2025
07.04

英・ダガー賞受賞「ババヤガの夜」王谷晶「他人の曖昧さを認めることが世の中をよりよくすると信じている」【スピーチ全文】

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『ババヤガの夜』王谷晶(河出文庫)『ババヤガの夜』王谷晶(河出文庫)

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作家・王谷晶(おうたに・あきら)さんの小説『ババヤガの夜』(河出書房新社)が、世界最高峰のミステリー文学賞「ダガー賞〈翻訳部門〉」を受賞した。日本の作品として初の快挙となる。

国境を越えて称賛されたこの“異色のシスターハードボイルド”は、血と絆、そして暴力の中に見出す人間の曖昧さを鮮烈に描き出す。

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ダガー賞とは?

「ダガー賞(Dagger Awards)」は、1955年に創設された英国推理作家協会(The Crime Writers’ Association:CWA)が主催する文学賞で、世界で最も権威あるミステリー賞のひとつ。毎年、スリラー、ノンフィクション、デビュー作、翻訳作品など多岐にわたる部門で選出され、世界中の読者と出版社の注目を集めている。

今回、王谷さんが受賞した「翻訳部門」は、英語以外の言語で書かれた優れたミステリー・犯罪小説を称えるもので、グローバルな文学交流の架け橋ともなっている。

『ババヤガの夜』とは?

主人公は、唯一の趣味が「暴力」という女性・新道依子。彼女はその腕を買われ、暴力団会長の一人娘を護衛することになる。理屈無用、拳で語るアウトローな依子と、抗争に巻き込まれるお嬢様…、相容れぬはずの二人の関係が、奇妙な絆へと変化していく。

王谷晶さんによる小説で、2020年「文藝」秋季号の特集「覚醒するシスターフッド」で発表され、同年単行本化された。女性同士のバディもの、ハードボイルド、社会派、青春小説という要素が混じり合う、ジャンルを超えた作品。濃厚な暴力描写とともに、人間関係の曖昧さ、ラベリング不能な「関係」を真正面から描き、国境を超えて読者の心を掴んだ。

王谷晶さん スピーチ全文(ダガー賞授賞式より)

まずは審査員の皆さん、この国で私の本を出版してくださったFaber&Faber、アメリカで最初の英語版を出してくれたSoho Press、タトル・モリ エイジェンシー、印刷製本、流通、販売してくださった皆さん、そしてこの本を手に取って大切な時間を使ってくれた読者の皆さんに大きな感謝を捧げます。

今は、とにかく驚いています。完全に混乱しています。「モンティ・パイソン」のスケッチに出ている気分です。昨夜は「フォルティ・タワーズ」みたいな素敵なホテルに泊まりましたし。

何より感謝したいのは、翻訳のサム・ベットさんです。この本は日本のローカルな要素がたくさんあります。サムさんはそういった作品の細やかな部分をひとつひとつ大切にしてくれて、そのうえで素晴らしい英訳を作り上げてくれました。本当にありがとうございます。

私はミステリ専門の作家ではありません。様々な種類の作品を書きます。日本では作品と作家は細かくジャンル分けされているので、私は曖昧な作家と思われています。曖昧であることは私の作家としてのテーマそのものです。自分の曖昧さを受け入れ、他人の曖昧さを認めることが世の中をよりよくすると信じています。

この作品の主人公たちも、はっきりとラベリングできない関係と人生を手に入れます。これは何よりも私が読みたかった要素です。

同時にこれはバイオレンス満載の物語でもあります。ここにお集まりの皆さんは私と同じく血や殺人や犯罪や、復讐や暴力が大好きな方々だと思います。もちろんフィクションの。

私はバイオレンスフィクションの愛好家ほど、よりさらに現実世界の平和を願い行動しなければいけないと思っています。リアルの暴力が溢れている世界では、フィクションの暴力は生きていけません。歴史が物語っています。

これからも首無し死体やパーティでの毒殺を楽しむためにも、今回頂いた栄誉を、世界の平和のために少しでも役立てたいと思います。Thank you.   

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Source: HuffPost