2025
07.04

女性に「産め、産め」と主張する政治家に見えていない問題がある

国際ニュースまとめ

アメリカのトランプ大統領(2025年6月26日)アメリカのトランプ大統領(2025年6月26日)

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トランプ政権は、アメリカ人にもっと子どもを生むよう求めている。そのために、5000ドルの「ベビーボーナス」や、2025〜2029年の間に生まれた子どもを対象にした1000ドルの非課税投資口座などの案を提案している。

まるで突然ゲームのモノポリーが始まったかのようだ――「赤ちゃんを産んで、スタート地点を出発して、現金をゲット!」

政権は、出生率の低下で労働人口が縮小し、高齢化社会が進む中で経済が不安定になり、社会保障制度の負担が増えることを懸念している。

しかし、子どもを育てるにはお金が必要だ。ブルッキングス研究所によると、中間所得の家庭が2人の子どもを育てる場合、17歳になるまでにかかる費用は1人あたり31万605ドル(約4465万円)と考えられている。

さらに、アメリカは他の先進国と比べ、母体罹患率(妊産婦が疾患にかかる率)が高い。

一部の州では、中絶禁止の法律が施行されてから死者数が増加している。ジェンダー政策平等研究所によると、テキサス州では妊産婦の死亡率が56%急増した。白人女性は、死亡率が10万人あたり20人から39.1人とほぼ倍増し、もともとリスクの高かった黒人女性では31.6人から43.6人になった。

母親だけではなく、赤ちゃんも出産時に命の危険がある。私は合併症などなく出産したものの、2人目の子どもはVACTERL症候群という複数の身体の器官に異常が発生する先天性疾患を持って生まれ、命を落とす危険があった。

アメリカでは、33人に1人の赤ちゃんが何らかの先天性疾患を持って生まれている。先天性疾患で亡くなる赤ちゃんは5人に1人で、乳児の最大の死因になっている。

人種間の格差は、乳児の死亡率でも存在する。KFF(カイザー・ファミリー財団)によれと、黒人の乳児は、他の人種の親から生まれた乳児と比べて、死亡率が2倍以上高い

子どもを産んで直面した破産の恐怖

VACTERL症候群は希少難病で、アメリカでは患者数は20万人未満だ。しかし、希少疾患は、言葉で表現されているほど「まれ」ではない。アメリカでは、推定2500万〜3000万人が何らかの希少疾患を抱えているとされている。

たとえば、出生時に腸がお腹の外に出ている状態で生まれる「腹壁破裂」のような先天性疾患は、若年の母親の出産でのリスクが高いと言われている。

難病を抱えた子どもの子育ては、破産の恐怖と隣りあわせだ。

子どもが生まれた後、私はコネチカット州グリニッジの病院から退院できなかった。生まれたばかりの子は、手術を受けるために救急車でニューヨーク市の病院に搬送された。

2011年に生まれた直後の筆者の子どもの写真。この時には難病を抱えていることには気づかなかったという。2011年に生まれた直後の筆者の子どもの写真。この時には難病を抱えていることには気づかなかったという。

私は激しいショックを受けたが、それでも私たち家族は運が良かった。子どもは一命を取りとめた。私の配偶者は仕事で保険に入っていたため、子どもは必要な緊急手術と継続的な治療を受けられた。それでも、生後100日間で受けた3回の手術にかかった自己負担の医療費は、月に1万ドル(約140万円)にも達した。

赤ちゃんの目を見つめる代わりに、私たちは破産の影がちらつく暗く底知れぬ深い穴を見なければならなかった。授乳や搾乳、重い病気を抱えた赤ちゃんと上の子の世話をしながら、私は夜も眠れず、健康保険を失う恐怖に震えていた。

私たちはそうやって最初の1年をかろうじて乗り越えられた。しかし、乗り越えられない人たちもいる。

高額な保険料やデダクティブル(保険会社が保険料を支払う前に、被保険者が負担しなければいけない医療費)のせいで、多くの、もしくはほとんどのアメリカ人にとって、健康保険は手の届かない存在になっている。KFFによると、アメリカの成人の41%が医療費による借金を抱えている。

医療保険に加入していない人々、あるいは加入している人でさえ、事故や不運な出来事が一度でも起きれば、破産の危機に直面する。それが現実だ。医療制度の不平等は、富裕層と貧困層の格差をますます広げている。

アメリカ進歩センターによると、連邦議会の共和党議員がメディケイド(低所得者向け医療保険)の予算削減や、オバマケア(ACA:医療費負担適正化法)の税控除廃止を計画していることで、保険市場の保険料が年間で数千ドルも上昇する可能性がある。

もし共和党がオバマケアをなくせば、私の子どものように基礎疾患のある人々は、保険そのものを拒否される恐れすらある。

トランプ政権は、助けを必要とするのは怠け者だ、必要な分は自分で稼げ、という考えを示唆している。

しかし実際には、多くの女性や家庭が必死に努力している。それでも限界があるのだ。若い家族には子どもを持つ余裕がないのに、保守派は女性たちに子どもを産むよう強く求める。

バイデン政権が学生ローンを免除した時、「エリート主義的だ」と批判された。しかし実際には、学生ローン、特に高額の負債は、女性が子どもを産む時期を遅らせる大きな要因になっている。

私が「子どもを持たない選択肢もある」と言うのは簡単だろう。すでに2人の子どもがいて、どちらも成人に近い年齢になっている。しかし、女性たちは人生を大きく変えてしまうかもしれないリスクについて知る権利がある。

我が子が苦しむ姿をただ見守るしかできなかった時、私は母親として心の底から無力を感じた。

最近では、本当はあるはずのリソースがほとんどないかのように扱われる世界に子どもたちを連れてきたことを後悔すらする。自分の子どもが必要な支援を受けられないかもしれないというのは本当に恐ろしい。

世界に目を向けると、日本など子育てをする親に児童手当が支給される国もある。

イタリアでは、2人以上の子どもを持つ働く女性には、年金の優遇策がある。ハンガリーでは、妻の年齢が40歳未満の夫婦は1000万フォリント(約426万円)を無利子で借りられ、3人の子どもを産めば返済が全額免除される制度がある。

とはいえ、金銭的なインセンティブによる少子化対策は、長期的には限定的な効果しか上げていないのが現実だ。

たとえばハンガリーの出生率は、2019年には1人の女性あたり1.55人だったが2024年には1.38人へと減少した。

金銭的なインセンティブを導入しようとするトランプ政権やこれらの国々の対策は、「女性も男性も子どもを欲しがっているはずだ」という考えを前提にしている。

しかし、必ずしもそうとは限らない。生きる目的が、家庭を持つことや子育てではない人もいる。

たとえ国や政府が「必要だから」と望んだとしても、それが全員の望みだとは限らない。生物学的に子どもを産めるからといって、すべての女性が「産みたい」と願っているわけではないように。

もし、トランプ政権が本当に女性たちに子どもを産んでほしいと願うのなら、現実的で有効な支援を提供すべきだ。

保育施設の整備、十分な経済的支援、家庭と子どもを支えるための制度の構築、誰もが手頃な金額で利用できる医療制度。

メディケア(高齢者や障害者向け健康保険)の予算を復活させ、オバマケア(ACA)を守り、母体の健康の一環として中絶を認めること。

一時的な現金支給よりも「子どもを産んでも安心して育てられ、その子が生きていく世界も安心できる場所だ」と確信できることのほうが、はるかに効果的で説得力がある。

ハフポストUS版の寄稿を翻訳しました。

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Source: HuffPost