08.23
大ヒット家電「ゴリラのひとつかみ」は失敗から生まれた?シリーズ累計100万台突破。担当者が明かす開発背景
コロナ禍以降、コンパクトなヘルスケア家電の市場は成長を続けている。在宅ワークの疲れを癒すため、ハンドガンのマッサージ機がトレンドとなり、首や肩のこりを和らげるネックマッサージャーも登場した。
コンパクトなヘルスケア家電は、1万円以内で購入できる「価格のお手頃さ」を打ち出した商品が多い。成長市場ではあるものの、機能の差別化が難しく、レッドオーシャンになりつつあるのも事実だ。
しかし、ニッチな性能とブランディングを武器に大ヒットした商品がある。2024年2月に誕生した、ふくらはぎのケアアイテム「ゴリラのひとつかみ」だ。
「まるでゴリラにつかまれるようなハイパワー」で足をほぐすというコンセプトで、クセになる“痛気持ちよさ”がSNSで話題に。キャッチーな名称も相まり、販売開始からわずか1年でシリーズ累計100万台を突破。25年には「ゴリラのふたつかみ」という太ももに特化したアイテムも登場し、シリーズ化が進んでいる。
商品が生まれた背景について、開発を担当したドウシシャの水島英恵(みずしま・はなえ)さんに話を聞いた。
大ヒットを記録した「ゴリラのひとつかみ」「ニッチな商品」に強みがあるドウシシャ
ドウシシャはニッチな商品開発でバズ商品を生み出してきた企業だ。
16年に販売を開始した「電動ふわふわ とろ雪かき氷器」は、同社の代表製品のひとつ。「2万台売れればヒット」とされるかき氷機の市場で、初年度から10万台の売り上げを記録した。22年には100万台を突破し、現在もリニューアルして販売を続けている。
また、17年に販売した「焼き芋メーカー」も10万台を突破したヒットアイテム。さつまいもをプレートに挟んで待つだけで、ホクホクの焼き芋が出来上がるというものだ。
このように、ニッチな市場で存在感を発揮する同社は、3つの強みを持っている。「ゴリラのひとつかみ」の開発においても、その強みが発揮された。
一つ目が「商品のおもしろさ」を重視する企業文化だ。小型の生活家電は海外メーカーの参入も多く、価格勝負になりやすい。価格勝負から抜け出すには、機能やブランド力など付加価値が必要だ。同社はその付加価値を「おもしろさ」に置いている。
「商品開発の会議では『もっとおもしろくできないの?』という会話がよく交わされます。ある意味、口コミを生み出しやすい商品を出していると言えるかもしれないです」
二つ目がニッチな市場を見つけるマーケティング力。たとえ面白い企画であっても、市場が小さければヒットせず、売り上げにつながらない。
「ゴリラのひとつかみ」も市場調査からスタートした。まず、健康家電という成長市場を狙い、さらに需要のある商品がないか部位ごとに調査したという。
その結果、既存の商品では、肩や腰、背中など凝りやすい部位に使用するものが多く、ふくらはぎに特化した商品が少ないことが分かった。そこで「ふくらはぎに特化したケアアイテム」の開発を決断したそうだ。
三つ目は、担当者の裁量の大きさだ。「ふくらはぎに特化したケアアイテム」の開発担当者に抜擢されたのは、入社2年目の水島さん。水島さんは自身でマーケティングを進め、企画を練り、試作を繰り返し、商品化にこぎつけたという。
操作パネルで弱・中・強をパワーを切り替えられる「着圧ソックス」の市場で勝負した理由
「おもしろい商品」を作る文化のあるドウシシャだが、商品開発には担当者の存在が欠かせない。「ゴリラのひとつかみ」が生まれた背景には、水島さんの視点や考え方が大きく影響している。
水島さんはまず、20代〜30代の女性をターゲットに定めた。この層の「ふくらはぎのケア」の需要を調査すると、着圧ソックスでケアしていると判明した。
着圧ソックスを使用している層に購入してもらえば一定の販売数は見込める。しかし、販売価格がネックになった。
着圧ソックスの価格は約3000円。一方、他社が販売しているフットマッサージャーなどのケアアイテムは約2〜3万円だ。3000円の商品を購入している人にとって、2〜3万円の価格帯は手を出しにくい。
そこで、水島さんは価格を抑えるために機能を最小限にすることを決めた。両足ではなく、片足ずつ使用する商品にして、コードレスではなく有線式に。これで5000円台まで価格を下げることができたという。
失敗から生まれた「ゴリラのひとつかみ」
「ふくらはぎのケアアイテム」の大まかな仕様は決まった。しかし、この時点では「強すぎるケアアイテム」というコンセプトはない。「ふくらはぎのケアアイテム」はどのようにして「ゴリラのひとつかみ」へ進化したのだろうか。
水島さんによると、試作品の失敗がきっかけだったという。
「自分で使ってみたら痛さを感じました。ただ使用した後、クセにになるスッキリ感があったんですよね。『商品化したらおもしろいかも』『握る力が強いと言えばゴリラだな』と思い、「ゴリラのひとつかみ」が生まれました」
しかし、社内の会議では試作品に対する肯定的な反応は得られなかった。当時、ドウシシャは健康家電に対するブランドを築けていなかったためだ。販売を担当する部署から「販売するのは難しい」と言われた。
それでも商品化を諦めきれなかった水島さんは、営業担当者に1社だけ商談の同行を依頼する。商談先は小売チェーン店で、担当者は健康家電について熟知したベテランだ。
この商談が大きな転機となる。
商品を取り出し、「ゴリラのひとつかみ」の説明をすると「これは面白い!」という反応が返ってきたのだ。「数百個売れれば」と期待していたところ、数千個単位の受注の獲得に成功。ここから一気に風向きが変わったという。「販売例ができたおかげで、少しずつ商談先も増えていきましたね」と振り返る。
さらに、発売開始から2週間ほど経った24年2月にヒットにつながるきっかけが訪れる。ガジェットや文房具の情報を発信しているアカウントがXに「ゴリラのひとつかみ」のレビューをポストすると、7.3万いいねが集まった。このバズにより、ECサイトの在庫が一気になくなったそうだ。
「どんどん売れていって、2024年の間は在庫の確保に苦戦しました。いまは在庫状況も安定していますが、予想外のヒットでしたね」
取付目印をひざの裏側に合わせて巻くだけで、簡単に装着できる愛されるブランドづくりに取り組む
ゴリラのひとつかみは一過性のヒット商品にとどまらない。商品のシンボルであるゴリラを活かして、シリーズ化に乗り出している。24年から25年にかけてケアアイテムは5種類、日用雑貨などのスピンオフ商品は3種類を販売。ヒット商品からヒットブランドに成長させることを狙っている。
◯ケアアイテム(一部)
足ツボをマッサージする「ゴリラのひとつき」
ゴリラのひとつかみのパワーが上昇した「スーパーゴリラのひとつかみ」
◯日用雑貨(一部)
2キロの重量があるジョッキ「ゴリラのひとくち」
UHA味覚糖とタイアップしたグミ「ゴリラのひとかみ」
パワーが上昇した「スーパーゴリラのひとつかみ」(右)と足ツボをほぐす「ゴリラのひとつき」(左)商品の背景にはストーリーが設定されている。例えば、「ゴリラのひとつかみ」や「ゴリラのひとつき」など、ケアアイテムのゴリラは真面目な整体師。しかし、まじめが度をすぎて力むと「スーパーゴリラ」に変身するそうだ。
一方で、ジョッキなどに描かれているゴリラはその弟。職業を転々としていて奇想天外な自由人という性格だ。このように、「おもしろい」世界観を設定し、親しみやすいブランドを作り上げている。「おもしろさ」と「ストーリー」を駆使して世界観を作ることにより、家電のコンテンツ化に成功したと言えるだろう。
現在、ゴリラシリーズを手がける開発体制はチーム化が進んでいる。今後はどのような「おもしろい」商品が登場するのだろうか。その未来に期待したい。
(取材・文/中 たんぺい、編集/荘司結有)
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Source: HuffPost




