2025
06.04

認知症が「当たり前」の時代、介護と仕事のはざまで「ビジネスケアラー」が求める支援とは?

国際ニュースまとめ

高齢化が進み、認知症が多くの人にとって身近になりつつある現在。

厚労省は2040年に国内のMCI及び認知症当事者が合計で約1200万人に近くなると推計を発表している。また、2024年1月には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されるなど、認知症と共存する社会づくりが着々と進んでいる。

そうした中、日本イーライリリーと日本総合研究所は「認知症をめぐるビジネスケアラーの実情を考えるシンポジウム ~共生社会の実現に向けて、企業に求められる役割と取組み~ ビジネスケアラー向け調査結果を通じて」を共催。

ビジネスケアラー(仕事をしながら家族の介護に従事する人)や認知症当事者のウェルビーイングの向上のため、企業や社会に求められる役割や取り組みの実例などについて、専門家や企業、当事者がそれぞれの視点から語った。

認知症と共に歩む時代が、既に訪れている

パネルディスカッションの様子パネルディスカッションの様子

日本総合研究所の紀伊信之さんは、国内の認知症およびMCI(軽度認知障害)当事者の高齢者人口は、2022年時点で合計1000万人(認知症約443万人、MCI約559万人)を超え、65歳以上の高齢者の約3.6人に1人が認知症又はその予備軍と推計されていると説明。

2050年時点には認知症およびMCIは合計1200万人を超える見込みだといい、「認知症がごく当たり前の社会、認知症と共に歩む時代が既に訪れている」と説明した。また、2030年にはビジネスケアラーの人口は318万人に達すると推計されており、その経済損失は約9兆円に上るという。

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 紀伊信之さん日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 紀伊信之さん

同社はこうした状況を踏まえ、家族の介護をしている会社員1000人を対象にインターネットアンケート「ビジネスケアラー・ワーキングケアラー向け定量調査」を2024年12月に実施。ビジネスケアラー、特に認知症家族の介護者の実態と意識について一部明らかにした。

調査では、介護している家族と同居しており、1日当たりの介護時間が「ほとんど終日」と答えた人の割合は、認知症ありの家族介護の場合で約31%、認知症なしの家族介護の場合で約9%という結果になった。また、家族の介護によって「仕事に対する影響がある」と回答した人の割合は、認知症ありの家族介護の場合で50〜77%、認知症なしの家族介護の場合で23〜51%となった。仕事への具体的な影響としては、介護の精神的ストレスや肉体的疲労、業務時間の短縮や昇進機会の損失、離職の検討などが挙げられた。

認知症家族介護に関して、企業に求める制度としては「家族介護を支援する制度の周知の機会」や「正しく認知症を学ぶ機会」「家族の認知症を早期発見・診断するための支援」という回答が多かったという。

紀伊さんは調査結果を振り返り「D&Iの重要性は社会の中で高まっているものの、経営者・人事視点での従業員の介護に対する優先度は必ずしも高くはありません。より多くの企業に認知症を自分ごと化していただき、ビジネスケアラーのウェルビーイングの向上や認知症と共生する社会づくりを促進することが求められます」とコメントした。

介護に求められるのは「お互い様」の気持ち

パネルディスカッションでは、認知症やビジネスケアラーの理解の促進において、企業に求められる取り組みについて、専門家や企業、当事者が言葉を交わした。

2014年から認知症サポーター養成講座や、介護休暇などを対象に含む「ワークライフ応援プラン」を実施しているイトーヨーカ堂の小山遊子さんは、こうした取り組みの背景について「本業である接客の中で、『家への帰り方が分からない』などの今までにないお客様の声が寄せられるようになった」と説明。 接客を充実させるための取り組みが、働き手に認知症を身近に感じてもらうための環境づくりの出発点だったという。

大成建設の北迫泰行さんは「企業が従業員一人ひとりの介護に直接介入することは難しいので、弊社では独自に作成した『介護のしおり』や『ケアマネージャー提出用リーフレット』の配布、介護セミナーの実施や制度面の強化など、情報提供を中心としたサポートを実施しています」と話した。職場環境を改善するための一手として女性活躍推進を目指し、働き方における不安についてヒアリングをする中で、性別を問わず多くの働き手から「介護」という言葉が届き、ビジネスケアラーのサポートが欠かせない時代になっていると気付かされたという。

公益社団法人認知症の人と家族の会 代表理事 鎌田松代さん公益社団法人認知症の人と家族の会 代表理事 鎌田松代さん

「認知症の人と家族の会」の鎌田松代さんは「介護は育児と違っていつ始まるのかがわかりませんし、終わりもわからない。急な遅刻や早退などもあり得る中で『職場に迷惑をかけられないから』と従業員が非常勤を選んだり、辞めたりしてしまうこともあります。特に大企業ほど『制度は整ってるけれど何となく使いづらい』という状況に陥りやすいように感じます。認知症が身近な時代ですから、『お互い様』という気持ちを持って介護をカムアウトできる環境づくりが大切なのではないでしょうか」と問いかけた。

認知症の「正しい理解」がはらむ危険

2020年に鮮魚専門店で働いていた頃に若年性認知症を診断された下坂厚さんは、「当時は『何もできなくなって迷惑をかける』と間違ったイメージ持っており、すぐに退職してしまいました。初期段階ではできる仕事もたくさんありますし、もっと身近に正しい情報にアクセスする制度やサポート体制があれば多くの選択肢が見えたのかもしれません」と振り返る。

認知症の人と家族の会 下坂厚さん認知症の人と家族の会 下坂厚さん

また、早期診断や発見の重要性について「認知症を診断されたら仕事ができなくなるという不安から、受診に踏み出せない人も少なくないと思います。認知症でも役割を持って働ける環境が増えることは、受診の一歩を踏み出すきっかけにもなりますし、私自身、こうして仕事をしながら暮らす中で、症状の進行が非常に緩やかだと感じています」と話した。

鎌田さんは「特に高齢だと『疲れてるから』『精神的に落ち込んでいるから』と見逃してしまい、気づいたら重症になっていたという怖さもあります。異変を感じたときにいち早く相談できる場所や受診しやすい環境、診断後の生活への正しい理解が大切ですね。下坂さんのお話を聞いて『こんなにも理路整然とお話しされている下坂さんが認知症なの?』と驚く人も多いのではないでしょうか」と話し、早期発見の重要性を強調した。

日本医療政策機構 シニアマネージャー 栗田駿一郎さん日本医療政策機構 シニアマネージャー 栗田駿一郎さん

日本医療政策機構の栗田駿一郎さんは、正しい理解が必要不可欠であるとした上で「『正しい理解』という言葉は『あなたの理解は間違っている』ということを逆説的には意味するので、少しの危険を孕(はら)んでいるということも忘れてはいけません。仮に『正しくない理解』をしている人がいる場合、それは悪意ではなく恐れや不安、辛い原体験に起因していることがほとんどです。正しい理解の促進には、そうした緊張をときほぐすことも不可欠なので、言葉を1人歩きさせない意識もあるといいのかなと思います」とコメントした。

また、昨今の深刻な働き手不足にも言及し「企業の魅力を上げるという意味でも、認知症当事者やビジネスケアラーへのサポートは重要です。働き方の多様化により非正規社員の方も多い現代、社会全体でこの問題に向き合うにあたって企業だけではできることに限界があります」とコメント。

最後に「個人が自分の脳の健康に関心を持てるような仕組みづくりに向けて、政策からのアプローチもより求められていくのではないでしょうか」と問いかけ、イベントを総括した。

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Source: HuffPost