2025
06.11

「“汚染土”意見書」賛成の全会派に取材、浮き彫りになった「無知と他人事」。東京・三鷹市議会

国際ニュースまとめ

東京・三鷹市議会で3月に可決された意見書東京・三鷹市議会で3月に可決された意見書

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東京・三鷹市議会で3月、「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」が可決されたことを受け、私は意見書案を提出したり、同案に賛成したりした三鷹市議らに取材し、シリーズルポ『福島リアル』で報じてきた。

再生土の再生利用に関してどのようなことに不安を持っているのか、どんな情報が足りないのかが明確になれば、問題が一歩前進するのではないかという思いがあった。

市議らへの取材は4〜5月に実施。再生土や意見書に関する率直な受け止めを聞くため、原則アポイントを入れずに接触を試みた。そして今回、共産党の市議から回答を得ることができ、提出・賛成した全ての会派(6会派)への取材結果が出揃った。

意見書に賛成した理由、安全性に関する見解の相違、中間貯蔵施設が立地する町を知らないといった基本的な知識の欠如ーー。これまでの取材から浮き彫りになった事実を振り返る。

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共産の三鷹市議は取材に

一連の取材で最後に話を聞いたのは、共産党の紫野明日香市議。野村羊子市議(れいわ・市民自治の会)が提出した同意見書に、「賛成者」として名を連ねていた。

私の取材や記事が既に三鷹市議会で話題になっていたことや、野村市議への取材を終えていたことなどから、共産に関しては対面取材にこだわらず、メールで質問を送ることにした。

5つの質問を送付したのは5月15日。1週間後の同22日に紫野市議本人から返信があった。

まず、除染土を保管する中間貯蔵施設を視察した経験については、2021年4月に施設内を車で回り、畜産業を営んでいた双葉町民の一時帰宅(帰還困難区域内)に同行したことがあると答えた。

同施設のベルトコンベア近くを通過した時、「4マイクロシーベルトを超える線量だった」としたほか、双葉町民の一時帰宅に同行した際、牛舎には牛の骨が残されており、「空間線量は2マイクロシーベルトを超えていた」と振り返った。

次に、今回の意見書の「賛成者」となった理由を聞くと、「多くの国民が 『除去土壌』 の再生利用に不安をもっている中、丁寧な住民への説明、市民の理解が得られていないまま再生利用を推し進めるべきではない」と回答。

再生土の再生利用を巡る安全性に関しては、「放射線被ばくの健康影響は、これ以下なら安全という閾値はないとされており、できるだけ被ばくを避ける、やむを得ない場合でも被ばく量を小さくすることが求められる」と記述した。

また、「放射性物質で汚染された大量の土壌は、従来の日常には存在しなかったものであり、国民が不安を持つのは当然」とし、次のように述べた。

「クリアランスレベル100ベクレルを超えるものに関しては『放射性廃棄物』としてドラム缶に積め、一定場所に保管しなければならないはずのものを、法律をわざわざ変えて8000ベクレルという、とてつもない高レベルの『放射性廃棄物』を安全であるかのようにしてしまったことにも問題がある」

除染土が保管されている土壌貯蔵施設の上。中央付近の空間線量率は「毎時0.2マイクロシーベルト」程度だった(2月18日、中間貯蔵施設で)除染土が保管されている土壌貯蔵施設の上。中央付近の空間線量率は「毎時0.2マイクロシーベルト」程度だった(2月18日、中間貯蔵施設で)

クリアランスとは前提が違う

ここで、客観的な事実を整理する。

紫野市議は「とてつもない高レベルの『放射性廃棄物』を安全であるかのように」と答えたが、再生利用で使われる土は「1キロあたり8000ベクレル」以下のものだ。

このレベルであれば、追加被ばく線量を盛土上の作業員で年0.93ミリシーベルト、周辺住民で年0.16ミリシーベルトに抑えることができる。また、いずれも国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の「一般公衆の年間被ばくの線量限度」(1ミリシーベルト)を下回る。

そもそも日本にいる人は、自然放射線によって平均年約2.1ミリシーベルト被ばくしている。ICRPでは、大人も子どもも含めた集団で、がん死亡の確率が100ミリシーベルト当たり0.5%増加するとして、防護を考えることとしている。

さらに、紫野市議は「原子炉等規制法に基づくクリアランス基準」(1キロあたり100ベクレル以下)についても言及したが、同基準は放射線防護の規制の対象外とし、全く制約のない自由な流通を認めている。

例えば、原子力発電所で使われていたコンクリートを建築資材、金属をベンチなどに再生利用することが想定されるが、自由な流通を認めるというのは「何がどこに使われようが一切制限がない」ということになる。

一方、再生土の再生利用先は、管理主体が明確になっている公共事業などに限定される。つまり、適切な管理の下で使用するという点で、クリアランス基準とは前提が異なる。

そもそも土壌は公共工事などにも利用される貴重な資源だ。専門家は、安全性を確認できた場合、除染土の最終処分量を減らすという観点だけでなく、貴重な資源の有効利用という点からも再生利用は必要だと指摘している。

“原発反対”に関する回答

紫野市議にはこのほか、「再生利用が進まない場合、県外搬出が困難となり、中間貯蔵施設の立地町が『最終処分場』となってしまう懸念がある」と尋ねた。

すると、「事故のせいで故郷の暮らしと自然を奪われた方々が、地域の復旧・復興のために除去土壌の撤去を願うのは当然」と答えたが、「その対策は、事故を起こした東電と政府が責任をもって進めるべき」と、自ら具体的な提案をすることはなかった。

また、「これまでの原発政策においても核廃棄物の処分方法、最終処分場、保管場所も決めず、見切り発車のまま原発を増やし続け、安全神話を刷り込み、原子力に依存し続けてきた政府の原発政策は問題」とも述べた。

再生土に関する福島県外の自治体の向き合い方については、「政府が原発の最大限活用、新規建設に突き進んでいることが、事態を一層困難にしている」などと記述した。

中間貯蔵施設を苦渋の決断で受け入れた福島県双葉町の伊沢史朗町長(左)、大熊町の渡辺利綱元町長。私のインタビューでは「受け入れた理由や歴史を知って」と語っていた(いずれも2025年に撮影)中間貯蔵施設を苦渋の決断で受け入れた福島県双葉町の伊沢史朗町長(左)、大熊町の渡辺利綱元町長。私のインタビューでは「受け入れた理由や歴史を知って」と語っていた(いずれも2025年に撮影)

意見書に賛成、全会派に取材した結果は

紫野市議から回答を得たことで、「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」案を提出したり、同案に賛成したりした全会派(1会派につき少なくとも議員1人以上)への取材が完了した。

これまでに取材した市議らの発言や考え方を振り返ると、最も目立ったのは、「安全性に対する認識の違い」だった。

前述の通り、再生利用で使われる土は「1キロあたり8000ベクレル」以下のもので、福島県内の実証事業などによって安全性は確認されているが、「人に害を与える」「公害の原則として毒物は集めて集中管理すべき」と話す市議がいた。

このほか、「“低汚染状態”を加速させる」「再生土からちりやほこりが拡散して危険」「低線量被ばくも(懸念している)」という主張もあった。

なお、粉塵(ちりやほこり)については、環境省が内部被ばく(粉塵吸入)について計算しており、盛土上の作業員で年0.00013ミリシーベルト、周辺住民で年0.00061ミリシーベルトとなっている。つまり、影響は非常に小さいということだ。

次に、市議らに福島やこの問題に関する「無知や勉強不足」があることも明らかになった。

例えば、東京電力福島第一原発の電気は福島で使われず、首都圏で使われていたことを知らなかったり、苦渋の決断で中間貯蔵施設を受け入れた自治体の名前(双葉町、大熊町)を正確に答えられなかったりした。

「安全であれば動かさなくていい」と語る市議もいたが、除染土の「福島県外最終処分」は法律で定められている。その発言は「双葉、大熊両町を最終処分場にしろ」と言っているに等しく、県外最終処分を前提に重い決断をした住民の気持ちを踏みにじることに直結する。

さらに、複数の市議が「議会で提出される意見書案が多く、しっかり目を通せなかった」「詳しく調べていなかった」と打ち明けた。これは、市議らが福島の将来を左右する重要な問題を“他人事”として捉えていたことを物語っている。

三鷹市議らの発言や回答(まとめ)三鷹市議らの発言や回答(まとめ)

「急に“我が街”の話になった」という回答も

特筆すべきなのは、再生利用の理解醸成が進まない原因の一つである「NIMBY(Not In My Backyard)」問題に関連する発言が出てきたことだ。

NIMBY問題とは、公共に必要な施設だと理解しつつも、自分の近く(裏庭)に置かれることに反対することを言うが、ある市議は「処理水の海洋放出は福島県の話という認識だったが、再生土の再生利用に関しては急に“我が街”の話になった」と語った。

取材を通しての肌感覚になるが、福島県外ではこのような感情を抱いている人が少なくないように思える。

だからこそ、再生土の再生利用の安全性を理解するだけでなく、中間貯蔵施設の立地町の思いや首都圏で福島第一原発の電気が使われていたことなどを知り、それぞれが向き合っていく必要がある。

中間貯蔵施設の受け入れを「苦渋の決断」で判断した福島県大熊町の元町長・渡辺利綱さんも2月、私の単独取材に「全国の人には『総論賛成各論反対』ではなく『自分のこと』として捉えてほしい」語っていた

なお、今回の取材を巡っては、地元からも多くの声が私のもとに届いた。

南相馬市の男性は、「中間貯蔵施設は双葉と大熊の人たちが涙をのんで受け入れたもので、あのような意見書を可決した市議らがその場所を知らないなんてありえない。本当に悔しい」と憤った。

福島市の女性は、「市議らが勉強した上で結論を出したなら仕方がないと思えたかもしれないが、それどころか福島に関する基礎知識もなかったことにショックを受けた。福島第一原発の電気は東京など首都圏に送られていたが、結局は他人事なのだろう」と述べた。

中間貯蔵施設が立地する双葉町の伊沢史朗町長も5月、三鷹市議会を巡る取材結果に「一番最初に出てくる言葉は残念ですね」とため息をつき、「意見書に賛成した議員が中間貯蔵施設の場所がわからないというのは、議員の資質として問題がある。これは、はっきり言わせてもらう」指摘した

その上で、「もし自分のところにあれば、本気で議論して考えると思う。犠牲になった地域をまた犠牲にしていいのか。あまりにも情けない」と訴えていた。

原発事故で大きな被害を受けた福島と情報の向き合い方について取り上げる「ルポ『福島リアル』」。東京・三鷹市議会で原案可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」の取材を続けています。

※ハフポスト日本版はこれまで、再生利用される土も含めて一括して「除染土」と表記してきましたが、一連の問題に対する理解の妨げになっている可能性があることから、公共事業などに再生利用される土(1キロあたり8000ベクレル以下)については「再生土」と表記しています。

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Source: HuffPost