05.14
中居さんが知らなくても「性暴力」が指すものは変わっている。改めて知りたい2023年の刑法改正と社会の変化。【解説】
フジテレビの元女性社員に対する、元タレントの中居正広さんによる性暴力があったと認定したフジ側の第三者委員会報告書に対し、中居さん側の代理人弁護士が5月12日、報告書に対する反論を公表したことが報じられている。
全文を掲載したAbemaTimesなどによると、反論では「『性暴力』という日本語から一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為の実態は確認されなかった」「『性暴力』とは普通の日本人にとっては肉体的強制力を行使した性行為として、凶暴な犯罪をイメージさせる言葉です」と指摘。その上で、関連する証拠の開示を求めたと発表した。
反論には他にも争うポイントが記載されているが、この原稿では、「性暴力のイメージ」について考えたい。
「手を上げる等の暴力は一切ございません」への違和感
中居さんは1月に公式サイトで発表した最初のコメントでも、「手を上げる等の暴力は一切ございません」と書いていた。
この文章は、解読が難しい。
「一切ございません」が指すものが「手を上げる等」なのか「暴力」なのか判然としないからだ。しかし、当時多くの人々がこのコメントに「ここまで断言するのなら(性)暴力はなかった可能性が高いな、良かった」と胸をなでおろしていた。「中居さんの無実を信じたい」と願う人には、そう思わせる文章の構成だった。
しかし、当時、このコメントに感じた「もしかすると中居さんは、『手を上げる等』がない性的行為は、『暴力』には含まれないと考えていたのではないか」と思わざるを得ないという印象は、今回の反論と合わせて考えるとよりくっきりと浮かび上がる。
そして、残念なことに、代理人が言うように、日本では多くの人がまだこの「イメージ」を、持っているのかもしれない。
しかし、実際には「性暴力」という言葉の法的・社会的な意味合いは、2023年の刑法改正を契機に大きく変わっている。それは、どんな有名タレントであろうと、知らなくてはいけないことだ。
この改正は、ようやく(抵抗が困難なほど激しく)「手を上げ」なくても「性暴力」が成立すると認められるようになったことで、被害者を救済できる社会へと前進した、大切な変更だったからだ。
そして、文部科学省・内閣府も「同意のない性的行為は性暴力」と断言。性暴力の根絶のため、教育現場などでも多くの人が周知を進めている状況だ。
ハフポストでもこれまで詳しく報道してきたが、改めて、改正された刑法について多くの人が知るべきポイントを解説したい。
第三者委員会はWHO定義で「性暴力」認定
第三者委員会による報告書には、「(元社員の)女性が中居さんのマンションに入ってから出るまで」と「示談の内容」は守秘義務の範疇で、中居さん側が守秘義務の解除に応じなかったため、部屋の中での状況について両者から聞き取りはできなかったとした。なお、中居さん側は守秘義務解除についての認識も異なると反論している。
しかし、女性が被害を受けた直後に、同社関係者に相談していた内容や、PTSDと診断されていること、ショートメールの内容などから、委員会は女性が中居さんから、性暴力による被害を受けたと認定した。
報告書で使用されている「性暴力」については「強制力を用いたあらゆる性的な行為」などを指している。これは、「強制力とは有形力に限らず、心理的な威圧や脅しが含まれ、かつその程度は問題にならない」とする世界保健機関(WHO)の定義を用いたものだという。
さらに、2人の人間関係が業務上のものであり、タレントとの会合が会社経費として精算されていることなどから、「業務の延長線上として捉えることに不自然はない」とし、本事案は「業務の延長線上における性暴力であった」と認められることを指摘している。
2023年の刑法改正で何が変わったのか
2023年7月13日施行の日本の刑法で、「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」へと名称が変更された。
この改正により、従来の「暴行・脅迫要件」が見直された。
以前の刑法ではたとえ「被害者は性行為に同意していなかった」と裁判で認められても、「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫行為があった」と認定されなければ、加害者は罪に問われることはなかった。
一方、改正後は暴行・脅迫がなくても、経済的・社会的地位が利用されるなど、「同意しない意思を形成、表明もしくは全うすることが困難」であった場合には罪が成立することになった。
つまり、暴力といっても「殴る・蹴る」「手を上げる」などの暴力だけでなく、「業務の延長線上」を含む社会的地位を利用して行われる性的行為も処罰の対象となる「性暴力」だという変更があったのだ。
この法改正により、性犯罪の刑法上の規定において主要先進国に遅れていた日本でも、「同意のない性的行為」が処罰されて被害救済の道が大幅に開くことが期待された。
「暴行」「脅迫」以外の理由でも「不同意わいせつ罪・不同意性交等罪」は成立すると解説する、学生向けの解説マンガ中居さん側の弁護士は、性暴力について「普通の日本人にとっては肉体的強制力を行使した性行為」と主張している。しかし、たとえイメージが追いついていなかったとしても、「同意のない性行為は犯罪だ」と、刑法も変わったのだ。
改正後、内閣府や文科省も、「相手の同意のない性的な行為は性暴力です」と明示し、性的同意の重要性を広く周知している。しかし、その知識はまだ行き渡っていないようだ。
中居さんの一連の問題と、今回の反論は、日本社会が「性暴力」を理解し、これ以上の被害者を出さない社会に変わっていくためには、まだ道半ばであることを改めて浮き彫りにしている。私たちも、もっと知る必要がある。
Source: HuffPost




