞を受賞する」と目標を再設定して2作目の執筆にとりかかった。 それが後に、第24回日本ミステリー文学大賞新人賞(日ミス)を受賞し、私のデビュー作となった『馬疫』(受賞時のタイトルは『オリンピックに駿馬は狂騒(くる)う』)だった。 執筆前に改めて各種新人賞の講評を読むと、直木賞作家の朱川湊人先生が「新人賞に期待されるのは、何よりも”突破力”」と語っていた。突破力とは、新鮮なテーマ、定石破りの展開などだ。 ならば、自分にとって突破力になるのは「馬をテーマとした、理系ミステリと社会ミステリの融合」だと考えた。 私は、馬術選手で馬の獣医師もしていた。競馬業界と共同研究をしたこともある。生まれたばかりの馬、競技や競馬で活躍する馬、緊急手術の甲斐なく死ぬ馬など、さまざまな状況の馬を間近で見てきた。 それぞれの状況の馬の匂いや鳴き声、感触や体温も生々しく知っているから、物語のリアリティを生む描写にも自信があった。 『馬疫』は現代物だったこともあって、原稿用紙583枚を1カ月半で書けた。しかし、いざ応募する段階になって、2つの難問が現れた。 ===== 1つ目は、新型コロナの感染拡大と被害が予想以上で、作品の中では「あり得る最悪の状況」として描いたことが予言になってしまったことだ。現実では死者も出ているから、今、この作品を世に出してよいものかと悩んだ。 2つ目は、脱稿後、応募締切が直近の新人賞に応募するつもりだったのに、読んだ人の全員が「5月締切の日ミスに応募すべきだ」と言ったことだ。過去の受賞作や選考委員のコメントを読み返す。結局、自分でも日ミスのほうが向いていると納得して応募し、受賞した。 どんなに良い作品を書いたとしても、競う相手がもっと素晴らしい作品を書いていたら受賞できない。運に助けられた部分もあったが、「情報収集力」によって受賞の確率を上げ、運を引き寄せられたと思う。 資格試験の合格も小説の新人賞受賞も、それ自体がゴールではない。運転免許と同じで、合格・取得した後にいかに活用するかが重要だ。 自分の人生を豊かにするために使うのか、あるいは社会に役立てるために使うのか。「その後」を深く考える時間を作るためにも、目標達成の時間は短縮するに越したことはない。 [筆者] 茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト) 1971年、東京都調布市生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、立命館大学教員。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。 『馬疫』 茜 灯里 著 光文社 (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
Source:Newsweek
1カ月でTOEIC 900点、1年で馬術日本一、2作目で小説家デビューした女性の最強時短スキル