韓国で強まる性教育への「バックラッシュ」。ディープフェイクなどデジタル性犯罪が増える今だからこそ「包括的性教育」が重要なワケ
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韓国では近年、ディープフェイクなどを使ったデジタル性犯罪も急増しており、加害者の多くが10代の学生だったことも明らかになった。そんな中、性教育の重要性も再確認されている。
一方、性教育へのバックラッシュが強まっている現状もある。
包括的性教育を学べる公的な体験型センターには抗議や嫌がらせが相次ぎ、バックラッシュに伴い、性教育の現場では、内容や使用する用語にも規制が始まっている。
今、韓国で何が起きているのか。現地で取材した。

ソウル市庁舎前で、ソウル市の性教育政策の「後退」に抗議の声をあげる人々
韓国で起きている、性教育へのバックラッシュ
「性教育が政治的に利用され、バックラッシュが起きている」
そう話すのは、「市立Aha!青少年性文化センター」でセンター長を務めるイ・ミョンファさんだ。
「市立Aha!青少年性文化センター」は1999年の発足から26年間にわたり公的資金で運営され、若者たちに性やジェンダーについて伝えてきた。
児童・生徒が校外学習として訪れ、身体の成長から生殖器、生理用品、避妊、コンドームの使い方まで様々な角度から性について学べる施設は、韓国各地に57カ所ある。
これまでも保守政党に政権が交代する度に、予算を削減されたり、バックラッシュが強くなったりもしてきたが、子どもたちの学びの場を確保するためにもどうにか運営を継続してきた。
特に、Aha!をはじめとする、韓国各地にある青少年性文化センターは、市や区の予算など公的な資金を使って運営されているため、役所や市議会などに苦情の電話が入ったり、センターにも嫌がらせの連絡が来たりするという。

市立Aha!青少年性文化センターでセンター長を務めるイ・ミョンファさん
バックラッシュは10年ほど続いてきたというが、今問題となっているのが、バックラッシュに伴う、講義内容や使用する用語に対する「規制」だ。
「包括的性教育」では、生殖や身体の成長だけでなく、ジェンダー平等や人権、性の多様性、性交、避妊などについても学ぶ。
ジェンダーやセクシュアリティについても学ぶため、保守的キリスト教団体や反LGBTQを掲げる差別的な団体が「伝統的な家族観が崩壊する」というような理由で、「毎日のように苦情を入れてくる」という。
6月に行われた大統領選では、革新系の「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏が当選した。事態が改善されるかと思いきや、現状は厳しいという。
「韓国は現在、リベラル政権となっていますが、LGBTQをめぐる問題に関しては依然として社会は躊躇している状態と言えます。そして、保守的なキリスト教団体や保守政党などがこのテーマを政治的に利用しています」(イ・センター長)
Aha!青少年性文化センターはソウル市立であることからも、ソウル市議会などにも「なぜ同性愛を擁護するのか」「いやらしいことを教育するのか」と苦情が相次いでいる。
「性というと、いやらしいもの、みだらなものという印象がある人も多いですが、違います。センターは子どもたちが、ジェンダー平等や主体的な決定権について学ぶ場所です」
市が「LGBTQユース」などの言い換えを通達。予算減も
ソウル市は6月、市内に8カ所ある青少年性文化センターの運営において、「性的自己決定権」や「包括的性教育」という言葉を使わないこと、そして「LGBTQユース」を「社会的マイノリティ・弱者」、「恋愛関係」を「異性交際」と言い換えるよう文書で通達した。
ジェンダー・セクシュアリティについての学びを含むセンターでの包括的性教育を制限し、用いる用語からもセクシュアルマイノリティの存在を「消している」状況だ。
そのようなソウル市の性教育政策の「後退」に抗議の声もあがっている。
7月にはソウル市庁舎前で、LGBTQの支援団体などが集い、抗議の声をあげた。

ソウル市庁舎前で、ソウル市の性教育政策の「後退」に抗議の声をあげる人々
青少年性文化センターの運営は、自治体からの予算が運営費用に当てられているが、ここ数年、強まっているバックラッシュに伴い、予算も削減された。
これまでもバックラッシュに直面しながら、公的な施設として26年間、運営を続けてきたことを「誇りに思う」と話すイ・センター長は、今後も包括的性教育を続けていく中で「今、とても大事な時期にきている」と指摘した。
以前は学校でも、性感染症予防や避妊のためにコンドームの付け方を教えていたが、それもなくなり、性教育の出張授業を行う外部講師が学校側と調整して教えたり、青少年性文化センターで教えたりしている状況だ。
デジタル性犯罪の増加。だからこそ再確認される性教育の重要性
バックラッシュが顕在化する一方で、性教育の重要性が再確認される動きもある。
韓国では近年、「ディープフェイク」などを使ったデジタル性犯罪が急増しているためだ。
最近、問題となった、未成年を含む一般女性の写真をAIを使って偽画像に加工し、SNSアプリ「テレグラム」で拡散するデジタル性犯罪では、被害者だけでなく、加害者の多くも中高生や大学生だったことが明らかになっている。
ハンギョレ新聞の報道によると、ディープフェイクで作られた裸体写真などを拡散するテレブラムのチャンネルは、22万人が参加する大規模なものも確認された。
このチャンネルでは、写真2枚目までは無料で合成画像を生成し、その後有料になるなどの収益構造も確立されており、代金を払うかわりに友人を招待すれば生成を続けられるなど、悪質な構造も明らかになっている。

イメージ写真
イ・センター長は「このリンクをクリックするとゲームマネーやお金がもらえる。クラスの女子生徒の写真を送ったら10万ウォン(約1万円に相当)を送ると言われ、気軽に参加してしまうケースも少なくない」と話す。
Aha!青少年性文化センターでも、青少年にヒアリングをしてデジタル性暴力を予防するためのプログラムを開発。ディープフェイク事件では、直接的な加害者は少年院に収容されたが、収容まで至らなかった少年たちはセンターでプログラムを受講したという。
「男性中心のデジタル性犯罪コミュニティに参加し、親や学校がそのことを発見してセンターに相談が来ることも。現在は、そのようなコミュニティだけでなく、オンライン上で偏向したアルゴリズムの中で性の知識を得て、現実社会でもその知識を元に判断してしまう傾向もあります。それが男女間の性をめぐる意識に格差を生んでいるともいえます」
問題が深刻化する今だからこそ、「幼少期からきちんとした性教育を受けることが大切」とイ・センター長は指摘する。
包括的性教育へのバックラッシュ「どう乗り越えるか」

ジェンダー教育プラットフォーム・ヒョジェのローリー・ジュヒ院長
ジェンダー教育プラットフォーム・ヒョジェのローリー・ジュヒ院長も、「今こそ包括的性教育を学ぶことが大切だ」と指摘する。
ジュヒさんは、これまで、延世大学などで教鞭を取り、ソウル市ジェンダー平等活動支援院のセンター長を務め、ジェンダー・性教育の普及に尽力してきた人物だ。
バックラッシュについては「以前からあったが、今は過去と違って形を変えている」と指摘。
実際に、バックラッシュの影響で、性教育の中で扱える内容や使える言葉に制限が出てきていることからも、「ここ数年のバックラッシュは一気に転覆させるような戦略」だと危機感を募らせた。
「現在は、大きなバックラッシュに直面しているが、今をどう乗り越えるかにかかっている」と話している。
(取材・文=冨田すみれ子)
ハフポスト日本版は、国際NGO「プラン・インターナショナル」による「SRHR for JAPAN」キャンペーンの一環として、韓国での取材ツアーに参加しました。執筆・編集は独自に行っています。
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Source: HuffPost