2025
06.23

「続・続・最後から二番目の恋」から「君は天国でも美しい」まで。小泉今日子×西森路代が日韓ドラマの面白さを語る

国際ニュースまとめ

ライターの西森路代さんが、さまざまな日本のドラマについて考察した『あらがうドラマ「わたし」とつながる物語』(303BOOKS)を上梓。『団地のふたり』(NHK)や『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)など、俳優として多数の日本ドラマを彩り続ける小泉今日子さんをゲストに迎えて、東京・下北沢「本屋 B&B」でトークイベントを開催しました。

「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」と題して語り合った当日の様子をレポートします。 

東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。左から、ライターの西森路代さん、俳優の小泉今日子さん東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。左から、ライターの西森路代さん、俳優の小泉今日子さん

【プロフィール】

◾️西森路代(にしもり・みちよ)

愛媛県生まれ。地元テレビ局、派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーライターに。主な仕事分野は、韓国映画、日本のテレビ・映画に関するインタビュー、コラムや批評など。2016年から4年間、ギャラクシー賞テレビ部門の選奨委員も務めた。著書に『韓国ノワールその激情と成熟』(Pヴァイン)、ハン・トンヒョン氏との共著に『韓国映画・ドラマ―わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)がある。

◾️小泉今日子(こいずみ・きょうこ)

神奈川県生まれ。1982年、『私の16才』で芸能界デビュー。以降、歌手・俳優として、舞台や映画・テレビなど幅広く活躍。2015年より代表を務める「株式会社 明後日」では、プロデューサーとして舞台制作も手掛ける。文筆家としても定評があり、著書に『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチ・パブリッシング/第33回講談社エッセイ賞)、『小泉今日子書評集』(中央公論新社)など多数。

「日本のテレビは見ない」時期を通り抜けて

小泉今日子さん(以下、敬称略):西森さんとは、いつか絶対にドラマや映画の話をしたいなと思っていたんです。

西森路代さん(以下、敬称略):私、小泉さんにTwitter(現・X)でフォローしてもらったのが2020年なのですが、そのときの興奮をはっきり覚えています。Twitterで喜ぶのはちょっとよくないかと思って、Facebookで「キョンキョンにフォローされた!」とこっそり投稿しました(笑)。

小泉:西森さんのツイートにはしょっちゅう「いいね」を押してましたから。そのうちに、いつも読みたいからこれはフォローするしかない、って。

西森:小泉さんが「いいね」してくれたツイートを見ると「韓国ドラマだとこういう俳優さんが好きなんだな、私とちょっと趣味が近いな」というのがだんだんわかってきました。

東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。俳優の小泉今日子さん東京・下北沢「本屋B&B」で開催されたトークイベント「代田のふたり ~日本のドラマを語る夜~」。俳優の小泉今日子さん

小泉:チュ・ジフンさんとか、ソン・ソックさんとかね。『天国の階段』(2003年)がきっかけで韓国ドラマが好きになって、そこから色々見るようになったので、もうだいぶ長いですね。配信が私のスピードに追いつけないくらい見ている(笑)。

実は私、コロナ禍以降「日本のテレビは見ないもん」という反抗心のようなものがあったんですよ。昔は初回を全録画したりして全部見ないと気が済まないって感じだったんですけど。でも日本のドラマも再評価するべきでは?と、気に入った作品だけ録画や配信でまた見るようになりました。最近は『しあわせは食べて寝て待て』(NHK)を楽しく見ています。

西森さんの『あらがうドラマ』で取り上げられている日本ドラマは、リアルタイムや後追いでほとんど見ているんじゃないかな。『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)、『わたし、定時で帰ります。』(2019年)、『エルピス ―希望、あるいは災い―』(2022年)、あとは『妖怪シェアハウス』(2020年)もすごく好きだったの!

西森:『妖怪シェアハウス』まで見られてたんですね! 私も好きでした。意外にもド真ん中のフェミニズムを描いているんですよね。

小泉:そうそう、でも「どこがどう好きか」の理由を、私たち視聴者はそこまで考えませんよね。この本ではそのあたりを西森さんがきちんと言語化してくれるので、読んでいると「そうかも!」「なるほど、ありがと~」と頷けるところがたくさんありました。 

そういう意味では『あらがうドラマ』は日本ドラマのプロデューサー全員に読んでほしい。今ちょうどフジテレビで『続・続・最後から二番目の恋』を撮影中なのですが、ADも含めていろんな人に「これ絶対読んだほうがいいよ」と薦めています。何人かは買ってくれました。

西森:ありがとうございます。私は制作側の方々への尊敬の念があるので、現場の方に読んでもらえるのはすごく嬉しいです。

小泉:私はなにかを創作する人は、やっぱり自分の中にしっかりテーマを持つことが必要だと思っているんです。でも、そういうテーマを持つことなしに制作している人も意外と多いのかなと最近は感じていて。同時に、そういう人はドラマの中に隠されたテーマにも気づこうとしない。

だからこそ、西森さんのコラムを読むと作品に隠されているテーマに気づけるような考え方の癖がついていくんじゃないかな。ちょうど自分の中でも日本のドラマを見直して再評価したい、という気持ちが高まっていたので、ジャストタイミングでこの本にに出合えて嬉しいです。ところで、西森さんが最近注目しているドラマはなんですか?

西森:今期は『対岸の家事』(TBS系)、『しあわせは食べて寝て待て』(NHK)、それから『続・続・最後から二番目の恋』(フジ系)ですね。この3作も含めて、『あらがうドラマ』で紹介している作品は、すべてテーマをしっかり持っている制作陣がつくったドラマだと思っています。 

『続・続・最期から二番目の恋』『続・続・最期から二番目の恋』

「気づかぬ偏見」にいかに気づくか

小泉:私と小林聡美さんが共演した『団地のふたり』(2024年)もこの本で取り上げてくださっていますよね。あの作品は小説が原作ですが、それがドラマの脚本になると誰かを傷つけてしまうかもしれないセリフが出てくることが、どうしても起きてしまうんですよ。シングルファザーの描き方だったり、同性カップルをちょっと面白がるようなセリフだったり。 

でも、まったり可愛いドラマだからこそ、見る人が一人でも傷つくのは嫌だなと私は思っていて。だから、現場では聡美さんに「ここ、どう思う?」「じゃあ監督に言ってみようか」と相談して微調整をする、みたいなことは結構ありました。

今の『続・続・最後から二番目の恋』でも同じです。俳優がそういうことをすることも結構あるんですよ。

西森:ドラマの取材でもたまに聞きますね。出演する俳優さんが「ここはやっぱりどうなのかな?」と思って監督と話し合ったとか。

小泉:ドラマって人の声や動き、画がつくじゃないですか。だから文字で読むだけであれば問題ないことが、映像になるとより強く伝わってしまう場合があるので。

西森:同じ内容でも、映像だとより生々しくなってしまうことはありますよね。『海に眠るダイヤモンド』(2024年)を監督した塚原あゆ子さんと脚本の野木亜紀子さんに取材したとき、塚原さんが「人にはどうしても気付かぬ偏見があって、台本を読むときには人を傷つける箇所がないか気になるところに線を引きながら読むけれど、野木さんの台本にはそういうところがない」とお話されていました。 

小泉:『あらがうドラマ』では『虎に翼』(2024年)の脚本家の吉田恵里香さんと西森さんの対談も収録されていますが、吉田さんもきっとそのあたりに敏感に気付く方ですよね。脚本家の中にはプロデューサーとのみやり取りをして、現場にまったく来ない人もいるのですが、そうなると俳優陣の温度差がどんどん開いてしまって、それが作品に影響を与えることもある気がします。宮藤官九郎さんとかは結構来てくれるタイプかもしれない。

脚本家といえば、渡辺あやさんは男性を描くのがとりわけお上手ですよね。『カーネーション』(2011年)で周防さん役を演じた綾野剛さんとか。

西森:そうなんですよ! 吉田さんとの対談でも語っているのですが、あの作品の綾野さんが演じる周防さんのことだけでなく、ほっしゃん(現・星田英利さん)さんが演じる北村のことも好きになりましたね。

渡辺あやさんが描く登場人物は、いいとか悪いとかだけでは割り切れないものがあって心が揺さぶられます。ドラマの男性キャラといえば、『エルピス』の斎藤(鈴木亮平さん)や、『アンナチュラル』の中堂(井浦新さん)はみんな夢中になりましたよね。

小泉:私も『カーネーション』には忘れられないセリフがあって。北村が糸子(尾野真千子さん)の家で泣きながら酔いつぶれて、「家に女がおるっちゅうんは、ええもんやなあ……」ってしみじみと呟くんですよ。あのシーンはすごくよかった。

格好いい男性といえば、向田邦子さんの書く男性も色っぽいんですよ。『家族熱』(1978年)もいいし、『阿修羅のごとく』(1979年)は大人になってから見返したら佐分利信さんが演じるお父さんがめちゃくちゃ良くて。でも私が「一生この人!」と思ったのは、『冬の運動会』(1977年)の根津甚八さん。とにかく格好いいんです。 

振り切れる韓国、照れがある日本

西森:ところで、せっかくだから私たちが好きな韓国ドラマの話もしましょうか。小泉さんが最近見てよかった韓国ドラマは? 

小泉:おつかれさま』(2025年)はヤバかったですね。あとは『君は天国でも美しい』(2025年 ※上・動画)。ソン・ソックさんがいいんですよね。いままでの彼は割とクールな役が多かったんですけど、今回は妻をすっごく愛している夫の役なので可愛い顔をいっぱいするんです。 

西森:80歳の姿で天国にたどり着いたキム・ヘジャさん演じる妻が、30代の姿のソン・ソックさん演じる夫と再会するというファンタジーっぽいラブロマンスですよね。 

小泉:キム・ヘジャさん主演でドラマ化が決まったときに、ヘジャさんがソン・ソックさんを指名したそうなんですね。ちょうどソン・ソックさんが仕事に遅れそうでタクシーを拾っているときにその依頼の電話がかかってきたんですけど、「キム・ヘジャさんとの恋愛もの」と聞いてソン・ソックさんは即座に「やります!」と返事をして、後は何も聞かずに電話を切った、というエピソードを聞きました。 

『君は天国でも美しい』を見てあらためて思ったのですが、やっぱりファンタジー的なドラマをつくったら韓国はすごく上手なんですよ。現実世界とは明らかに違うのに、優しい世界だから感情移入して泣いてしまう。

西森:日本ドラマだと、「もっとリアルに」「ちゃんと苦みも入れなくちゃ」となるところを、韓国は「そこはもういいんじゃない?」と割り切っている感じはありますね。

小泉:時代劇のドラマもその傾向が出ているかもしれない。日本で時代劇を作ろうとすると、ちゃんと歴史に忠実でなければ、という感じがありますよね。でも韓国の時代劇だと実在した王様を題材に何パターンもの恋愛ドラマがつくられていたりする。

西森:韓国ドラマや映画は漫画みたいな面白さがありますよね。ソン・ジュンギさんがブレイクした『私のオオカミ少年』(2012年)というオオカミ少年と人間の少女が恋をするファンタジー要素のある映画があったのですが、あれもすごく泣けました。 

小泉:私もあの映画は号泣しました。日本だと作り手側に照れがあるのか、あそこまで振り切れない気がしますね。

西森:「そんな展開ありえないでしょう」みたいに思われるの嫌だな、という躊躇いがあるのかもしれませんね。あとは、おばあさんと若者の組み合わせも多い気がします。日本では多部未華子さん主演でリメイクした、映画『怪しい彼女』(2014年)もそう。

小泉:『怪しい彼女』はファンタジー・コメディですけど、バイク事故のシーンとかは本気で怖かった。夢の世界の中で、突然パン!って現実がぶつかってくるような感じ。ああいう緩急の付け方が巧いのも韓国作品らしいなと感じます。

西森:『怪しい彼女』は人気シリーズ『イカゲーム』(2021年)のファン・ドンヒョク監督作ですが、この監督は歴史ものや『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)のような実在の事件を扱ったものなど、どんなジャンルのものをつくっても全部巧いのがすごいですよね。みんな『イカゲーム』が話題すぎて、同じ人が作ったということを忘れてると思うんですけどね。 

⇒中編へ続く

6月27日(金)よりシーズン3が配信される、Netflixシリーズ『イカゲーム』6月27日(金)よりシーズン3が配信される、Netflixシリーズ『イカゲーム』

(取材・文/阿部花恵 編集/毛谷村真木) 

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Source: HuffPost