07.06
日本初「酵母」由来のミルクとは?開発背景に「牛乳アレルギー」のある親子の苦労。CFで予定額の7倍を突破
【あわせて読みたい】ニトリの「解凍プレート付きまな板」が半年で21万個突破!⇒一台四役と「万能の一言」。開発秘話を聞いた<レビュー>
アサヒグループジャパンは、日本初となる酵母由来の非動物性ミルク「LIKE MILK(ライクミルク)」を開発した。
長年のビール製造で培った酵母技術を活かし、牛乳や大豆など食物アレルギーの原因となりやすい原材料を使わず、クセのないミルクのようなまろやかな味わいを実現した。
製品開発の背景には、乳アレルギーを克服しようとする子どもの姿があったという。開発に携わったアサヒグループジャパン Future Creation Headquartersの畠徳望博さん、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ 酵母アプリケーションセンター長の乙志昇さんに取材した。
開発に携わった畠徳望博さん(右)と乙志昇さん牛乳アレルギーのある親子の苦労とは
開発のきっかけは、2023年、新規事業創出を図るために発足したアサヒグループ横断のチームが「食物アレルギー」に着目したことだった。
グループの一員である畠さんらは同年秋、大阪府大阪狭山市の食物アレルギー・アトピーサークルが主催する「第1回こどもアレルギー学会」に参加。そこで、乳と卵のアレルギーを克服しようと頑張る当時9歳の子の発表に心を動かされたという。
「山口県に住むその女の子は、月に1回、新幹線で大阪の病院へと通い、医師の管理のもとにアレルギー食材を食べて症状を観察する『経口負荷試験』を受けていました。食べた直後に蕁麻疹が出たり、場合によってはアナフィラキシーショックが起きたりする可能性もある試験を経て、彼女は牛乳を5ミリ飲めるようになったそうです。彼女の勇敢さとご家族も含めた懸命な努力、そしてその頑張りを立派に報告する姿を見て、思わず涙がこぼれました」
食物アレルギーは年々増加傾向にあり、その原因物質の約20%が「乳」だ。
「牛乳はシチューやグラタン、アイスクリームなどさまざまな食べ物に含まれているため食事の制限が多く、毎日の献立に悩む親も少なくありません。また、幼少期にアレルギー反応を起こした人の中には、飲めるようになっても乳を使った“白い食べ物”を忌避するケースもあるそうです。そこで、そのまま飲んでも美味しく、料理にも使える“ミルクの代わりになるもの”を作ろうと考えました」
「ビール酵母」の活用で培った技術を応用
研究開発を担う「アサヒクオリティーアンドイノベーションズ」では、乙志さんらが特定アレルゲン28品目を含まないことに加え、環境負荷低減やノンアニマルなどをコンセプトにした、酵母由来のミルクに似た飲料を開発する基礎研究を進めていた。
アサヒグループは1930年代から、主力事業のビール製造で余った「ビール酵母」に含まれるタンパク質やビタミンなどの栄養素に着目し、有効活用をスタート。乾燥酵母を使った胃腸・栄養補給薬「エビオス錠」や、酵母を殻のように覆う「酵母細胞壁」を使った健康食品などを手掛けてきた。
「2030年以降、世界的な人口増加や環境問題により、タンパク質を含む食材の需要と供給のバランスが崩れ始めると言われています。こうした社会課題の解決のために、次なるミッションとして、長年の飲料製造のノウハウと酵母の技術を活かした『ミルク』に挑戦しようと決めていたのです」(乙志さん)
こうしてグループ内の歯車が噛み合い、酵母由来のミルク開発は前進した。
ただ、ターゲットを乳アレルギーに悩む人々だけに絞ると市場は狭く、販路や売り場は限られてしまう。実際、アレルギー専用食品の価格の高さに悩む親も少なくないという。
他の需要を探ったところ、ビーガンや動物愛護の観点から動物性原料を控える人、また牛乳に比べて脂質が低く、栄養素が豊富なことから栄養不足を気にするシニア層や、トレーニング愛好家にも刺さることがわかったという。
「LIKE MILKは、アレルギーの有無や思想、嗜好を問わず『誰もが自由に食を楽しめるものを提供したい』というコンセプトのもと、開発を進めていきました」(畠さん)
完成した「LIKE MILK」。1000ml、200mlの2サイズ展開だ牛乳のような味わいと豊富な栄養素
乙志さん自身も重度の食物アレルギー患者。幼少期に経口負荷試験を経験し、今でも卵などは抗アレルギー薬を摂取した上で食べているという。
「市場にはミルクのような商品は色々とありますが、味が似ていなかったり、栄養分が足りなかったりするものが大半です。今回は、味わいも栄養素も“ミルクに似ている”ものを目指しました」(乙志さん)
完成した「LIKE MILK」は、培養酵母のうち酵母細胞壁を、アサヒ独自の技術による処理で乳化作用を高め、トロッとしたミルクのようなテクスチャー(食感)を実現させたもの。そして独自の調味・調香により、牛乳のようなほんのりとした自然な甘みやコク、まろやかさを引き出した。
特筆すべきは、アレルギー特定原材料28品目を使っておらず、乳アレルギーがある人でも安心して飲める設計になっていること。料理やお菓子づくり、コーヒーに混ぜるなど、牛乳と同じように活用できる。
栄養成分にも注目だ。乳アレルギーで牛乳・乳製品が食べられない人は、タンパク質やカルシウムが不足しやすい。また、ビーガンの人は動物性食品を摂らないため、亜鉛が不足しがちだと言われている。
「LIKE MILK」は、カルシウムとタンパク質が牛乳と同程度含まれている一方、脂質は牛乳より約38%抑えられている。また、亜鉛は牛乳の2.5倍、食物繊維は豆乳より豊富に含んでいるという。乳糖を含んでいないため、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロ鳴る「乳糖不耐症」の人も飲みやすいだろう。
さらに、常温で6ヶ月保存可能。災害時はアレルギー対応食品は手に入りにくい状況となるため、日頃からローリングストックしておくのもおすすめだ。
テスト販売で大反響。実際に飲んでみると…
今年4月、200mlの商品をクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行テスト販売。すると目標金額の30万円を1日で達成し、5日で100万円、最終的な応援購入総額は220万円を超えた。
「乳製品の代替として新たな選択肢の提案をありがとうございます」
「本物のミルクのように手軽にカルシウムを摂取できるところに惹かれました」「子どもたちに乳製品アレルギーがあるのでこのような製品を待ち望んでいました」
サイトには、アレルギーの子を持つ親から多くのコメントが寄せられている。また、同月に都内で行われた「ビーガングルメ祭り」では約1400人が試飲して、8割が「おいしい」と評価したという。
普段は牛乳を飲んでいる筆者も、LIKE MILKを試飲した。酵母本来の色のため、液体はやや茶色め。飲んでみると、牛乳のようなコクがありながらあっさりとした味わいだ。独特のプラント臭がないため、豆乳やオーツミルクが苦手な人でも飲みやすいだろう。
LIKE MILKは酵母由来のためやや茶色め。飲んでみると、牛乳のようなコクがありながらあっさりとした味わいだ。今年秋には1000mlの商品をテスト販売する予定。畠さんは「現状ではまだ大量生産はできないので、この商品を渇望している人に丁寧に届けていきたい」と語る。
今後は、フードダイバーシティブランド「LIKE」として、第二弾の製品開発も検討しているという。アレルギーに悩む人々へのソリューションの提供、そして食の多様性への挑戦に期待したい。
「LIKE MILK」は以下のイベントで試飲することができる。
7月26日(土)午前11時~午後7時、27日(日)午前10時~午後6時 キッチンカーにて販売@豊洲公園
7月27日(日) 午前10時~午後4時 アクロスdeサマーフェスタ@大阪府 大東市立生涯学習センター アクロス
Source: HuffPost




