2025
10.05

ガザ市民の犠牲は「異常」。国境なき医師団のスタッフが報告、持続的な停戦や「死の罠」財団の解体を求める

国際ニュースまとめ

記者会見を開く国境なき医師団の(右から)松田隆行さん、中池ともみさん、村田慎二郎さん記者会見を開く国境なき医師団の(右から)松田隆行さん、中池ともみさん、村田慎二郎さん

「ガザの医療は限界を超えている」━。

パレスチナ自治区ガザ地区で医療活動を続ける「国境なき医師団」(MSF)は10月3日に東京都内で記者会見を開き、イスラエルによるパレスチナ人に対するジェノサイドや、深刻化する物資不足と飢餓の現状を報告した。

MSFは、「人道援助に戦争を止める力はなく、それができるのは政治だけ」だとして、世界の政治指導者たちに向けて、ジェノサイドと民族浄化を止めることや、持続的な停戦を直ちに実現することを求めた。

ドローンが毎日飛行「異様な光景」

ガザではMSFの現地スタッフと国際スタッフを合わせて計約1100人が活動し、2023年10月以降、日本からは13人を延べ16回派遣した。これまでに、14人の現地スタッフがイスラエルに殺害されている。

中部と南部の医療施設では活動を継続しているものの、イスラエル軍による攻撃の激化を受け、北部のガザ市内での活動を一時停止している。

看護師の中池ともみさんは、停戦中の2025年1〜3月の約8週間、ガザに派遣された。

「ガザに入った時に見た光景は、あらゆる建物が崩れ落ち、かろうじて残っている建物も真っ黒に焦げていました」

現地では、南部ハンユニスに残る基幹病院の一つであるナセル病院の外傷・熱傷の病棟で、看護師ら150人以上を統括する看護活動マネジャーを務めた。

病棟には、爆撃で骨折ややけどを負った患者が多数入院しており、子どもも多かった。金属製の医療器具は、イスラエルが「武器に使われる懸念がある」との理由で搬入を拒否したため、特に不足していたという。

停戦中もドローンが毎日飛行し、人の話し声が聞こえなくなるほどの音を立てていた。「ガザ市民の行動を監視しているような異様な光景」だったと振り返る。

停戦が崩壊した3月18日の深夜2時、中池さんが宿舎で休んでいると、近くで地響きの音が聞こえた。空爆は朝まで続いた。数日後に病院に戻ったとき、患者数は想像していたほど増えてはいなかった。後に同僚から、ER(救急室)に搬送された時点で、患者たちの多くがすでに息を引き取っていたと聞いたという。

その後、宿舎とオフィスがある地域にも退去命令が出たため、中池さんは中部に避難した。同僚スタッフに別れの挨拶もできないまま、日本に帰国せざるを得なかったという。

「同僚の現地スタッフの一人は、『大きな爆弾が落ちて、いっそ一瞬で死んだ方がいいのにな』と言っていました。住んでいる場所から何度も強制退去させられて、精神的にも肉体的にも疲弊していたのではないかと思います。空爆が続く中でも、洗濯のスタッフが『自分は看護師になるんだ』と言って、洗濯室で一生懸命勉強している姿に心を打たれました」

中池さんは「国際人道支援は、『自分たちは国際社会から見捨てられていない』と思える、ガザの人にとって数少ない希望の一つなのではないか」と話した。

熱傷病棟に入院していた子どもと中池さん(2025年2月19日)熱傷病棟に入院していた子どもと中池さん(2025年2月19日)

「ガザ人道財団」は「人道支援では全くない」

物資調達や医療設備のメンテナンスなど、医療活動の基盤を作る役割を担うロジスティシャンの松田隆行さんは、ガザ地区では2023年2〜8月と2025年7〜8月の2回、活動した。

2023年に目にした数々の建物や住宅、店舗は、2025年の再訪時には破壊されていた。南部マワシ地区にはビニールシートで覆われただけの仮設テントがひしめき合い、町中が人であふれかえっていた。「(1回目とは)全く違う場所に来てしまった」と感じたという。

2025年の滞在中は、ほぼ毎日空爆があり、医療現場は受け入れの限界を超えていた。

「1日300人を受け入れるキャパシティの診療所でしたが、実際の受け入れ人数は700〜800人でした。それでも断らなければいけない患者さんは数百人いて、完全に『キャパオーバー』の状態でした」

食料や医薬品、燃料の不足も深刻だった。粉ミルクと液体ミルクの在庫は特に少なく、一目で栄養失調だとわかるほどに痩せ細った子どもも多かった。

診療所には、米国とイスラエル主導の「ガザ人道財団」(GHF)の配給所で撃たれた患者たちも運ばれてきた。その中には、5歳や15歳の少年もいたという。

「彼らは食料をもらいに行っているのに、被害を受けて帰ってきてしまう。これは人道支援では全くないと思います」

これまでに、ガザの死者数は少なくとも6万7000人に上り、多くは民間人であることが報告されている

松田さんは2019年にMSFに参加して以降、数々の紛争地での活動を経験しているが、「ここまで一般市民に被害が及ぶ状況は初めて」だと語る。

「これほど市民が犠牲になっているのは異常だと思います。ガザに安全な場所はなく、人々は疲弊し切っている。1分1秒でも早い停戦を望みます」

病院の屋外にテント病棟を設置しているナセル病院(2025年8月12日)病院の屋外にテント病棟を設置しているナセル病院(2025年8月12日)

「パレスチナ人を破滅させようとする試み」

MSFの他のスタッフや患者たちからも、GHFの配給所付近で民間人が攻撃の対象となっているとの証言が寄せられている。

「多くの人が直接撃たれていました。これは援助ではありません。死の罠です。彼らは私たちを一人ずつ殺そうとしていました。私たちは飢えていて、子どもたちに食べさせるだけで精一杯です。他に何ができるでしょうか?」

「人道援助であると見せかけておいて、非武装の一般市民を意図的に標的にする。そうしたことが組織立って行われることは、MSFの54年間の歴史の中でも初めてだ」

MSF日本・事務局長の村田慎仁郎さんは、「イスラエルが今ガザ地区で行っているのは、組織的・意図的にパレスチナ人を破滅させようとする試みであり、ジェノサイドです」と述べた。

また、GHFの行為は「人道援助の皮を被った殺りく」だと批判し、財団の解体と、大規模で独立した人道援助の実施も求めている。

村田さんは、「飛行機に乗れば、日本から1日2日でたどり着けるところで、ジェノサイドが起きています。世界の現実に耳を傾けていただき、日本から何ができるか、想像して考えていただきたい」と呼びかけた。

米国が提示したガザの和平案をめぐり、イスラエルとハマスは6日に仲介国のエジプトで協議する見込みだ。

(取材・執筆=國﨑万智)

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Source: HuffPost