2025
06.20

“汚染土”意見書は「風評や不安を招きかねない」。反対した都ファ、自民、公明に取材。東京・三鷹市議会

国際ニュースまとめ

東京・三鷹市議会で可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」東京・三鷹市議会で可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」

【あわせて読みたい】「“汚染土”意見書」賛成の全会派に取材、浮き彫りになった「無知と他人事」。東京・三鷹市議会

東京・三鷹市議会で3月、「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」が可決されたことを巡り、私は意見書案を提出したり、賛成したりした三鷹市議らに取材し、シリーズルポ『福島リアル』で報じてきた。

6月11日には、意見書案に賛成した市議らの取材結果を総括した「『“汚染土”意見書』賛成の全会派に取材、浮き彫りになった『無知と他人事』。東京・三鷹市議会」配信。賛成の理由や安全性への見解についてまとめた。

今回の記事では、意見書案に反対した都民ファースト、自民、公明の各会派への取材結果を紹介する。特に、再生土の再生利用の安全性に関する見解において、意見書案に賛成した市議らと違いが出た。

【基本がわかる記事①:「ずっと福島に置いておけ」は「地元に帰るな」と一緒。除染土は、“ある小さな地方”の問題ではない」

【基本がわかる記事②:除去土壌とは?「8000ベクレル」は安全?専門家に聞いた「キホン」。福島の復興、NIMBY問題との向き合い方とは

経緯を振り返る

この意見書案は3月27日、三鷹市議会で開かれた意見書決議等審議で、野村羊子市議(れいわ・市民自治の会)が提出した。

立憲、共産、維新、参政などが賛成し、13対12の賛成多数で原案可決され、3月31日に首相や環境相などに宛てて送付された。

再生土の再生利用に関してどのようなことに不安を持っているのか、どんな情報が足りないのかを探るため、私は4〜5月、意見書案に賛成した全ての会派(6会派)に取材。

意見書に対する率直な受け止めを聞くため、原則アポイントメントを取らずに接触した結果、再生利用の安全性への認識の違いや、この問題に関する基本的な知識の欠如などがあったことが判明した。

例えば、「人に害を与える」「公害の原則として毒物は集めて集中管理すべき」と話したり、「“低汚染状態”を加速させる」「再生土からちりやほこりが拡散して危険」「低線量被ばくも(懸念している)」と主張したりする議員がいた。

また、少なくとも3市議は、苦渋の決断で中間貯蔵施設を受け入れた自治体の名前(双葉町、大熊町)を正確に答えられず、1市議は東京電力福島第一原発の電気が福島で使われず、首都圏で使われていたことを知らなかった。

「議会で提出される意見書案が多く、しっかり目を通せなかった」「詳しく調べていなかった」と打ち明ける市議もおり、福島の将来を左右する重要な問題を“他人事”として捉えていた実態も明らかとなった。

意見書案に賛成した三鷹市議らの回答まとめ意見書案に賛成した三鷹市議らの回答まとめ

3会派が意見書に反対した理由

再生利用で使われる土は「1キロあたり8000ベクレル」以下のものだ。このレベルであれば、追加被ばく線量を作業員で年0.93ミリシーベルト、周辺住民で年0.16ミリシーベルトに抑えることができる。

この数値は、いずれも国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の「一般公衆の年間被ばくの線量限度」(1ミリシーベルト)を下回っており、粉塵吸入の内部被曝も、盛土上の作業員で年0.00013ミリシーベルト、周辺住民で年0.00061ミリシーベルトと環境省が計算している。

今回、「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」に反対したのは、都ファ、自民、公明の3会派。

5月9日にメールで質問を送付し、反対した理由や再生土の安全性に対する見解、国による説明が十分かどうかなどについて尋ねると、都ファからは14日、自民からは17日、公明からは20日に返信があった。

まず、意見書案に反対した理由について、都ファは「『放射能汚染土』など、一方的な認識を拡大させるおそれがある表現を含むものだった」と回答。自民は「IAEA(国際原子力機関)が安全基準としているから」と答えた。

公明は「再生利用の必要性や安全性の情報発信、再生利用先の創出に向けた体制整備を進めており、これこそが未来の世代に“ツケ”を残さない取り組み」とし、「意見書はいたずらに風評被害や不安を招きかねない」と述べた。

つまり、都ファと公明は、意見書案自体が危険や不安を煽る恐れについて指摘し、自民はIAEAの報告書(再生利用などが安全基準に合致している)を重視したということだ。

中間貯蔵施設内の土壌貯蔵施設。高さ15メートルほどの除染土が積まれている(2月18日、相本啓太撮影)中間貯蔵施設内の土壌貯蔵施設。高さ15メートルほどの除染土が積まれている(2月18日、相本啓太撮影)

国による説明は十分か

次に、再生利用の安全性に関する見解を聞くと、都ファは「国際的な基準や専門家の議論などを踏まえ、基準が作成されている」とし、自民は「安全の可能性が高い」と簡潔に回答した。

公明は「福島では安全性を確認するための実証事業が行われ、IAEAも『安全基準に合致している』とする報告書を公表している。作業者や周辺住民の追加被ばく線量も年1ミリシーベルトを超えない」と記述した。

また、環境省福島地方環境事務所から「水害や地震リスクが高い場所での利用は検討が必要だが、土壌中の放射性セシウムは固定化して移動しにくい」という説明があったことも、再生利用が安全と判断する根拠としたという。

3つ目は、福島県外の住民に対する国の説明が十分かどうかについて問うた。

環境省は2024年12月、「中間貯蔵施設に保管された除染土は2045年3月までに福島県外で最終処分すると法律に明記されている」ことを知っていた人が、福島県外で24.8%にとどまったという調査結果を発表している(福島県は55.0%)。

これについて、都ファは「認知度は低いと考えている。安全・安心に関する国民的な理解を深めることが重要であり、国において理解促進のさらなる取り組みの強化が必要」と答えた。

自民は「不十分との認識はないが、認知度は高くするべきであり、説明はさらに徹底したほうがいい」、公明は「認知度はまだまだ低い。再生利用の具体的な道筋を示し、国民の理解を図るよう政府に働きかける」と、それぞれ述べた。

意見書に反対した三鷹市議らの回答まとめ意見書に反対した三鷹市議らの回答まとめ

福島県外の自治体の向き合い方

最後に、福島県外の自治体は、どのように再生土の問題と向き合うべきかと尋ねた。

都ファは「国による理解促進に向けた取り組みの具体的内容を踏まえ、住民の意見を丁寧に聴取していく」、自民は「住民に安全性を示し、再生利用について検討する」と回答。

公明は放射線に関する専門家の知見も踏まえ、福島県外の自治体間で協力して情報交換や意見交換を行い、課題や解決策を検討していく」と答えた。

一連の問題では、再生土の再生利用の理解醸成が進まない原因の一つとして、「NIMBY(Not In My Backyard)」問題が指摘されている。

NIMBY問題とは、公共に必要な施設だと理解しつつも、自分の近く(裏庭)に置かれることに反対することを言うが、ある三鷹市議は取材に、「処理水の海洋放出は福島県の話という認識だったが、再生土の再生利用に関しては急に“我が街”の話になった」と話していた。

一方で、中間貯蔵施設の受け入れを「苦渋の決断」で判断した福島県大熊町の元町長・渡辺利綱さんは2月、私の単独取材に「全国の人には『総論賛成各論反対』ではなく『自分のこと』として捉えてほしい」語った

同様に施設の受け入れを判断した同県双葉町の伊沢史朗町長も5月、取材に「もし自分のところにあれば、本気で議論して考えると思う。犠牲になった地域をまた犠牲にしていいのか」話している

再生利用の問題を一歩前に進めるためには、安全性を理解するだけでなく、中間貯蔵施設が立地する町の思いや、首都圏で福島第一原発の電気が使われていたといった背景を知り、それぞれが「自分ごと」として問題に向き合う必要がある。

ーーー

原発事故で大きな被害を受けた福島と情報の向き合い方について取り上げる「ルポ『福島リアル』」。今回は、東京・三鷹市議会で原案可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」について取り上げました。

※ハフポスト日本版はこれまで、再生利用される土も含めて一括して「除染土」と表記してきましたが、一連の問題に対する理解の妨げになっている可能性があることから、公共事業などに再生利用される土(1キロあたり8000ベクレル以下)については「再生土」と表記しています。

…クリックして全文を読む

Source: HuffPost