2025
06.04

<ウクライナ南東部>「柔道が心の支え」 破壊から逃れ、道場に通う子どもたち(写真16枚)

国際ニュースまとめ

戦火のなかで柔道を続ける(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

戦争は子どもたちの心に深刻な影響を与えている。戦火のなか、柔道を心のよりどころに避難先で練習を続ける子どもたちがいる。ウクライナ南東部ザポリージャで取材した。(現地取材は2024年2月・玉本英子・アジアプレス)

柔道が子どもたちの心の支えになっている。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆「柔道は人生の指針」

ザポリージャ市内にある柔道場。壁にはウクライナ国旗と並んで、柔道の父、嘉納治五郎の肖像画が掲げられている。ダイナモ道場は、欧州強豪選手を輩出してきた名門のひとつだ。真剣な顔つきで、乱取りをする練習生たち。その熱い熱気が伝わってくる。

ウクライナの柔道のすそ野は広い。ザポリージャのダイナモ道場のコーチと練習生たち。強豪選手を輩出した名門のひとつだ。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
柔道歴40年のヴィクトル・コマリョフ師範。「柔道は生きる指針、人生哲学です」と話す。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

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ダイナモ道場を運営するヴィクトル・コマリョフ師範は話す。

「柔道は私たちにとって、スポーツを超え、生きる指針です。意志力を鍛え、礼節を学ぶなかで、心のありようや自身と向き合う姿勢を教えてくれます。人生哲学そのものです」

ウクライナで広く親しまれてきた柔道。だがロシア軍の侵攻にさらされた地域では、閉鎖を余儀なくされた道場も少なくない。

プーチン大統領は「柔道家」として知られる。そのことをどうお思いでしょうか、と私はコマリョフ師範に聞いた。すると彼は顔を曇らせた。

「私たちの国土が力づくで奪われ、ミサイルで市民、子どもが毎日のように殺されています。残念ながら、彼は柔道の精神や哲学とは程遠い人間と言わざるをえません」

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道場の壁には、柔道の父、嘉納治五郎の肖像画が掲げられていた。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
侵攻で閉鎖された道場も少なくない。ザポリージャの道場には、各地から避難してきた子どもたち、約40人が通い、ともに練習している。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

道場には、地元の練習生に交じって、戦闘地域から逃れてきた子どもたち、40人が通う。

師範は言う。

「戦争は子どもに深刻な影響を与えました。心を閉ざしている子も少なくありません。柔道が心の平静を取り戻させてくれています」

オリヒウは昨年、ウクライナ軍の反転攻勢の拠点となった町でもある。現在もロシア軍とウクライナ軍の対峙が続く。(地図作成:アジアプレス)

◆破壊の町、オリヒウから逃れ

この道場に通う避難民の子どもの半数以上が、オリヒウの出身だ。

ロシア軍はオリヒウの7キロに迫り、ウクライナ軍が攻防を続ける。激しい砲撃と爆撃で、かつて1万3千人いた住民のほとんどが脱出した。

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オリヒウ市内の学校。壁は吹き飛び、教室がむき出しになっていた。右にあるのは破壊されたスクールバス。砲撃音が絶え間なく響いていた。(2023年5月・オリヒウ・撮影:玉本英子)
前線地帯のためウクライナ軍の許可を得てオリヒウに取材に入った。町は破壊され、教会は崩れ落ちていた。わずかに残る高齢者を除き、住民のほとんどが脱出(2024年2月・オリヒウ・撮影:玉本英子)

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オリヒウで柔道の指導にあたっていたコーチ、セルヒー・スキダンさんは、スマホを取り出し、以前の道場の映像を見せてくれた。真っ白い柔道着をまとい、みんな元気いっぱいだ。だが、戦闘激化で子どもたちは家族とともにザポリージャや他の町に避難し、離れ離れになった。120人が通っていた道場は、500キロの誘導爆弾の炸裂で破壊された。

オリヒウから逃れ、ザポリージャの道場で柔道を続ける子どもたちに話を聞いた。

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「避難していても柔道を続けたい」と話すレナトくん(右)とイワンくん(左)。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

レナトくん(12歳)は、侵攻が始まった際、家族とずっと地下室で寝泊りをしていた。近くに戦車の大きな音が聞こえ、砲撃が激しくなるばかりだった。家をそのままにして、母と一緒にオリヒウを去ったという。

「いまは大変なときだけど、柔道をあきらめたくはない。練習はとても大切な時間で、道場はいちばん僕でいられる大事な場所なんだ」

イワンくん(12歳)は、いつかオリヒウに帰りたいと話す。

「オリヒウの町が大好きで、たくさんの思い出がある。たくさんいた友達が避難してバラバラになってとても悲しい。でもこの道場にいると、ひとりぼっちじゃないと思える」

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町の破壊と長期の避難生活が心理的な影響を与えている。アヴェリーナさんは「柔道をしていると悲しい気持ちを吹き飛ばし、勇気が湧いてくる」と話す。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:アジアプレス)
避難先でも地下シェルターのない学校はオンライン授業。「道場に来ると、みんなと会えて嬉しい」とヴァリアさん(9歳)。 (2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

避難先でも、防空地下シェルターのない学校はオンライン授業だ。ヴァリアさん(9歳)は、自宅でオンライン授業のため、同級生の友達と直接話したり遊ぶ機会も少ない。

「道場に来ると、みんなと会えて嬉しい」

アヴェリーナさん(12歳)は、戦争が始まってから、心が沈むことが多くなったという。

「柔道をしていると、悲しい気持ちを吹き飛ばし、がんばろうという勇気が湧いてくるんです」

私はみんなと並んで、嘉納治五郎の肖像画の下で記念写真を撮った。笑顔の子どもたちが、かわいく丁寧なお辞儀をしてくれた姿が忘れられない。

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オリヒウチームを指導してきた、セルヒー・スキダン(左)とタチアナ・コセンコ(右)両コーチ。記念写真を撮ると、子どもたちは深々とお辞儀をしてくれた。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
オリヒウのゼッケンが誇りだという。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

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◆柔道を心の支えに

セルヒー・スキダンコーチは言う。

「柔道が子どもたちの心を支えています。いま直面する苦しみから、いつかウクライナが立ち直り、私たち、そしてこの子どもたちが町に戻って再び柔道ができる日が来ることを願うばかりです」

「いつかウクライナが立ち直り、町に戻って再び柔道ができる日が来ることを願うばかり」と話すセルヒー・スキダンコーチ。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
礼節と互いを敬う心、自分と向き合う姿勢を学ぶという。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

2024年のクリスマスには、柔道に取り組む子どもたちのための大会、「畳の星たち」(ジルキ・タタミ)が、ザポリージャで開催された。大会にはオリヒウからの避難民の子どもたちも参加し、部門優勝を果たした。

やまぬ戦火のなか、子どもたちは柔道を心の支えに、今日も練習を続けている。

ザポリージャで開催された大会、「畳の星たち」(ジルキ・タタミ)。オリヒウは部門優勝。市旗を掲げる(2024年12月・ザポリージャ市議会公表写真・Запорізька міська рада)

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Source: アジアプレス・ネットワーク