09.01
「大人」になれないアメリカの若者。ライフスタイルと価値観の変化は大学のあり方を揺るがしている
アメリカの大学は9月の新学期まで長い夏休みである。
ダートマス大学に通う息子が一時帰国し、学生生活について話した際に驚いたことがあった。それは、大半の学生が酒を飲まないという事実である。彼の周囲にのみその傾向が見られるのか探ってみたところ、アメリカの若者の価値観が変化しているという調査結果を見つけた。
私はダートマス大学の国際理解のプログラムを監督する理事として、また、ダートマス日本同窓会の代表として多くの現役大学生と関わっている。私自身も日米の大学への留学経験もあり、現在も日本の大学院で教鞭を執っている。
日米両国の教育制度や若者の価値観に触れる中で、大学という場がいかに社会の変化に影響されるかを日々実感している。同時に、若者のライフスタイルと価値観の変化は、大学のあり方そのものを揺るがしているように感じる。
「大人になる節目」を迎えられていないアメリカの若者
イメージアメリカでは多くの州が18歳を成人と定めており、概ね18歳から21歳で選挙権、住居の契約など、様々な権利が与えられている。
そして、高校卒業と同時に自立する慣習があり、フルタイムの仕事に就くことや経済的に自立すること、一人暮らしを始めることなどが「大人になる」節目だといわれている。
ところが、米ピュー・リサーチ・センターの調査によると、2021年時点で21歳の若者のうち、フルタイムで働いているのは39%、経済的に自立しているのは25%に過ぎない。 さらに、18〜34歳の若者の約3分の1が親と同居しており、その主因は経済的な理由である。アメリカの親は子が成人を迎えた時に経済的な自立ややりがいのある仕事に就くことを重視する傾向があるものの、現実は私の認識とは違っていた。
しかも、そうした状況の背景には若者自身ではなく、社会の問題があるようだ。
10代の若者は夏休みのアルバイトを見つけるのにも苦労しているという。最近の報告書では、先行き不透明な経済状況とオートメーション化によって10代の若者の雇用が減少すると予測されており、このような社会では低所得層の若者の学費を稼ぐチャンスは失われているどころか、生活さえも圧迫されてしまうだろう。だからだろうか、10代の若者の多くは、将来のキャリア形成のためにインターンシップに積極的になっているという。
一方、日本の大学生は約半分が親と同居している。 国勢調査(2020年)によると、大学生を含む未婚の若年層(18〜24歳)の同居率は男女ともに約70%と高い。その背景には物価高騰などの経済状況の影響があるだろう。
揺らぐ大学教育の価値。教養からスキルの獲得へ

こうした変化は大学教育にも影響を与えている。
かつては「4年制大学に進学し、学位を取得すること」が成功への道とされていたが、今やその定説は揺らいでいる。デロイト・トーマツ・グループの調査(2025年)によれば、4年間の学位取得に価値があると考えるアメリカ人は、学生ローンがない場合は47%、ある場合を含めるとわずか22%にまで下がっていた。
若者の価値観の変化を受けてか、職業訓練や資格取得、修士と学士を「セット」で取得する加速学位プログラム など、より短期間で実践的なスキルを得られる選択肢が急増。同調査によると、アメリカでは過去10年間で職業訓練生の数が約2倍に増加しており、大学は従来の120単位制を見直し、企業や認定機関との連携を強化することで、学位取得の新たな道筋を模索している。
また、インターンシップやメンタリング、キャンパス内での就労機会など、体験の質を高める取り組みが信頼回復の鍵となっていた。
こうした流れの中でダートマス大学の取り組みも変化した。同大学は2025年、ミッションベースの予算配分(Mission-Based Budgeting)によって、大学の財政資源を戦略的目標に沿って再配分し、学生支援、地域貢献、STEM教育、メンタルヘルス対策など、社会的課題に対応する活動に投資している。 ダートマス大初の女性学長の下、大学での経験を充実させようと整備が進んでいる。
そして、日本でも2017年の学校教育法の改正 により専門職大学が設置され、現在は実務を主に学ぶ大学が19大学にまで増えた。取得単位の3割から4割が実習と定められていることから、スキル取得を重視していることが分かる。改正は1964年以来というから、約60年前とは日本も社会の価値観が変化しているということであろう。
大学は若者の価値観の変化に応えるべきか
社会のあり方は日米の若者の価値観に変化を与え、大学教育のあり方に直接的な影響を与えている。大学は人生の目的や価値観を創造する場ではないだろうか。そうだとすれば、今の時代に応えるだけでなく、次の時代を創造する力を養う場所であってほしいと期待する。
Source: HuffPost




