06.20
もしあなたが今「難民」になったら、何を持っていくか。ある写真が伝える、故郷を追われた人たちの旅路と思い
「SONGS – ものが語る難民の声」より【あわせて読みたい】日本へ逃れてきた2人の若者の姿。ある写真家が撮った「形見のペン」「母国のコイン」が意味すること
今は帰れない故郷の家族の写真、逃れてきた時に道を照らしたライト……。
ある日突然、故郷を追われ、着の身着のままで国を出た難民たちが、最低限の荷物の中に一緒に持ってきたものとは。
写真家のホンマタカシさんが、日本、バングラデシュ、コロンビアで暮らす難民の人たちの姿と、人々の「大切なもの」を撮影した。
紛争や迫害によって故郷を追われ「難民」となった人たちは今、世界で1億2千万人を超える。
ホンマさんの写真は、「難民」と一言に言っても、「1億2千万通りの旅路」があり、それぞれの人生や夢があることを伝えている。
「SONGS – ものが語る難民の声」より故郷の思い出がこもった「大切なもの」が見せる、難民1人ひとりの人生
ホンマさんが撮影したのは、日本で暮らすシリアやカンボジア出身の人々や、バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民、コロンビアの国内避難民などの姿。
被写体となった人たちは、故郷の義母からもらったジャケットや、ヘッドフォン、母国の通貨のコインなど、様々な「大切なもの」を見せ、それにまつわる思い出を語った。
故郷から逃れる際に夜道を照らした小型ライトをホンマさんに見せたミャンマーの少年は、母国に「いつかは戻りたい」とし、「帰る時に持って帰りたい」「持ってきたものを持ち帰ることができることは、嬉しいことなんです」と語っている。
「SONGS – ものが語る難民の声」より。ミャンマー出身の少年の小型ライトホンマさんが撮影した作品は、瀬戸内の島々を舞台に開催される日本最大級のアートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2025」で展示される。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日事務所と、瀬戸内国際芸術祭が連携し、アートを通して難民について伝えるために企画された。
作品は、4月18日〜5月25日に開催された同芸術祭の春会期で展示され、夏・秋会期でも展示される。
写真は、約100万人が来訪する瀬戸内国際芸術祭の “玄関口” である高松港に特設されたトレーラーハウス型ギャラリーを拠点に展示。同港では、難民の写真とインタビューを掲載したタブロイド誌も配られた。
高松港で配られた、タブロイド誌。難民の写真とインタビューが掲載されている。難民認定率低く、関心も低い日本で、どう「伝える」か
6月20日の「世界難民の日」に先立ち、都内で6月15日、UNHCR駐日事務所と瀬戸内国際芸術祭実行委員会がトークイベントを共催。
ホンマさんと、小説家で詩人の池澤夏樹さんが「難民の旅路、新しい故郷」をテーマに語り合い、観客約100人が耳を傾けた。
池澤さんは2024年、ドイツ語で「新しい故郷」を意味するタイトルの小説『ノイエ・ハイマート』を出版。日本とシリアのビデオジャーナリストを軸に、故郷を追われ難民となった人々の姿を描いた。
「どうしたら難民について伝えられるか」と考え、難民となった人々にも実際に話を聞いて書かれた小説では、難民に無関心な日本社会に「日本人と難民は無縁なのか」との疑問を投げかけた。
今回、芸術祭で展示されているホンマさんの作品については「何度も見てしまう」写真だとし、「ニュースでは難民は『人数』が報じられるが、実際は数ではなく一人ひとりの人間。それを感じる展示だった」と話した。
小説家で詩人の池澤夏樹さん欧米諸国に比べ、日本の難民受け入れ率は圧倒的に低い。
池澤さんは、日本政府の姿勢について「情けない」とし、以下のように話した。
「日本は難民に対して冷酷な国。海外で日本の難民受け入れの現状を話すと失笑されます。故郷から出ていかざるを得ない時、逃れた先で新しい故郷をつくらなければいけないし、周りの人はそれを支援するべきです」
G7諸国では、2024年の難民認定数はカナダが4万8671人(認定率70.0%)、イギリスが3万7021人(同42.4%)、アメリカが3万5701人(同57.7%)なのに比べ、日本は190人(同2.2%)だ。
現地で撮影した写真を見せながら話す、写真家のホンマタカシさんホンマさんは日本人の難民に対する関心度や考え方ついて「多くの人は全く考えていない」「若い世代でも、外から人は入れない方がいいという排他的な考え方の人が自分の周りでも多い」とした上で、自身がこの企画に取り組んだ意義を語った。
「この企画のお話をもらったとき、本当に僕がやっていいのかと思いました。多くの日本人と同じように難民の現状を知らなかったからです。自分に何ができるか分からないのに引き受けていいのかという気持ちがありました。
でも、知らないと何もできない。僕がやったことによって、全く興味がなかった人たちに多少なりとも興味を持ってもらえたらと思います」
撮影するホンマタカシさん瀬戸内国際芸術祭は、春、夏、秋の3シーズンに分けて開かれている。夏の会期は8月1〜31日、秋は10月3日〜11月9日。
ホンマさんの作品「SONGS – ものが語る難民の声」は高松港エリアで開催される。
(取材・文=冨田すみれ子 / ハフポスト日本版)
Source: HuffPost




