2025
09.19

東京新聞が「汚染土」と表記、再生土の理解醸成に影響は?福島・双葉町長は「言葉が一人歩きしてしまうと…」

国際ニュースまとめ

「汚染土」と表記する理由について記載した東京新聞の「お断り」「汚染土」と表記する理由について記載した東京新聞の「お断り」

東京電力福島第一原発事故後の除染で出た「除染土」について、東京新聞が記事で「汚染土」と表記しており、波紋を呼んでいる。

同紙は「除染土」のうち、放射性物質の濃度が低い「再生土」についても同様に「汚染土」と表記していることから、「福島の復興が妨げられる」「強い懸念を感じる」という声が地元から上がっている。

「再生土」は、道路の盛り土など公共事業で再生利用される方針が示されており、科学的に安全性が確認されている。

そんな土を「汚染土」と表記することは、この問題に詳しくない人々を不安にさせ、再生利用に関する理解醸成を妨げることになるのではないか。

ハフポスト日本版は、この問題の最前線に立つ福島県双葉町・伊沢史朗町長に受け止めを聞いた。

経緯を振り返る

原発事故後、福島県の人々の生活を取り戻すため、放射性物質が付着した表土を削り取るなどの除染作業が進められてきた。

除染で出た土は、各市町村の仮置き場(約1370カ所)に集められた後、国の要請を受けて設置された「中間貯蔵施設」(福島県双葉、大熊両町)に保管されている。

その量は、「東京ドーム約11杯分」(約1400万立方メートル)。国は法律で定められた「2045年3月までの福島県外最終処分」に向け、除染土のうち4分の3を占める「再生土」を全国の公共事業で再生利用する方針を示している。

では、再生土の再生利用は安全なのか。

ハフポスト日本版が環境省や有識者らに取材したところ、再生利用で使われる土は「1キログラムあたり8000ベクレル」以下。この場合、年間の追加被ばく線量は、作業員が0.93ミリシーベルト、周辺住民が0.16ミリシーベルトとなる。

これらは、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の「一般公衆の年間被ばくの線量限度」(1ミリシーベルト)を下回る値だ。

IAEA(国際原子力機関)も、「安全基準に合致している」と評価しているほか、福島県内の実証事業でも安全性が示されている。

さらに、再生土は別の土で覆われるため、「人体への影響を無視できる」レベルまで放射線を遮ることができる。

長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授も8月18日、福島市で開かれた再生土に関する催しで、「大事なのは『物差し』を持つこと。例えば胸のレントゲンによる被ばく線量は約0.1ミリシーベルトだということを頭に入れ、放射線について考えてほしい」と話していた。

被ばく線量の比較被ばく線量の比較

東京新聞は「汚染土」と表記します

そんな中、東京新聞は7月28日、再生土を巡る記事の中に「お断り」を掲載。「除染土」「再生土」「汚染土」と表記する理由について、次のように説明した。

《報道機関により「除去土壌」や「除染土」と表記していますが、放射性物質を取り除く科学的処理をせず、除染していないことなどから、東京新聞は原則的に「汚染土」と表記します》

つまり、科学的に「再生土」の再生利用の安全性が確認されているかどうかではなく、土に放射性物質が含まれていることから「汚染土」と表記する、と読める。

しかし、そもそも日本に住む人々は、自然放射線によって年約2.1ミリシーベルト被ばくしている。また、ICRPでは、大人も子どもも含めた集団で、がん死亡の確率が100ミリシーベルトあたり0.5%増加するとして、防護を考えることとしている。

前述の通り、再生利用による追加被ばく線量は年1ミリシーベルト以下だ。安全性が確認されている土を「汚染土」と表記すると、再生利用は「危険なものである」という印象を不特定多数の人に与えかねない。

実際、Xで「汚染土」と検索すると、「次世代への犯罪」「被曝や健康被害の懸念」「不妊、全身まひ、白内障、各種のがんなどを誘発」と、根拠もなく再生利用の危険性を煽る投稿がいくつもヒットする。

報道機関が再生利用の安全性に言及することなく、危険や不安を煽るような報道をすることは、日本新聞協会の倫理綱領「報道は正確かつ公正でなければならず」に反する行為となるのではないだろうか。

筆者はこのような問題意識から、東京新聞に「汚染土表記は再生利用の理解醸成を阻むのではないか」と問い合わせたが、同紙の編集局は「お断りで説明した通りです」と回答するにとどめた。

双葉町の伊沢史朗町長双葉町の伊沢史朗町長

「犠牲になった地域がさらに犠牲になる」

東京新聞の「汚染土」表記について、中間貯蔵施設を苦渋の決断で受け入れた地元はどう捉えているのか。

双葉町の伊沢史朗町長が8月27日、ハフポスト日本版の取材に応じ、「個別の報道に町としてコメントすることは差し控える」と前置きしながらも、次のように語った。

「一般論として『汚染土』という言葉が一人歩きしてしまうと、再生利用の協力を呼びかける上で影響が出る。この問題の解決には周囲の理解が不可欠だが、さらにネガティブな印象を与えてしまう」

中間貯蔵施設の受け入れにあたっては、多くの地元住民が先祖代々受け継いできた土地を提供するかどうかの判断を迫られた。

住民たちの中には、同施設内の神社に通って手入れをしたり、「我が帰郷日 2045年3月12日」という石碑を建てたりして、故郷に帰る日を今か今かと待ち望んでいる人もいる。

再生利用が進まず、「除染土」の県外最終処分が実現できなければ、原発事故で“犠牲”となり、中間貯蔵施設を受け入れて再び“犠牲”となった町や住民が、またも“犠牲”になる。

伊沢町長も2月、福島県外での理解醸成が進んでいないことに危機感を持ち、再生利用の機運を高めようと、双葉町内での再生利用を検討するという「私見」を明らかにしていた。

伊沢町長はこのほか、取材に「百聞は一見にしかず」と語り、「除染土」の問題は「ある地方の小さな問題ではない」ことを強調。そして、次のように訴えた。

「莫大な量の除染土が発生したのは原発事故が原因。その原発で発電された電気はどこで使われていたのか、特に首都圏の人たちにわかってもらう必要がある。例えば、東京の首長たちに中間貯蔵施設を訪問してもらうのはどうか」

「よく『苦渋の決断』と言われるが、そんな言葉では言い表せないほど大変な思いで中間貯蔵施設の受け入れを判断した。県外最終処分の期限まで残り20年だが、遅々として進んでいない」

同じく中間貯蔵施設を受け入れた当時の大熊町長・渡辺利綱さんも2月、ハフポスト日本版の単独取材に「全国の人に総論賛成各論反対ではなく、自分のこととして捉えてほしい」明かしている

なお、大熊町の吉田淳町長にも取材を依頼したが、町側から町は意見する立場にない」という回答があった。

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Source: HuffPost