08.01
「私たちは危機に瀕している」気候変動の影響の最前線に立つフィリピン。激甚化する災害で多くの死者。「国際社会に向け強く発言すべき」
7月にフィリピンを襲った台風6号(ウィパー)の影響で、マニラで発生した洪水の中を泳ぐ人々と救助隊。写真は7月21日撮影。アジア各国での気候変動をめぐる動きは今、どのような状況…?
ヨーロッパ諸国では先進的な気候変動対策が行われているという印象が強い一方で、日本の周りのアジア各国ではどのような対策が取られているのでしょうか。
ハフポスト日本版は、韓国、台湾、フィリピンの専門家や弁護士、気候活動家に、気候変動をめぐる人々の関心や教育現場、政治分野での「今」について、共通の質問を聞きました。
日本との類似点や、日本が見習える点も多くあるのでは…?
そんな思いで第1弾は韓国の団体代表、第2弾では台湾の専門家を取材。
第3弾では、フィリピンのシンクタンク「CEED(Center for Energy, Ecology, and Development)」でエネルギー・気候プログラム責任者を務めるクリシュナ・アリオラさんに話を聞きました。
【インタビュー第1弾:韓国】猛暑や台風が韓国でも深刻化→気候変動への関心高まる。若者は「気候訴訟」で声上げ違憲判断も
クリシュナ・アリオラさん:フィリピン中部のネグロスオクシデンタル州出身の環境保護活動家。セイント・ラサール・バコロド大学卒業。シンクタンク「CEED(Center for Energy, Ecology, and Development)」でエネルギー・気候プログラム責任者を務める。若者による草の根環境保護団体「Youth for Climate Hope」の創設コーディネーターの一人。化石燃料の段階的廃止や再生可能エネルギーの導入などを軸に活動。気候変動の影響の最前線に立つ人々。激甚化する災害で多くの死者も
──フィリピンの民間調査会社「ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)の調査では、回答者の87%が「過去3年間で、気候変動の影響を経験した」という結果が出ています。人々の気候変動に対する関心は高まっていますか。
フィリピンでは、気候変動の影響で激甚化する豪雨や台風、干ばつなどで、人々の生活は大きな打撃を受けています。
気候変動は、グローバルサウスの国々を直撃します。フィリピンの人々は気候変動の影響の最前線に立っているとも言えます。激甚化する災害の影響で、多くの人々が命を落としています。
気候変動の影響を肌で感じている一方で、フィリピンでは気候変動という概念自体は比較的新しいと言えると思います。
気候変動の影響は多岐に渡り、農業や食糧、海洋生態系への影響やその変化と気候変動の関係性を理解することは少し難しいのかもしれません。
災害の激甚化と気候変動を関連付ける報道も増え、環境団体も発信を続けているため、関連性についての理解は進んでいると思います。
社会全体での関心は少しずつ高まる一方で、格差社会の中では、最も甚大な被害を受けている人たちにはそのような情報が届いていないとも言えると思います。
「影響を受けるのは若い世代なのに、気候変動について学ぶ機会は十分にない」
写真が撮影された3月3日には、マニラ首都圏の約半数の学校が猛暑により休校となった。──フィリピンでは大半の学校にクーラーの設置がされていないため、夏には猛暑により多くの学校が休校にせざるをえないという状況が頻発していますよね。温暖化の影響が教育の機会も奪っている状況ですが、教育現場では、気候変動に関してどのような授業が行われていますか。
はい。おそらくフィリピン人が「気候変動」という言葉を聞いてまず思い浮かべるのは、耐え難い暑さだと思います。
世界でも気候変動の影響を最も受けている国の一つであるにも関わらず、教育機関での気候変動についての授業は十分ではありません。
環境NPOやNGOの出張授業があるなど、以前と比べ改善の兆しはあるものの、カリキュラムに組み込まれた充実した授業はないのが現状です。出張授業も、大学がメインです。
学校によっては、環境団体によるドキュメンタリー映画の上映や環境をテーマにした演劇の観覧など、生徒が関心を持ちやすい方法での学習を導入している教育機関もありますが、多くはありません。
私には高校生と大学生の妹がいますが、残念ながら授業で気候変動について詳しく教わることはないようです。
これから気候変動の影響がさらに激甚化する中で、将来に渡って最も影響を受けるのは若い世代であるのに、気候変動について学ぶ機会は十分にありません。
──若者の気候変動をめぐる活動への参加は増えていますか。
フィリピンでは市民活動が非常に活発です。気候変動に関心を持つ多くの若者が抗議活動などに参加し、その動きは広がっていっていると感じています。
私も創設コーディネーターの一人なのですが、若者による草の根の環境保護団体「Youth for Climate Hope」も活動の場を広げています。
学生時代に活動を始め、卒業後に環境団体などに就職する人もいます。
石炭火力発電への反対運動から海洋汚染、プラスチック問題、マングローブの保全活動など、幅広い分野で若者たちが活躍しています。
一方で、環境活動家の殺害などの問題も深刻です。
化石燃料の段階的廃止や再生可能エネルギーの導入などを訴える抗議活動。報道や専門記者の少なさが顕著。エネルギー関連会社の広告主との関係も
──メディアでの気候変動に関する報道は過去5年で増えていると感じますか。
フィリピンでは環境団体など市民の活動が活発なのに対し、それらの抗議活動などに対する報道も少なく、気候変動についてのニュース自体、報道量が少ないと言えます。気候変動や環境問題を専門とする記者の少なさも顕著です。
毎年、台風や洪水で多くの死者が出るフィリピンでは、各社、災害報道には力を入れています。
以前に比べると災害の激甚化と気候変動を関連付ける報道も増えてきましたが、やはり関連性についての報道は少ないようにも思います。
気候変動への対策などについての報道も増加してきてはいますが、環境団体などが声をあげてきた結果とも言えると感じます。
ドゥテルテ前政権では、メディアの弾圧があり、国内最大のテレビ局は閉鎖に追い込まれました。報道の自由も危機にあり、メディアの体力自体が落ちているとも言えます。
メディア経営の柱となるのが広告収入ですが、広告主との関係が、気候変動報道の少なさと大きく関わっていると考えます。
フィリピンでは、多くの権力者が化石燃料・エネルギー関連の大企業を保有していて、それらの権力者はメディアにも大きな影響力を持っています。
特定のメディアでは、石炭火力発電所の問題が指摘されてもニュースにはならないというような状態も見受けられるほどです。
「利益より、人々や地球を優先せよ」との横断幕を掲げ抗議をする人々。──そのような状況の中で、環境団体はどのように情報を発信していますか。
フィリピンでは、FacebookやInstagramが活発に使われているので、環境団体もそれらのSNSでの情報発信に力を入れています。
しかし、SNS自体のアルゴリズムの変更などで、以前と比べると無関心層に情報を届けるのが難しくなっているようにも感じています。
同じような意見を持った人のみに届き、同様の反応が返ってくる「エコーチェンバー現象」になってしまう懸念もありますが、それでも少しでも多くの人に届けばと発信を継続することにも意義はあると思います。
「私たちは危機に瀕している。1.5度の目標があり、期限がある」
──選挙では討論会や公約で気候変動について言及されることはありますか。
各国では、選挙の候補者討論会などで気候変動がテーマになることもありますが、残念ながらフィリピンではそのような動きはあまり見られません。
5月にあった中間選挙では、マルコス大統領とドゥテルテ副大統領の両家の派閥の対立に注目が集まりました。
気候変動のような本質的な問題は蔑ろにされ、政治の対立がセンセーショナルに語られている印象です。
──政府の気候変動対策の動向は。
マルコス政権は再生可能エネルギーの導入に力をいれると強調していますが、政府は液化天然ガス(LNG)発電所の建設にも力を入れているため、環境団体はマルコス政権のエネルギー政策を支持していません。
さらに、政府は再生可能エネルギーの発電比率を2030年までに35%、2040年までに50%にするとの目標を掲げていますが、それらの数値は低すぎます。パリ協定で定められた1.5度目標とも合致しません。
政府の気候変動対策は「口だけ」と受け止められるような政策も多く、人々は気候変動の影響を受けて苦しんでいるというのに、対策が追いついていない現状があります。
環境天然資源省やその下部組織の環境管理局、気候変動委員会などには、気候変動対策に真剣に向き合う人々も多くいますが、それらの省庁には他と比較すると予算が少ないという実情もあります。
政治家や官僚も富裕層出身のことが多く、フィリピンのような格差社会では、実際に貧困層が受けている気候変動の影響による被害や現状を知らない政治家が多すぎると感じます。
環境団体や市民がエネルギーシフトの重要性を呼びかけても、実際に被害や影響を受けていない多くの政治家にとっては、目標値などはただの数字にしかすぎず、市民の声の重さを感じていないのだと思います。
そのような背景からも、弱い立場に置かれ、権利や機会を十分に受けられていないコミュニティーから、政治家を輩出する大切さを感じます。
少数民族の若者らも参加した、気候変動対策をめぐる抗議活動私たちは危機に瀕しています。私たちには1.5度の目標があり、期限があります。地球上の全員が協力して取り組む必要があるのです。特に、私たちはその打撃を受けている国なのですから、政府は国際会議などの場で各国に向けてもっと強く発言すべきだと思います。なぜなら、打撃を受けている私たちの声には、重みがあるからです。
私が2023年、アラブ首長国連邦で開催された「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」に参加した時には、太平洋、カリブ、アフリカ地域などの小さな島で国土が構成される発展途上国がつくる小島嶼国連合(AOSIS)の会議で、まさにそれを痛感しました。
海面上昇の影響を受け国土が沈みゆく太平洋諸島の人々が現状を語り、声を上げたことは、会場内にいた多くの人の心に届きました。被害を受ける人々の言葉には影響力があります。
抗議活動でスピーチをするアリオラさんフィリピン政治の優先課題は、貧困や物価高、公共交通機関の建設、輸出入などだと考えられていますが、気候変動の影響は経済や農業、漁業をはじめとするすべてに関わってきます。気候変動を優先課題に入れなければ、政府が優先課題とするすべての問題にも影響が出てくるのです。
もちろん、先進国が歴史的にも多くの温室効果ガスを排出し、グローバルサウスの国々が気候変動の影響を受けるという不均衡は存在し、先進国は排出量削減に努めなければなりません。
だからといって、それはグローバルサウスの国々が排出量削減の責任を放棄する理由にはなりませんし、私たちも1.5度目標に向けて対策をする必要があります。
(取材・文=冨田すみれ子)
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Source: HuffPost




