05.19
トランプの「テイラー・スウィフトは魅力的じゃない」発言が示す、性差別と時代遅れの思考とは

アメリカのトランプ大統領は、2024年の米大統領選挙で歌手のテイラー・スウィフト氏がカマラ・ハリス氏を支持したことを、今でも恨んでいるようだ。
トランプ氏は5月16日、「『テイラー・スウィフトなんか大嫌いだ』って私が言ってから、彼女がもう“魅力的”じゃなくなったのに、気づいている人はいるだろうか?」とトゥルースソーシャルに投稿した。
【画像】ハリス氏支持を表明したスウィフト氏と、「テイラー・スウィフトは魅力的ではない」と揶揄するトランプ氏の投稿
戦争や関税、食品価格の高騰、医療など国内外の問題が山積する中で、間も無く79歳になろうとする一国の大統領が一人の女性を「魅力的ではない」と侮辱する投稿は、多くの問題があるだけではなく、非常に子どもじみている。
ペンシルベニア州の結婚&家族セラピスト、サマンサ・ローズ氏は「投稿の口調と内容は、衝動的、一方的で基本的な礼儀さえ欠いており、子どもっぽい行動を思わせます。子どもと比較することは、子どもに対して失礼かもしれません」とハフポストUS版のメール取材に述べた。
トランプ氏の投稿にはどのような問題点があるのか、ローズ氏ら子どもや若者の行動に詳しい3人の専門家に聞いた。
「男はこういうもの」という性差別的で時代遅れの思考を強化する
学校で男子が女子を冷やかす行為は、残念ながら珍しくない。かつては「冗談」と受け取られていたが、今では有害性が認識されている。
ローズ氏は「(トランプ氏の投稿は)『男の子はこういうものだから、仕方ない』という、問題のある決まり文句を思い出させます。このフレーズは、女の子の尊厳や境界線を犠牲にして、不適切な行動を正当化するために使われてきました」と述べる。
テキサス州の心理療法士マナヒル・リアズ氏は「発言は、性差別や家父長制に深く根ざしていると思います。女性、特に若い女性をモノのように扱う視点に基づいています」と語った。
「(スウィフト氏を)嘲笑し、見下す発言です。歌手としての能力についての批判であれば、まだマシだったかもしれませんが、表面的なことについて『自分がもう魅力的ではないと言ったからそうなんだ』と主張しています。それは事実ではありません」
ペンシルベニア州の結婚&家族セラピストであるヘイリー・シーハン氏は「女性の価値が魅力的かどうかで決まるというメッセージを強化する上、その“魅力”を決めるのは男性だという考え方も含んでいます。有害ですし、面白くもありません」とメール取材に述べた。
子どものような未熟さを露呈している
大人であれば、自分の感情を整理した上でSNSに投稿することを期待される。しかし、リアズ氏は「トランプ氏が何度か考えて投稿ボタンを押したとは到底思えません」と述べる。
「アメリカ合衆国の大統領である以上、何かを投稿する前には、自分自身と向き合う責任があります。大統領であり、権力を持っており、その言葉に人々が耳を傾けるからです。だからこそ、自分の発言内容を熟考することが重要です。しかし、そうしていないと思います」
衝動的な行動は子どもによく見られ、未熟さの表れでもある。
シーハン氏は「セラピストとして、子どもたちの感情的で衝動的な発言を聞くことがよくあります。彼らはまだ自分の気持ちを表現する方法を学んでいる途中です。しかしそれでも『彼女はもう魅力的じゃない、自分がそう言ったから!』なんて発言はしません」と語る。
また、トランプ氏のコメントは「感情的成熟の著しい欠如を示している」と指摘する。
「まるで校庭での会話で聞くようなセリフです。世界的なリーダーから発せられるような言葉ではありません。『どうせ君の誕生日パーティーになんか呼ばれたくなかった!』と言っているかのようです」
「防衛的な虚勢」と呼ばれる行動
この子どもによくみられる行動に、セラピーの分野では名前がついているという。
シーハン氏は「セラピーでは、これを『防衛的な虚勢(protective puffing)』 と呼びます。不安や拒絶、無力を感じた時、相手をけなしたり価値を下げたりすることで、主導権を取り戻そうとするのです」と説明する。
「子どもは仲間外れにされた時によくこういう反応をみせますが、大人へと成長する段階で、脱却していくべきものです」
「トランプ氏は感情を整理する代わりに、成功して影響力のある女性を外見で評価し、自分が認めない限りは魅力がないと決めつけるという最も未熟な行動をとっています」
子どものような「自己中心的な視点」
物事を自分を中心に考えたり、周りも自分と同じように考えていると思い込んだりすることも、成長とともに克服すべき考え方の一つだ。
リアズ氏は「(トランプ氏は)投稿には『自分もそう思う』という反応しか来ない』と思ったのでないでしょうか。それは、非常に自己中心的な思考です。成長過程の子どもであれば健全で正常な考え方ですが、大人になると人間関係を阻む要因になってしまいます」と指摘する。
「2〜7歳くらいの子どもは、他人の視点を理解するのが苦手です。たとえば、いないいないばあで目を閉じると、子どもは自分が消えたと思い込みます」
「これが10代になると、『自分が考えていることは他のみんなも考えている』『自分が部屋に入った瞬間から他の人の現実が始まる』と思い込むようになります。
10代の頃は「架空の観客」がいて、みんなが自分を見て評価しているような感覚に陥るという。
「自分が考えていることを他の人も考えているような気がして、自分の考えを口に出したくなります」
10代でみられがちな「集団浅慮」
リアズ氏はトランプ氏の発言には「グループ・シンク(集団浅慮)」が強く表れているとも話す。
「これは、一人のリーダーの言うことに全員が従うという構図です」
「高校でもよくあります。一人が大々的に発言して、みんなが従う。そこで『それは間違っている、いじめるのは良くない』などと逆らえば、仲間外れにされる恐れがあります」
リアズ氏は、トランプ氏には「自分がそう思うなら、みんなもそう思っているに違いない」という集団浅慮があるのだろうと推察する。
「10代の若者は『自分が嫌いならみんなもきっと嫌いだ』という発想をしがちですが、それは真実ではありません。私たちは一人一人異なる考えを持つことができるのです」
トランプ氏はヒエラルキーの頂点にいるので、周りがその発言に懐疑的な見方をすることはない。リアズ氏は、「疑問を持つとそのグループから追い出される可能性がある」と指摘する。
「集団浅慮の集団で生き残るのは、集団浅慮をする人たちだけなのです」
注目を集めたくて騒ぐ
ローズ氏は「トランプ氏はよく、怒りを煽って人々の注目を独占するレイジ・ベイティングに頼っています。挑発的な行動で、倫理的な問題があります」と話す。
「私はセラピストという仕事柄、“問題行動を起こす”とされる子どもたちと向き合うことがよくあります。そういった子どもたちは、実はつながりや注目を求めていることが多く、その目的のためにネガティブな方法を使うことがあります」
「重要な違いは、トランプ氏は子どもではなく完全に成長した大人であり、社会のルールを知りながら、わざと破っているという点です」
いじめで有害な行為
シーハン氏はトランプ氏の発言について「公の場での言葉によるいじめの一つだ」と述べる。
「大きな影響力を持つ人物が、相手に恥をかかせ、価値を下げるために、見た目や価値を馬鹿にして傷つけるというのは、いじめです。政治的な批判でも風刺でもなく、単なる性差別的な個人攻撃です」
「公の立場にある人物がこのような行動を取れば、感情的な未熟さや公の場でのいじめが正当化されてしまいます。特に女性に対するものはそうだと言えます」
ローズ氏も「こうしたコメントは明らかにいじめに該当するものであり、他者に恥をかかせて傷つけようとしている」と指摘する。
「もし子どもが学校から帰ってきて『同級生に見た目が魅力的じゃないと言われた』と言ったら、残酷で容認できない発言だと感じるのではないでしょうか。同じ基準を当てはめるべきです」
いじめの被害に遭った子どもは、不安やうつ、日常活動に対する興味喪失など、精神的な悪影響を被ることが知られている。
リアズ氏は「スウィフト氏はトランプ氏の発言を全く気にしない可能性が高いものの、それでもいじめであることに変わりはない」と指摘する。
「レストランや学校で、このような発言は絶対に許されません。しかしなぜか、国のトップの発言は許容され、いじめを正当化しています」
忘れてはいけないのは、いじめは被害者よりも加害者の問題を露呈する行為だという点だ。
シーハン氏は「大統領の発言は、テイラー・スウィフトの力や魅力、影響力を損なうものではありません。むしろ、発言は大統領の弱さを表しています。大人には大人の行動基準を当てはめるべきです――特に世界に向けて発言する立場であれば、なおさらそうだと言えます」と強調した。
3人の専門家の見解についてホワイトハウスにコメントを求めているが、これまでに回答はない。
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。
Source: HuffPost




