06.04
32年男性だと思って生きてきた。衝撃的な1本の電話がその全てを変えた

トランプ大統領は就任翌日に、「政府が認める性別は、男性と女性の2つのみ」という大統領令に署名した。
そのニュースをスマホで目にした時、私は突然背後から電話帳で頭を殴られたような衝撃を覚えた。性に関する誤情報と無知を意図的に広める大統領令に怒りを感じた。
性別やジェンダーは多様なバリエーションのある連続したつながりだということを私が知ったのは32歳の時だ。
この事実を否定すれば、インターセックス(身体の性が厳密な女性/男性の男女二元論に当てはまらない特徴を持つ人)やトランスジェンダーの当事者だけでなく、すべてのアメリカ人を危険にさらす。
政府の過剰な介入を許し、私たちのプライバシーは失われ、厳格なジェンダーによる役割が強化され、法律や医療手続きの複雑化を招く。
2017年に受けた遺伝子検査
私は2017年に、遺伝子検査サービスを利用した。唾液のサンプルを送って自分の祖先のルーツや自分の健康状態を知るという検査だった。
郵送してから数週間後に届いた1通のメールには、こう書かれていた。「あなたのDNA解析に関して追加情報を確認するため、お電話を差し上げてもよろしいでしょうか」
私は数分以内に返信した。自分のルーツが北西ヨーロッパなのは明らかだったので、DNA解析会社が何を確認したがっているのかさっぱりわからなかった。私は典型的な白人だ。何を知りたいというのだろう。
1回目の着信音で私は電話に出た。
「こんにちは、カスタマーケアチームのエイブリーです」と電話口の相手は言った。「個人情報をいくつか確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
私が自分の名前を伝えると、エイブリーは「ご住所は? 年齢は? 性別は? 採取用のチューブをルームメイトやパートナーと共有しましたか?」とたたみかけるように質問を続けた。
なぜ、DNAのサンプルを採取するチューブを他人と共有するというのだろう? 絶対にそんなことはしない。
「骨髄移植を受けたことはありますか?」
これも、答えはノー。
エイブリーの尋問が終わりに近づくにつれ、予想とは異なる検査結果を告げられるような気がしてきた。
ちょっとぐらい変わった結果が出てもいいとは思っていたが、「変わりすぎ」は嫌だった。
実はルーツは西ヨーロッパではなかったという結果が出ると面白いな、なんて頭の中で考えていた。一番望んでいたのはハッピーアワーで初対面の人と話す時に使える30秒くらいの面白いネタが手に入ることだった。
エイブリーが咳払いをして、私は再び電話の会話に引き戻された。
「わかりました」という彼女の言葉で私の思考は遮られた。エイブリーはこう言葉を続けた。「ご回答から判断したところ、DNAに不一致が見られました」
「不一致?」
「そうですね」と話すエイブリーは、顧客が受け入れやすい言葉を探している様子だった。
「あなたはプロフィールで『男性』と登録されていますが、DNA上では『女性』のようです」
テネシー州の私立キリスト教の高校に通っていた時、私が一番好きだった授業は生物だった。
生物の授業では、パネットの方形や遺伝形質が受け継がれる過程は学んだものの、性別がスペクトラム(連続体)であるとは教わらなかった。
授業で教えられたのは、男性はXY染色体で男性器があり、テストステロン値が高いということ。女性はXX染色体で女性器を持ち、比較的テストステロン値が低いということだった。
しかし、染色体、ホルモン、外性器、体内の生殖構造には、さまざまな組み合わせが存在するということは知らなかった。
「インターセックス」という言葉を耳にしたのは高校を卒業して何年も経ってからだ。しかしその時でも、インターセックスの特徴が出生時の約2%に見られる、つまり世界的に赤毛の人と同じくらい一般的であるという可能性は知らなかった。
電話を耳に当てながら、私は神経質に笑った。頭の中でDNAに関する残りの知識を必死に探しながら、ごまかすように時間を稼いだ。
エイブリーは「当社の検査では、X染色体とY染色体上の遺伝的マーカーを調べて、母方と父方の系統をたどります」と説明した。
「母方の系統を示すX染色体のマーカーは確認できましたが、父方の系統を示すY染色体のマーカーは見つかりませんでした」
その後は、自分の元のアイデンティティを取り戻すために、フリーマーケット終了間際に必死に値段交渉をするかのような会話になった。
エイブリーは、私のY染色体の情報を提供できないと繰り返し説明し、私が住む地域の遺伝カウンセラーのリストを送ると言ってくれた。
「もしかしたら、その人たちが助けてくれるかもしれません」
遺伝専門医の診療を受けた
その後の13カ月間、私はなぜ自分が女性のDNAを持っているのかを理解しようとした。
Googleで調べると、よくあるケースから極端なものまで、さまざまな可能性が出てきた。
クラインフェルター症候群(XXY染色体を持つ状態)のほか、糖尿病や自己免疫疾患、心血管系障害、認知機能の低下のリスクが高いという情報もあった。
Y染色体がないというのが私自身にとってどういう意味を持つのかを理解するには、専門家の助けが必要だった。
私はついに、ニューヨーク市マウントサイナイ医科大学の遺伝学専門医の診察を予約した。窓から陽の差し込む診察室にいた医師はとても親しみやすく、熱心に話を聞いてくれる印象を受けた。
医師は私の許可を得て、遺伝カウンセラーと医学生を診察室に招き入れた。私たち3人は、医師の診断に熱心に耳を傾けた。
「あなたは『性分化疾患(disorder of sexual development)』という状態です、具体的には、あなたのケースは『XX精巣性DSD』といいます」
医師はそう言うと、その後の説明を学生に任せた。
「通常、男性の精子が形成される過程では、X染色体とY染色体が擬常染色体領域で組換えを行います」と言いながら、学生は私の目の前の机の上にある白紙に複雑な図を描いた。
「でも、あなたの場合」—— そう言って、学生は私の父親のY染色体の一部を丸で囲んだ——「SRY遺伝子という遺伝子のひとつが、Y染色体からX染色体へ転座したのです。そのため、染色体の核型分析ではあなたは『女性』と分類されますが、外見的な特徴から、これまで『男性』として扱われてきた可能性が高いです」
舌をかみそうな説明だった。私は同じ言葉を繰り返そうとしたが、まるで初めて口にする外国語のような感じでうまくいかなかった。
SRY遺伝子の転座が起きたということは、男性の性器が一部発達していたことを意味する。私の場合、外性器は典型的な男性である一方で、内部の生殖機能はあいまいで、ホルモン分泌は不規則性であり、不妊の可能性も高いということだった。
私が言葉に詰まりながら話そうとすると、医師がさらに噛み砕いて説明してくれた。
「インターセックスという言葉について、どう思われますか?」と尋ねられた。
「うーん……正直、今まで特に考えたこともなかったです」
DNA検査を受けるまで、私は性別をあいまいなものとして考えたことはなかった。
私が育った南部バプテスト派教会では、神の創造にこれほど多様性があるなんて教えられなかった。すべてはアダムとイブで説明され、恐竜時代には触れないという感じだった。
思春期に性についての情報を得られたのは、地下室の本棚にあった百科事典かシアーズのカタログの下着のページくらいだった。
性別とは常に「男性」か「女性」で完全にわかれていて、重なり合うなんて考えたこともなかった。自分自身のアイデンティティに疑問を抱く理由が生じるまで、疑問そのものが存在しなかったのだ。
遺伝学の医師は、「インターセックス」という言葉は、性器やホルモン、染色体などに影響を与える、自然な多様性を幅広く含む包括的な用語だと説明してくれた。
これらの特徴は、出生時に現れることもあれば、思春期にわかる場合もある一方で、外見に一切現れないことも多いという。
人間の体には、事実上無限とも言える組み合わせが存在しているのだ。インターセックスとトランスジェンダーは異なる。また、実際に目に見えているよりもはるかに多くの人々に影響を与えている。
この話を理解しようとして、頭が混乱し始めた。最悪のシナリオも頭をよぎり、知ったばかりの事実が賞味期限を過ぎた牛乳のように胃に重く沈んでいった。
人にどう説明すればいいのだろう?秘密にしておけるのだろうか?将来の健康に影響はあるのだろうか?長生きするためには、男性として診療を受けるべきか、それとも女性?
それでも私は「こうして話を聞いてみると、色々と納得がいきます。これまで自分でもよくわからなかったことが、少し理解できた気がします」と言った。
たとえば、年齢の割にテストステロン量が非常に少ないことのほか、口にしたことのないもっと個人的な兆候についても思い当たる節があった。
私は子どもの頃から自分は変わっていると感じてきた。でも、目の前にいる3人の女性のおかげで、自分は「おかしい」わけではないかもしれないと思えるようになった。
検査を受ける前、私は自分がどこかおかしいのではないかとよく感じていた。同年代の男性と比較して、自分の体はどこかが壊れているんじゃないかと感じていた。筋肉がつきにくく、いつも疲れていて、頭の働き方が違うような気もしていた。でもようやく、自分が「普通」の型に当てはまらなかった理由がわかったのだ。
医師は、ホルモン補充療法や骨粗しょう症予防法のほか、活力が増し、健康的な生活を送るために役立つ健康情報やリスクを説明してくれた。私が単に「男性」または「女性」とだけ分類されていたら、こういった選択肢や情報は得られなかったかもしれない。
この時の診察で、私は自分の体について深く理解すればするほど、より健康でいられると考えるようになった。
性を二元論にすることの問題
性を「男か女か」の二元論で語るのは、あまりにも現実を単純化しすぎている。そうした単純化された、科学的根拠のない考え方や、そこから生まれる政策は、すべてのアメリカ市民にとって有害だ。
もし出生時に性別が厳格に定義され、後から変更できないのであれば、私のような人間は法的な問題に直面するかもしれない。政府や民間企業による差別の可能性も生まれる。
アメリカでは、推定560万人がインターセックスの特徴を持っている可能性があると言われている。その一方で、出生時に外見でインターセックスだとわかる人は、約5000人に1人と考えられている。
多くの人が、思春期や医療検査、不妊治療などを通じて、自分がインターセックスであることに気づくのだ。
想像してみてほしい。あなたの子どもやきょうだい、大切な人が、大人になってから自分がインターセックスだったことを知り、必要な医療を受けられなかったとしたら。
インターセックスの当事者ではない人にとっても、性別で病状が厳格に分類され、それに合致しない疾患を保険がカバーしないとしたらどうだろう?男性でも乳がんになることはある。
私はDNA検査を受けてからの8年間で、少しずつ家族や友人たちに診断のことを伝えてきた。彼らの多くは保守的な考えを持つ人たちだ。全員が「信じられない」という反応を示し、「すごい話だね」と何度も言われた。性別が白黒はっきりしないという考え方は、私のコミュニティにとって驚きで、衝撃だった。
それでも彼らは私を信じ、支えてくれている。しかしその中には、診断書のないトランスジェンダーの当事者を批判する人もいる。DNAの証拠があろうとなかろうと、インターセックスもトランスジェンダーも現実に存在する。私たちはそれを知っておかねばならない。
診断のおかげで、私は健康や生活の質を改善する治療を受けることができた。しかしそれ以上に、診断は私の政治的な考えにも大きな影響を与えている。私は典型的な枠にはまらない人々に対して、より深く共感するようになった。
性やジェンダーのスペクトラムの中では、私は軽視されがちな端にいる。しかし多くの人たちは日々、必要な医療や存在の承認のために闘わなければならない。インターセックスやトランスジェンダーの当事者ではない人たちも、大統領令に腹を立てるべきだ。なぜなら、少なくともこれはプライベートな問題への政府の干渉を許すからだ。また言うまでもなく、残酷な行為だ。
たとえ大統領令がインターセックスやトランスジェンダーの存在を否定したとしても、私たちを消し去ることはできない。しかし私たちの命を危険にさらす。私たちの国の人間ひとりひとりの物語を検閲しようとする指導者がいる今こそ、私たちが真実を共有していくことが重要だ。
※プライバシー保護のため、登場人物の名前や詳細の一部を変更しています。
筆者 J・ベン・モートン:子どもの頃に教えられた宗教的な教義と抑圧的なシステムの影響を探求するインターセックスのライター。バイブルベルトで育った若いクリスチャンが未来への期待を失い新しいアイデンティティを築くために必要な回復力を描く回想録『Good Grief(グッド・グリーフ)』を執筆中。帰属意識をテーマにした物語がエッセーの基盤になっている。
ハフポストUS版の寄稿を翻訳しました。
Source: HuffPost




