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ニューヨーク市長選を制したゾーラン・マムダニとはどんな人?イスラエルのジェノサイドを公然と批判も
新たにニューヨーク市長となったゾーラン・マムダニ氏(米ニューヨーク、2025年10月27日)11月4日投開票のニューヨーク(NY)市長選挙に勝利した、民主党候補のゾーラン・マムダニ氏(34)。史上初のイスラム教徒かつインド系アメリカ人のNY市長が誕生した。
市長選への出馬を表明した1年前には、NY市民からの認知度は低く「ほぼ無名」状態だったマムダニ氏だが、草の根の選挙運動を通じて支持を拡大してきた。
約850万人の人口を抱える全米最大の都市で、新たなリーダーとなったゾーラン・マムダニとは、どんな人物なのか?
ウガンダ生まれ、元ラッパー
NY州議会の公式サイトとAP通信よると、マムダニ氏は1991年、アフリカのウガンダの首都カンパラで、インドの両親の間に生まれた。7歳の頃、家族と共にNYへ移住。米メイン州のボウディン大学を卒業し、在学中には「パレスチナの正義ための学生の会」支部を共同設立した。
母のミーラ・ナイールさんは著名な映画監督で、父のマフムード・マムダニさんはコロンビア大学教授だ。両親ともにハーバード大学を卒業している。
マムダニ氏は2018年にアメリカ国籍を取得。2025年にシリア系アメリカ人でイラストレーター/アーティストのラマ・ドゥワジさんと結婚した。
「ヤング・カルダモン」や「Mr.カルダモン」の名前で、ラッパーとして活動していた時期もある。
大学卒業後は、NYのクイーンズで住宅差し押さえ防止のカウンセラーとして働き、低所得の有色人種の居住者たちが立ち退きを回避できるよう支援していた。この時の経験が、政治を志すきっかけになったという。
マムダニ氏はクイーンズとブルックリンで民主党候補の選挙活動に携わり、地方政治で経験を積んだ。2020年のNY州議会議員選挙で初当選し、22年、24年と当選を果たしている。
24年にニューヨーク市長選への立候補を表明。25年6月の民主党予備選挙では、草の根の選挙運動が奏功し、アンドリュー・クオモNY州前知事(2021年にセクシュアルハラスメント疑惑で辞任)に勝利した。
州議会議員としては、NY市内の一部のバスを無料にする実証実験を推進した。また、イスラエルの入植活動を許可なく支援する行為に非営利団体が関与することを禁じる法案も提案している。
SNSを活用した宣伝活動にも積極的で、ウルドゥー語やスペイン語などで話す動画も投稿している。
家賃の値上げ凍結、富裕層への増税を掲げる
自らを「民主社会主義者」だと位置付けるマムダニ氏。家賃の値上げ凍結、保育料や市営バスの無料化のほか、最低賃金の引き上げ、手頃な価格の住宅整備といった、労働者階級の生活費負担の軽減を狙った政策を公約の柱に掲げている。財源確保のために、富裕層への増税や法人税の引き上げも訴えている。
こうした方針は左派の政治家たちからも共感を集め、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(NY州)や、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州)からも支持を得ている。
複数の現地メディアの報道によると、オバマ元大統領はマムダニ氏本人に電話をかけ、その選挙運動を称賛するとともに、将来的に「相談相手になる」ことを申し出たという。
横断幕を掲げながら、ブルックリン橋を行進するゾーラン・マムダニ氏(中央右)と支持者ら(米ニューヨーク、2025年11月3日)ネタニヤフ逮捕を公言
マムダニ氏は、パレスチナ人の権利支持を貫き、イスラエルによるジェノサイドを繰り返し批判してきた。
ガザ攻撃から2年となる10月7日には、ハマスの攻撃を批判して犠牲者を悼むと同時に、イスラエル政府とネタニヤフ首相が行なっているジェノサイドにより、6万7000人を超えるパレスチナの人々の命が奪われ、イスラエル軍の爆撃でガザの住宅や病院、学校が瓦礫と化しているとXに投稿。
「アメリカ政府は、一貫して(ジェノサイドに)加担してきた」と指摘し、「占領とアパルトヘイトは終わらせなければならない。平和は戦争犯罪によってではなく、外交によって追求されなければならない。私たちの政府は、これらの残虐行為を終わらせ、責任を負う者たちを追及するために行動しなければならない」と訴えていた。
また、米CBSのトーク番組「ザ・レイト・ショー」で、司会のスティーブン・コルベア氏から「イスラエル国には存在する権利があると思うか」と尋ねられたとき、マムダニ氏はこう答えた。
「はい、他のすべての国と同様に、イスラエルには存在する権利があると信じています。そして、国際法を遵守する責任もあります」
国際刑事裁判所(ICC)は、戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いで、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相、ハマス軍事部門のデイフ司令官に対し逮捕状を出している。(デイフ司令官は、イスラエルの空爆で殺害された)
アメリカはICCに加盟しておらず、管轄権は及ばないと主張している。だがマムダニ氏は、自身がNY市長になった場合、ネタニヤフ首相が市内に入ることがあればICCの逮捕状を「尊重」し、逮捕すると公言してきた。
一方、「ネタニヤフ首相を逮捕するためにニューヨーク市警を公的な立場で利用することは連邦法違反になる」として、法的問題を指摘する声もある。
イスラム嫌悪や人種差別的な攻撃も
無名のいち州議会議員から急速に支持を広げてきたマムダニ氏だが、特に民主党候補の予備選に勝利して以来、対立候補や共和党議員、極右の活動家を中心に、イスラム嫌悪や人種差別的な攻撃を受けてきた。
トランプ大統領は、マムダニ氏が民主党予備選で勝利宣言をした後、「100%共産主義の狂人が民主党予備選に勝ち、市長になろうとしている」「見た目は最悪で声は耳障り、頭もあまり良くない」と中傷した。
共和党のアンディ・オグルズ下院議員(テネシー州選出)は10月27日、マムダニ氏について「この男がアメリカに来た理由はただ一つ。アメリカをイスラム神権国家に変えるためだ」と主張し、「マムダニをウガンダに送還すべきだ」とXで投稿した。
対立候補であるアンドリュー・クオモ氏は以前、マムダニ氏を「テロリスト支持者」と呼んでいる。民主党予備選でマムダニ氏に敗れたクオモ氏は、無所属で市長選に立候補した。
クオモ氏は10月30日、保守系ラジオ番組で司会者シド・ローゼンバーグ氏に対し、「もしまた9.11(アメリカ同時多発テロ事件)のようなことが起きたとき、マムダニがその(市長の)立場にいたらどうなるか想像できますか?」と問いかけた。
ローゼンバーグ氏が「想像できますよ。彼なら歓声を上げるだろう」と返すと、クオモ氏は笑って「それもまた問題だ」と発言した後、「だが想像できるだろうか?もし9.11のときにマムダニが市長だったら、この街に何が起きていただろうか?」と続け、マムダニ氏の非常時における対応能力を疑問視した。
その後、クオモ氏は司会者のコメントに同意した訳ではないと否定。「当時は(司会者の)発言を真剣に受け止めていませんでした。もちろん、あれは不快な発言だとは思います。ですが、私の口から出たものではなく、それが重要です」と釈明している。
一方、マムダニ氏はクオモ氏について「自らの公的人生の最後の瞬間を、この街を率いる初のイスラム教徒となる人物に対して人種差別的な攻撃を行うことに費やしている」と非難した。
また、自らに向けられてきた人種差別的で根拠のない攻撃は、NY中のイスラム教徒たちが日々直面しているイスラム嫌悪を象徴しているとも述べた。NYには、約90万人のイスラム教徒が暮らしている。
マムダニ氏はこれまで、「反ユダヤ主義」だという中傷を何度も受けてきた。
YouTube番組「Flagrant」に出演した際、「もしイスラム教徒でなかったら、反ユダヤ主義だと非難されると思うか」という質問に対して、マムダニ氏は「アンドリュー・クオモは、私がイスラム教徒の候補者でなかったら、決して口に出したり行動したりしなかったであろうことを、数多くしていると思います」と主張し、こう続けた。
「この街で育った多くのムスリム系ニューヨーカーにとって、パレスチナの人権のために声を上げると、ユダヤ教に対する偏見であるかのようにレッテルを貼られるのは、あまりにもありふれたことです。私が感謝しているのは、クオモの恐怖を煽る言動を見抜いているユダヤ系ニューヨーカーが非常に多いことです」
実際、若い世代を中心に、多くのユダヤ人のNY市民がマムダニ氏を支持している。
トランプは資金削減の脅し
多くの世論調査でマムダニ氏の優勢が伝えられる中、トランプ大統領は、マムダニ氏が選挙に勝利した場合には連邦資金を削減すると主張した。
トランプ大統領は投票日前日の夜、自身のソーシャルプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で、マムダニ氏がNY市長になったら「最低限を除き、連邦資金を拠出することはほとんどないだろう。なぜなら『共産主義者』が率いるこのかつて偉大だった都市には、成功どころか生き残る見込みすらないからだ!」「大統領として、無駄金を重ねることはしたくない」と投稿した。
一方、英紙ガーディアンは、各都市が連邦政府から受け取る資金の額を大統領が直接決定することはできず、予算の割り当ては憲法上、連邦議会の権限だと報じている。
連邦資金をめぐるトランプ大統領の発言について、マムダニ氏は「私はその脅しを、そのまま脅しとして受け止めます。それは法律(に基づくもの)ではありません」と述べた。
またトランプ大統領は、マムダニ新市長が誕生した場合、NYに州兵を派遣することも示唆していた。
【動画】通行人に素通りされた出馬表明時と、一年経った現在のマムダニ氏
(この記事は、11月2日配信の記事を再編集・加筆しています)
Source: HuffPost




