05.26
日本アニメが世界でもっと成長するために。足りないのはこの3つだ。
アニメビジネスに詳しいコンテンツアナリスト、尾形拓海さん(株式会社Haru代表)が、日本のアニメ産業の世界戦略と向かうべき方向について考えます。第五回は、『さらなる成長のための3つの提言』について。
第一回:日本アニメ3.5兆円、急成長する世界戦略に潜む「落とし穴」
第二回:『NARUTO』級作品はアニメだけではもう生まれない。日本アニメ、世界での本当の人気ランキングと「稼ぐ力」の可能性を分析した。
第三回:知られざる、現代アニメ業界のビジネスモデル。アニメ自体は宣伝媒体、二次展開で稼ぐモデルとは?
第四回:第二のYOASOBI、CreepyNutsは生まれるか?日本アニメのグッズ・音楽・ゲーム展開、海外進出の現状
第五回:日本アニメが世界でもっと成長するために。足りないのはこの3つだ(今回はここ)
これまで、客観的なデータとファクトを用いて海外におけるアニメ人気の実態を分析してきました。
業界の末端にいる人間として少しでもアニメの未来に貢献するために、分析した内容を元にして、日本のアニメが世界でさらに成長していくために重要なポイントを以下の3点にわけて、提言していきます。
- 優れた原作を生み出すための支援
- 継続的にコンテンツを供給できるスキーム・組織作りの支援
- グッズを中心とした戦略立案・マーケティングの支援
現在、日本政府は「知的財産推進計画 2024」及び「新たなクールジャパン戦略」という枠組みに基づいて、アニメを含むコンテンツ産業を基幹産業と位置付け、戦略的な取り組みを進めています。特に、アニメ産業の海外市場における成長は重要なテーマとして位置づけられています。
この流れの一部として、経済産業省は2025年3月11日に『エンタメ・クリエイティブ産業戦略 中間とりまとめ案』を公開しました。この中間案の「3-2.アニメ」の項目では、「更なる海外市場の獲得と多角的なIP展開」を目標に掲げ、具体的なアクションプランを提示しています。今回提言する3つのポイントも、このアクションプランに紐づけることでより実効的で立体感のある内容になると考えています。
経産省が提示したアクションプラン①優れた原作を生み出すための支援
これまでの分析によって明らかになった重要なポイントは、「海外において毎クール制作される50本近い新作アニメの中で人気上位に食い込むのは非常に限られた作品のみであり、安定的に人気を支えているのはレジェンダリータイトルである」ということでした。
日本のアニメが海外市場でさらなる成長を遂げるためには、レジェンダリータイトルの持続的な展開はもちろん、海外でもヒットする「覇権作品」を継続的に生み出す必要があります。
覇権作品を生み出す上では、「人気の高い原作を調達し、それをアニメ化する」という手法が、再現性の高い成功モデルであることが分かりました。しかし、MyAnimeListのランキング上位に名を連ねる作品の原作は、漫画やライトノベルの中でも極めて希少であり、その調達市場は非常に競争が激しい状況にあります。
したがって、海外でもヒットする覇権作品を継続的に生み出すためには、まず優れた漫画やライトノベルを増やすことが重要です。
官民が一体となってアニメ産業の海外進出を本格的に加速させるのであれば、実はアニメ作品そのものの制作に資源を集中させる前に、「原作の創出」にこそ力を注ぐべきです。
現在は漫画とライトノベルが主流ですが、ウェブトゥーンやインディーゲーム、ショートドラマなど、新しいメディアも登場しています。
こうした新規メディアも視野に入れつつ、「優れた原作」を生み出すために不足している要素を特定し、その課題を解決する取り組みを官民連携で推進していくことが求められます。
②継続的にコンテンツを供給できるスキーム・組織作りの支援
次に、「海外でも注目を獲得した覇権作品であっても、続編やスピンオフを継続的に投入したり、新作配信がない間もグッズやキャンペーン施策等の関連コンテンツを供給し続けないと、ファンはすぐに他のコンテンツへ目移りしてしまい、レジェンダリータイトルになれない」という点も重要です。
この課題の背景には、日本のアニメが主に製作委員会方式で制作されていることがあります。
この方式では、作品がリリースされる前、つまりヒットするかどうか不確実な段階でファン育成に向けた積極的な投資判断を行うことが難しく、結果として十分な準備が整わないまま作品が市場に投入されてしまいます。
また、実際にヒットした後も、二次展開に向けて迅速かつリスクを伴う意思決定をすることが困難であるため、ヒットの勢い(モメンタム)を逃してしまうケースが多々あります。
さらに、海外展開においてIPエージェントに依存しすぎていることも課題として挙げられます。作品によっては、権利者が海外展開を十分にコントロールできず、市場の機会に柔軟に対応できていないこともあります。
政府の検討でも、ファンドの組成や公的な補助金の拡大といった資金調達方法の多様化、また海外市場でも通用するビジネスプロデューサーの育成が重要な施策としてあげられています。
これらの施策は、上記課題を解決することを通じて、海外で注目を獲得した後も、ファンを育成するためのコンテンツを継続的に供給できるようになることを目標に設計されるべきでしょう。
③グッズを中心とした戦略立案・マーケティングの支援
二次展開においては、アニメを通じた音楽輸出は、言語の壁もありグローバルへの本格的な進出には時間がかかるかもしれません。
ゲームは国内外問わず非常に競争が激しく、そもそもゲーム化できるアニメ作品がかなり限られていること、またリリース後の運営が難しく、数年でサービスを終了するタイトルは今後も増え続けるでしょう。
一方、グッズは比較的ロングテールな構造になっており、海外市場でも多くの作品に門戸が開かれています。日常生活に溶け込みやすく、作品への愛着を高めるのに特に有効なメディアでもあります。
政府の検討で言及されている海外展開戦略の立案やマーケティングの支援は、このようなメディア毎の特徴を踏まえ、音楽やゲーム、イベントなども視野に入れつつ、軸足はグッズビジネスに置いて設計されることで、より効果的になると考えています。
3つの提言私は、アニメを映像コンテンツの一ジャンルではなく、それ自体が一つのメディアだと捉えています。
アニメでしか表現できないストーリーとアートが間違いなく存在します。
私自身、アニメだったからこそ救われた場面や、勇気をもらえたことが何度もあります。それは、多くのアニメファンに共感してもらえるはずです。
そして、その魅力と可能性に国内外で多くの人が関心を抱き始めており、国家規模での支援も含め、これまでにない追い風を受けている状況です。
この風に乗って世界へ広がるには、まだ乗り越えなければならない課題が多く存在しますが、客観的なデータとファクトを見ながら最善の手を打つことができれば、必ず解決することができると信じています。
私も業界の末端にいる人間として、その未来に向けて企業やクリエイターをサポートしていきたいと思います。
(このコラムは、尾形拓海さんによるハフポスト・オピニオンへの寄稿です。内容は必ずしもハフポスト日本版編集部やBuzzFeed Japanの意見を反映するものではありません)
Source: HuffPost

