2025
06.24

小泉今日子×西森路代が語る、俳優はドラマをどう演じるのか。小林聡美、中井貴一、相性のいい役者とは

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ライターの西森路代さんが、さまざまな日本のドラマについて考察した『あらがうドラマ「わたし」とつながる物語』(303BOOKS)を上梓。『団地のふたり』(NHK)や『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)など、俳優として多数の日本ドラマを彩り続ける小泉今日子さんをゲストに迎えて、東京・下北沢「本屋 B&B」でトークイベントを開催しました。

「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」と題して語り合った当日の様子をレポートします。中編のテーマは「俳優はドラマをどう演じるのか」です。   

俳優は一瞬の揺らぎも見逃さない

東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。左から、ライターの西森路代さん、俳優の小泉今日子さん東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。左から、ライターの西森路代さん、俳優の小泉今日子さん

西森路代さん(以下、敬称略):私は年に数回ほど取材でドラマの撮影現場にお邪魔することがあるのですが、初めて足を踏み入れたときは衝撃でした。

ワンシーンを撮るだけでも、最初にリハーサルをして、テストをして、本番をいろんな方向から何度も撮影するという撮り方なんですね。こんなに細切れなのに、どうやって皆さん感情を込めているんだろう?とびっくりしました。

小泉今日子さん(以下、敬称略):そうですね。私は元々が歌手ですが、当時のアイドル俳優人生って、まずは主要な役の妹役や娘役としてドラマに出るもの、という感じだったんです。その後に、若者が主人公のトレンディドラマが主流になったら主役が回ってきたりとか。 

そんなふうにずっと時系列をバラバラに撮るドラマから演じることをスタートしたので、舞台を初めて引き受けたときは感動しましたね。「こんなにちゃんと感情の流れを感じられるんだ!?」って。 

でもそうやって舞台を経験できたおかげで、ドラマの現場に戻ったときに脚本を読んだだけでも感情の動きが想像しやすくなった気がしています。いいフィードバックになった。そうやって役者はみんな育っていくんでしょうね。

西森:私はライターなのでいろんな俳優さんに取材する機会があるのですが、俳優さんや演出家さんって、お話をしていてもやっぱり瞬時の洞察力がすごいんです。こんなに私の表情や声から気持ちを読まれることって、普段の生活ではないことなんですよね。

コロナ禍のときに韓国俳優のソル・ギョングさんにリモート取材をしたのですが、始める前は「リモート取材だし、画面を通しての取材だし、通訳さんも入るから、質問の意図やニュアンスが伝わりにくいのではないか」なんて思ってたんですね。実際、リモートの取材はそういうことが多いですし。

でもソル・ギョングさんは私が緊張から言い淀んでも、すぐにこちらの意図をくみ取って、意に沿った答えをくれたんです。 

小泉:通訳を挟んでもそれができるんだからすごいですよね。でも、そんなふうに人の心を読めるから、あそこまで凄みのある演技ができるのかも。

映画『ペパーミント・キャンディー』や『キングメーカー 大統領を作った男』などで知られる俳優、ソル・ギョングさん映画『ペパーミント・キャンディー』や『キングメーカー 大統領を作った男』などで知られる俳優、ソル・ギョングさん

西森:劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんも同じだったんですよ。私がまだ質問の半分しか言ってないのに、すぐさま的確な答えを返してくれる。演出家も俳優もそういう職業なんだなーって。インタビュアーは相手の目を見て話さないといけないから、相手からは私の一瞬の感情の揺らぎも見られてしまっているのを感じますね。

小泉:「目を見る」って不思議なんですよ。ドラマだとよく共演者とじっと見つめ合う場面がありますけど、家族でも恋人でもない相手と何十秒も見つめ合うことなんて、普段はないじゃないですか?

でも時折、相手の目の奥まですーっと自分が入っていく感覚があるんです。それで「あ、この人は信用できる」と感じるときもあれば、逆に「この人の目を見るのはしんどい」というときもある。好き嫌いとは関係なしに、「なんだか恥ずかしくなってきちゃってるな、私」と思うことも。

でも、お互いがすーっと相手の中に入っていけたら、ひとつも恥ずかしいことはない。そういう「相手の実際じゃないところを見る」ような不思議な感覚が「演じる」ことにはあります。

中井貴一さんも以前にどこかで「役の中で見つめ合うから、俳優同士は相手がどんな人間かすごくわかりやすい」と、同じようなことをおっしゃっていました。

西森:すごく面白いです。敏感さとは別でもうひとつ、小泉さんもそうだと思うのですが、表舞台に立つ人たちってエネルギーがあり余っている、体力が異様にある人が多くないですか?  

小泉:それは当たっている気がします。歌手と俳優ではエネルギーの出し方に違いはあっても、持っているエネルギー値がそもそも高い人が多いんじゃないかな。エネルギーが弱い人はいないかも。

西森:そうですよね。私が幼い頃からずっとエンタメを好きで見てきたのは、発散されるエネルギーの強さに惹かれてしまうから。

ノワール系や暴力表現、それから『HiGH&LOW』シリーズが好きなのも、あり余るエネルギーの行き場が知りたい、という理由ですから。『HiGH&LOW』なんて、荒ぶるエネルギーを鎮めるための、年に一度(あるかないか)のお祭りだと思っています(笑)。 

小泉今日子にとっての「相性がいい役者」

小林聡美さん小林聡美さん

小泉:あ、でも考えてみたら小林聡美さんはそんなにエネルギーが高い系じゃないかな(笑)。撮影が終わったときに「この後どうするの?」と聞かれたので「韓国垢すりでも行こうかな」と答えたら、「ええっ!? 今からそんなところ行って風邪引かない!?」って異様に驚かれたことがありました。 

でも役者同士って相性があるじゃないですか。私と聡美さんは同級生で、歌、舞台、ドラマと要所要所でこれまでも一緒になってきたんですけど、私と聡美さんでしか出せないムード、2人だから出せるもの、っていうのが確実にあるとも思っていて。

西森:わかる気がします。『すいか』(2003年)の共演でも、そういう感じが出ていました。

小泉:『阿修羅のごとく』の舞台で私が長女を、聡美さんが次女を演じたときもそうでした。どんな役をやっても相手が聡美さんだから気持ちをつくれる、というところがありますね。そう思える俳優仲間が私には何人かいるのですが、中井貴一さんもその一人です。あまり話さなくても相手のことがわかるし、お互いの役をつくり上げることができる。

でも普段から連絡を取り合っているわけではないんです。現場で顔が見れたらこっちも笑顔になるぐらい大好きなんだけど、ちょうどいい距離感でいられることがわかっているからこその安心もある。ちょっと不思議な友情が芽生えてますね。

お芝居ってやっぱり相手があってのキャッチボールなんですよ。だから私は『団地のふたり』や『続・続・最後から二番目の恋』のように会話劇を楽しんでもらうドラマは、あえてセリフをきっちり覚えない。撮影当日の朝や前日の夜にばーっと流れを見て、あとは現場で相手とセリフを交わしながら固めていくようにしています。

西森:中井貴一さんも通じ合える俳優仲間としてお名前が挙がりましたけど、私が中井貴一さんのお芝居で記憶に残っているのはやっぱり『ふぞろいの林檎たち』(1983年)で。 

仲手川という人は、ちょっとイケてない大学生で、なんか時代の中で取り残されてる感じだけど、そこはかとなくコミカルな感じがあって。で、この人は50代、60代になったらどういう俳優になるんだろうなと思っていたのですが、もしかしたら、重みのある重鎮みたいなコースもあるかと思っていたんです。でも、あの頃からずっと、軽やかな感じは変わらないですよね。 

小泉:貴一さんは、名人芸のようなコメディセンスと紳士的な格好良さのどちらもある人。不思議で、でも本当に尊敬できる先輩です。

彼のお父様は佐田啓二という昭和の人気俳優だったのですが、貴一さんが幼い頃に交通事故で亡くなられてるんですね。でも、お父様と親しかった映画界の監督や俳優さんたちが気にかけてしょっちゅう思い出を語ってくれたおかげで、きちんとした美学が彼の中で培われたんじゃないかな、と私は思っています。

何が素敵で、何が恥ずかしいか、他人を大切にするとはどういうことか、そういう美学がある俳優さんです。

西森:そうだったんですね。中井貴一さんって、お父さまのことなどは知っていたんですが、こういう話はあまり聞いたことがなかったんで貴重だし、後世に語り継がれてほしいですね。

小泉:『まだ恋は始まらない』(1995年)というドラマでご一緒したとき、最終日に撮影がすごく押したんですよ。その空き時間に2人で色々話していたら、「次の誕生日で父が亡くなった年齢を越えるんだ」って貴一さんがふと言ったんですね。

「そうなんですね。それは怖いという気持ちなの?」と私も聞き返して、そんなふうにめったやたらに話さないようなことを話して過ごしたんですけど、その流れで貴一さんが「俺達はどこかで会ったら、廊下のこっち側と向こう側にいても、絶対に手を振り合おう」と提案してくれたんです。

それで、しばらく後に別の仕事で偶然会ったときは、本当に遠くから貴一さんが手を振ってくれたの。でも、聡美さんと同じで、それ以上は仲良くならない。だから楽。ずっとそんな関係ですね。

中井貴一さん中井貴一さん

【プロフィール】

◾️西森路代(にしもり・みちよ)

愛媛県生まれ。地元テレビ局、派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーライターに。主な仕事分野は、韓国映画、日本のテレビ・映画に関するインタビュー、コラムや批評など。2016年から4年間、ギャラクシー賞テレビ部門の選奨委員も務めた。著書に『韓国ノワールその激情と成熟』(Pヴァイン)、ハン・トンヒョン氏との共著に『韓国映画・ドラマ―わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)がある。

◾️小泉今日子(こいずみ・きょうこ)

神奈川県生まれ。1982年、『私の16才』で芸能界デビュー。以降、歌手・俳優として、舞台や映画・テレビなど幅広く活躍。2015年より代表を務める「株式会社 明後日」では、プロデューサーとして舞台制作も手掛ける。文筆家としても定評があり、著書に『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチ・パブリッシング/第33回講談社エッセイ賞)、『小泉今日子書評集』(中央公論新社)など多数。

⇒後編へ続く 

(取材・文/阿部花恵 編集/毛谷村真木)  

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Source: HuffPost