2025
09.23

ラブブの陰謀論がネットで拡散。「ラブブは呪われている」は本当か?専門家にその真相を聞いた

国際ニュースまとめ

ラブブは取り憑かれているのか...?ラブブは取り憑かれているのか…?

中国に拠点を置く玩具メーカー「Pop Mart」が販売するラブブ

今や世界を席巻しており、ネットでは高額で転売され、「ブサかわ」なファッションアクセサリーとして爆発的な人気を集めている。

でも、このふわふわしたラブブが「悪魔の使い」かもしれない…。そんな説がネットを騒がせている。

怯えた一部の親やキリスト教信者はTikTokXで、ラブブのぬいぐるみが呪われていて、『エクソシスト』に登場したことで有名なメソポタミアの神、パズズ(Pazuzu)が由来になっていると主張している。

ウィリアム・ピーター・ブラッティ氏の小説『エクソシスト』や、それを原作とした1973年の映画版では、パズズは少女リーガンに取り憑く邪悪な霊として登場する。

そして今度は、ラブブに取り憑いたらしい。

あるTikTokerは動画で、「みんな、ラブブとは何者かを知るべき。ラブブは、何千年も前に崇拝されていた悪魔神の現代の姿かもしれない。単なる推測じゃない」と呼びかけた。

ラブブファンは、『エクソシスト』のリーガンのように悪魔に取り憑かれてしまうのだろうか…?そんなことはないだろうが、一部の人たちがこのラブブにまつわるネット神話に飛びつき、かつての「サタニックパニック(1980年代のアメリカで起こった悪魔崇拝儀式などに対する恐れやパニック)」のような形で恐怖に陥るのは非常に興味深い。

以下で、そのすべてを解き明かしている。

ラブブの実際の背景とは?

実のところ、ラブブにまつわる「伝承」はほとんど存在しない。ラブブは、ベルギー在住の香港出身アーティスト・カシン・ロン(Kasing Lung)氏が2015年に手がけた絵本シリーズ「The Monsters」のキャラクターの1つだ。

ロン氏は、自身が子どもの頃から好きだった北欧神話に影響を受けてこのシリーズを作ったと語っている。

また、ロン氏は中国メディアCGTNのインタビューで、「オランダ語の勉強のために図書館でたくさんの時間を過ごしました。その後アーティストになろうと準備していたとき、子どもの頃に読んだことや好きだったことをよく思い出していたんです」と当時読んだ童話や空想からインスピレーションを受けたものを形にしたと述べている。

一方、パズズについては一切言及していない。

そもそも「パズズ」って誰?

「『エクソシスト』やラブブが話題になるずっと前から、パズズは風に関係する古代メソポタミアの悪魔として知られていました」と話すのは、イェール大学のアッシリア学教授エッカルト・フラーム氏だ。

「パズズの姿は、紀元前1千年紀に作られた多くの護符や小さな像の頭部で残されており、古代イラクや周辺地域の遺跡から発見されています」

パズズは、大きく四角い頭部をもち、犬に似た動物的要素と、人間の要素が組み合わさっている。部分的に犬のような身体には、猛禽類の爪、2対の翼とサソリの尾、そして先端が蛇の頭の形をした勃起した陰茎など、恐ろしくも異様な姿をしている。ラブブにはこうした要素はまったく見られない。

恐ろしい外見だが、実はパズズは、古代メソポタミアでは今のように「邪悪な存在」と見られていたわけではない。むしろ、白魔法(善意の魔法)使いだったという。

「バビロニアやアッシリアの人々は、パズズの恐ろしさを「良いこと」のために利用しました。特に、妊婦や若い母親を殺しや子どもをさらうと信じられていた、ライオンの頭と垂れた乳房を持つ恐ろしい女悪魔ラマシュトゥから身を守るために、パズズのお守りや首飾りを身につけたりベッドの近くにおいたのです」

ちなみに、ラブブもファッションアイテムとしてバッグにつけられることが多く、そこは偶然にも共通している。

パズズ専門家の見解は

これまで多くのパズズ像を見てきたフラーム氏は、パズズと現代のラブブの間に明確な類似点はまったく見られないと語っている。

「パズズにはラブブの『フワフワ』感はないし、ラブブにはパズズに見られる鳥の爪も翼も尾も、もちろん陰茎もありません」

唯一、名前の音節構造(La-bu-buとPa-zu-zu)が似ている点はあるが、これは単なる偶然であり、深読みするには無理があるという。

ラブブをめぐる「道徳的パニック」は、新しいものではない

オーストラリア・ビクトリア州のフェデレーション大学で歴史学を教えるデヴィッド・ウォルドロン准教授は、サタニック・パニック(悪魔崇拝儀式などに対する恐れやパニック)や、キリスト教における世俗文化への恐れについて長年研究してきた。

ウォルドロン氏によれば、こうしたサタニック・パニックは、伝統的価値観や既存の権力構造が脅かされるときに生じる傾向があり、社会が直面する変化への対処として、集団的な不安が高まるという。

過去には、1980年代のゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」やCabbage Patch Kids(キャベツ畑人形)、Momoチャレンジなど、奇妙だったり不安を感じさせるデザインが既存の宗教的な不安と結びつき、「サタニック(邪悪)」と非難されたという。

「こうした大げさな主張はすべて、若者文化に対する不安を煽るためのものです」とウォルドロン氏は指摘する。

「ラブブのような文化的ブームは、一部のキリスト教信者にとって偶像崇拝や悪魔的影響への懸念を引き起こすことがあります。特に若者文化の熱狂が“信仰心”のように見えるとき、それは脅威に映るのです」

学者たちは、このラブブ騒動をどう見ているのか

イェール大学の教授であるフラーム氏は、2025年の今でも「人形に悪霊が宿る」と本気で信じる人がいることに驚いているという。

この現象を「無害でナンセンスなお祭り騒ぎ」と受け止めることもできる一方で、フラーム氏は以下のように警鐘を鳴らす。

「この騒動には、古代の遺物を正当に理解しようとしない知的怠慢が露呈しています。ラブブに悪魔的な力が宿っていると主張する人たちは、キリスト教原理主義と現代ポップカルチャーを安易に結びつけ、あらゆるものに悪の存在を見出そうとする“グノーシス的世界観(人間はある究極の知恵を持つことにより救済されるという思想)”に囚われています」

「ラブブ」ブームはまだまだ続きそう

フロリダ大学の政治学教授で陰謀論研究者のジョセフ・ウスキンスキー氏は、この説を信じている人は少ないだろうと述べ、騒動についてこう指摘する。

「何かが流行すれば、そこに“悪魔”や“サタン”を見出す人々が必ず現れます。問題なのは人形そのものではなく、悪魔的影響を見がちなレンズを持っている人たちの存在です」

【画像】″悪魔の使い”パズズの姿がこれだ

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。

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Source: HuffPost