2025
05.28

東京・三鷹市議会「“汚染土”意見書」、維新・参政の2市議が賛成した理由。2年前の「“処理水放出中止”意見書」には反対

国際ニュースまとめ

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「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」が3月、立憲民主党や共産党などの賛成多数で可決された東京都の三鷹市議会。

私はこれまで、同意見書案を提出したり、賛成したりした市議らを取材し、その理由についてシリーズルポ『福島リアル』で報じてきた。再生土に関してどのようなことに不安を持っているのか、どんな情報が足りないのかが明確になれば、問題が一歩前進すると思ったからだ。

実際、これまでの取材で、市議らに再生土の安全性に関する認識の違いのほか、苦渋の決断で中間貯蔵施設を受け入れた自治体を正確に答えられないといった「基本的な知識の不足」があることが明らかになった。

さらに証言を積み重ねるため、私は5月8〜15日、意見書に賛成した日本維新の会と参政党の市議2人に話を聞いた。安全性への見解やこの問題に関する知識を尋ねる目的もあったが、それ以上に聞きたいことがあった。

実は、同議会では2023年、「理解と合意なきALPS処理水の海洋放出の中止を求める意見書」案も提出されたが、2人はこれに反対していた。処理水、再生土、どちらも福島の将来に関わる重要な問題だが、この判断の分かれ目はどこにあったのかーー。

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三鷹市議会で今年3月に可決された意見書三鷹市議会で今年3月に可決された意見書

維新の市議に取材

5月8日午前9時30分、三鷹市議会協議会室で、教育などについて話し合う「文教委員会」が始まった。委員や委員長として出席した市議は6人。序盤は義務教育学校に関する行政報告が行われ、1人の委員が積極的に質問していた。

委員長席の後方には、「贈 姉妹町 矢吹町」と紹介された絵が飾られていた。描かれていたのは3羽の鳥とマツの木。鳥はタカとみられ、3羽のタカで「三鷹」、マツの木は矢吹町(福島県)の木・アカマツを表しているのだろうか。

三鷹市と福島県矢吹町は1964年に姉妹市町関係を締結した。東日本大震災の際、三鷹市は物資の提供や職員派遣で矢吹町を支援し、約3700の図書蔵書も寄贈している。

そんな2市町の繋がりを感じながら委員会を傍聴していると、あっという間に正午になった。休憩に入ったため、私は委員会室の外で維新の中泉淳市議を待ち、出てきたところで名刺を渡した。「意見書の件で」と話すと、中泉市議は「わかりました」とハキハキとした口調で応じ、議員サロンという部屋に招いてくれた。

取材の趣旨を話した後、早速「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」に賛成した理由を聞いた。中泉市議は、「基本的に今の政府が進めていることに『ちょっと待って』と言わなければならないと思っている」と述べ、次のように語った。

「賛成派、慎重派、両方の意見に耳を傾けてほしい。本当に権力側だけの資料をベースにして進めてもいいのか。『慎重に』と言っている人の声や検証は必要だと思っています」

中泉市議は前職時代、東日本大震災後の福島県や岩手県で支援活動に入った経験もあるという。

ウェブサイトのプロフィール欄には、出版文化、読書関連の財団法人で29年間勤務し、子どもの読書推進や英訳出版事業、出版文化産業の振興に関わる活動に従事したとある。

中泉市議は「福島の人たちの苦労を全く知らないというわけではない」とし、「きちんと検証したり、皆さんに理解されたりした上で協力しようという話が出る。まだそこに至っていないのでは、という思いはずっとある」と話した。

三鷹市役所三鷹市役所

なぜ判断に違いが出たのか

では、再生土の安全性についてはどう考えているのか。安全性に不安や危険を感じているというよりは、国による説明が行き届いていないという思いから意見書に賛成したのか。

こう質問すると、中泉市議は「理由を一つに集約できるかどうかは別にして」と前置きした上で、「それは大きな要因の一つと認識してもらっていいです」と語った。重ねて、「国民に周知し、理解を得た上で協力を求める。そこに至っているのですか、と思っている」と話した。

私はどうしても聞きたかったこととして、2023年第2回定例会期間中の6月30日、野村羊子市議(無所属)が提出した「理解と合意なきALPS処理水の海洋放出の中止を求める意見書」案に関する話をした。

この意見書案には、福島第一原発の処理水を海洋放出すると、「有機トリチウムに変化し、食物連鎖等により濃縮され、生態内で内部被曝が続く」「トリチウム排水の多い、カナダのCANDU炉周辺や日本でも加圧水型の原発のある玄海町や泊村で、白血病やがんの多発が報告されている」などと書かれていた。 

当時、立憲や共産の市議らが意見書案に賛成したものの、中泉市議は反対に回り、結果的に11対15の反対多数で否決された。処理水、再生土の再生利用は、いずれも国際原子力機関(IAEA)などが安全性を認めているという点で同じだが、なぜ今回の意見書には賛成したのか。

中泉市議は、「私は原発について、賛成、慎重、反対の人たちそれぞれが多様な意見を出し合うべきだと思っており、それを進めている自民党政権下で慎重と反対の意見が蔑ろにされるのはよくないと一貫して思っています」と語った。

正面からの回答として受け止められなかったため、私はもう少し詳しく質問することにした。

再生土の再生利用を巡っては、「公的に必要なものだと理解はできるが、自分の裏庭には置いてほしくない」という「NIMBY(Not In My Backyard)」問題が指摘されている。処理水の海洋放出は福島の話だが、再生土の再生利用は“我が街”の話になった。自分の裏庭には置いてほしくないという気持ちがあったのではないかーー。

中泉市議は迷いなく、「というわけではないですね」と否定し、「あれはだめ、これはだめと煽る気はなく、そうした活動をしたこともない。ただ、それをおし進める側は、慎重派の意見を聞き、その方々に納得してもらう努力をしているのか、と言い続けています。これは私の政治スタンスです」と述べた。

野村羊子市議が提出した処理水を巡る意見書の一部(2023年)野村羊子市議が提出した処理水を巡る意見書の一部(2023年)

「皆に理解」という点では不足している

文教委員会も午後の部が始まろうとしていた。私は休憩時間を割いて取材に応じてもらったことに感謝しつつ、先ほどまでの回答の真意をさらに深掘りしようと質問を重ねた。

——再度の確認ですが、再生利用される土の安全性については問題ないと思っていると理解していいですか。

「研究者の見解や報道から、人体にさほど影響はない、自然にも(放射線は)あるよねということがあって、それを第三者的な中立的な方々が担保・検証するのであれば、受け入れが広がっていいと思います。しかし、検証、担保、広報がされているかどうかについては今のところ懐疑的ですね」

——第三者の目線で言えば、IAEAが担保していると思いますが、原発に関係する機関だから第三者としては認められないということですか。

「そうですね。慎重な方々の検証も受け入れてもらえればいいのではないでしょうか。何がなんでも強く反対というわけではなく、きちんと国民の理解が深まっていない中、進めたい側は丁寧に説明しなければならない。理解を深める努力をする期間は10年もあった」

——ということは、処理水の海洋放出に関しては、国はしっかり説明できていたという認識なのでしょうか。こちらもIAEAが安全性を担保しました。

「処理水の時は意見書が出された時点で既に議論が深まっていて、多くの情報が発信されていました。今回はそういう機運を醸成しなければならない。権力や予算を持つ人たちは市民と向き合い、声を反映させてほしい」

——再生土に関して、追加被ばく線量が年1ミリシーベルト以下になるという環境省の説明が信用できないのではなく、説明が足りていないと感じている。

「皆に理解を求めるという点では不足しているよね、というのはあります。進めたい側と『慎重に』と言う側が、『これだったら大丈夫』と言うのであれば、理解は広がるのでは。国はその努力のために、予算や人をつけるべきです」

——では、どれくらい説明したら納得できるのでしょうか。

「数量的にうんぬんではなく、皆さんが『そうだよね』となればいい。もちろん福島のために、というのはありますが、国の説明は伝わってきません。理解を求める作業を飛ばして何かをするというのはどうなのか」

——三鷹市議としてそう思っていると。

「一人の人間としてもそう思っています。中間貯蔵施設の除染土の4分の3は持ち出しても大丈夫だという報道もあります。慎重派も一緒に検討した上で、『そうだよね』と言える努力をしてほしい。国は全力で取り組む責任がありますが、全力でやっているのかなと感じています」

除染土が保管されている土壌貯蔵施設の上。中央付近の空間線量率は「毎時0.2マイクロシーベルト」程度だった(2月18日、中間貯蔵施設で)除染土が保管されている土壌貯蔵施設の上。中央付近の空間線量率は「毎時0.2マイクロシーベルト」程度だった(2月18日、中間貯蔵施設で)

参政党の市議は取材に

それから1週間後の5月15日午後6時20分頃、私はJR三鷹駅近くで参政党の蛯澤征剛市議に話しかけた。

蛯澤市議は元小学校教員で、2023年に三鷹市議選で初当選。野村市議が同年6月に提出した「理解と合意なきALPS処理水の海洋放出の中止を求める意見書」には、維新の中泉市議と同様に反対した。

蛯澤市議は、私が三鷹市議会を取材していることを知っている様子で、「何回も来てもらうのは申し訳ないから」と、立ち止まって話を聞いてくれた。

2023年の処理水を巡る意見書については、「確かに反対しました」と回答。「処理水の時は情報量が多かったと記憶しています。ただ、それから時間が経ち、今の国がやっていることは信用できないという思いがどこかにあった。再生利用の話も、実証事業に反対の声が上がっていると聞いています」と語った。

また、「どちらかというと、みんなのある程度の合意が取れるまでは賛成はできないと思った。賛成か反対かのどちらかしかないというのはあるが、『諸手を挙げて意見書に反対』という感じではなかった」と話した。

回答の内容は、維新の中泉市議と似ている部分もある。再生土の安全性というよりかは、どちらかというと再生利用に関する情報の少なさに疑問を持っている。

「福島県外では約8割の人がこの問題をよく知らない」といった環境省の調査結果もあるが、取材を通してそれ以上の「無関心さ」を私も感じている。処理水の海洋放出時と比べるとなおさらだ。

このままでは「苦渋の決断で中間貯蔵施設を受け入れた双葉、大熊両町のために協力したい」という機運は生まれにくい。一刻も早く、安全性や再生利用の必要性、地元の思いを社会に浸透させていく必要がある。

中間貯蔵施設を苦渋の決断で受け入れた福島県双葉町の伊沢史朗町長(左)、大熊町の渡辺利綱元町長。私のインタビューでは「受け入れた理由や歴史を知って」と語っていた(いずれも2025年に撮影)中間貯蔵施設を苦渋の決断で受け入れた福島県双葉町の伊沢史朗町長(左)、大熊町の渡辺利綱元町長。私のインタビューでは「受け入れた理由や歴史を知って」と語っていた(いずれも2025年に撮影)

「未知のものがくる」感覚になるのか

私は「再生土の再生利用の場合、そもそもの情報量が少ないため、都民の人にとっては『未知のものがくる』みたいな感覚になるのか」とも尋ねた。すると、蛯澤市議は「それは少なからずあるとは思います」と答えた。

以前、再生土の再生利用に詳しい北海道大学大学院工学研究院の佐藤努教授を取材した際、「何が不安なのかがわからないといった状態では理解醸成は進まない」という話を聞いた。

コミュニケーションは、話す側がまず信頼感を得て、相手が知りたいことを伝えていくという作業が必要だが、再生土の再生利用の話は「いきなり感」を感じている人もいるのではないか、と見解を語っていた

もちろん、福島の将来を左右する重要な問題であることから、議員は基本的な知識を頭に入れた上で判断しなければならない。根拠もなく不安や危険を煽ることや、中間貯蔵施設の場所がわからないといった基本的な知識の不足はもってのほかだ。

ただ、国やメディアができることはもっとある。処理水の海洋放出の際は、国が安全性に関する情報を積極的に発信するなどし、福島が誇る水産物「常磐もの」の価格が下がるといった風評被害は生まれなかった。メディアの世論調査でも、「処理水の海洋放出は問題ない」という意見が多くを占めた。

しかし、今回は科学的な安全性や中間貯蔵施設を受け入れた地元の思いをしっかり発信することができているのだろうか。最終処分まで「あと20年ある」ではなく、「もう20年しかない」という危機感を持たなければならない。

私は最後に、「福島県外の自治体は再生土の問題にどう向き合うべきなのか。都内に再生利用について勉強できる施設を作ったほうがいいのか」と質問した。

蛯澤市議は、「象徴的なものがあってもいいかもしれません。それと組み合わせて、情報が一気に広まるような発信があればいいのだと思います。そうすると、知事の集まりで話題になるなどし、再生土を受け入れようという話が少しずつ出てくるのかもしれません」と語った。

原発事故で大きな被害を受けた福島と情報の向き合い方について取り上げる「ルポ『福島リアル』」。東京・三鷹市議会で原案可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」の取材を続けています。

※ハフポスト日本版はこれまで、再生利用される土も含めて一括して「除染土」と表記してきましたが、一連の問題に対する理解の妨げになっている可能性があることから、公共事業などに再生利用される土(1キロあたり8000ベクレル以下)については「再生土」と表記しています。

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Source: HuffPost