2025
04.21

出自を知る権利は「憲法や人権条約が保障する法的利益」。新生児取り違え裁判、都に調査を命じた判決の何が画期的なのか

国際ニュースまとめ

原告の江蔵智さん(中央)、代理人の海渡雄一弁護士(右)、小川隆太郎弁護士原告の江蔵智さん(中央)、代理人の海渡雄一弁護士(右)、小川隆太郎弁護士

「子が生物学上の親とのつながりやきずなを確認し、あるいは構築すること自体が、子の人格的生存にとって重要」━。

東京都の産院で生まれた直後に別の赤ちゃんと取り違えられた男性が、生みの親を特定する調査を都が行わないのは人権侵害だとして、都に調査の実施などを求めた訴訟で、東京地裁は4月21日、都に調査を命じる判決を言い渡した

判決で平井直也裁判長は、子どもの「出自を知る権利」は子どもの権利条約などの国際人権条約や憲法が保障する法的利益だとし、都には生みの親を調査する義務があるとした。

地裁判決は、なぜ都に調査義務があると結論づけたのか。判決のポイントをまとめた。

「親子の関係性の根幹に関わる問題」

判決などによると、原告の江蔵智さんは1958年4月10日ごろ、東京都立墨田産院(88年に閉院)で生まれた。2004年にDNA鑑定をしたところ、自身と父母に血縁上のつながりがないことが判明。都を相手取った民事訴訟で、東京高裁は06年、産院による取り違えの事実を認定した。高裁の判決後、江蔵さんは都に調査の協力を求めたが拒まれたため、提訴した。

東京地裁は判決で、「自身の重要な根元的・歴史的事実である出自に関する情報を知ること自体も、憲法13条が保障する個人の人格的生存に重要なこととして、法的利益として位置付けられていると考えられる」と言及。

また、日本が批准する自由権規約と子どもの権利条約の規定にも触れ、「子が自己の出自(生物学上の親)を知る権利及び父母の養育を受ける権利ないし法的利益を保障していると解することが相当である」とした。

だが判決は、憲法と国際人権条約の規定には、今回のような調査請求に関して具体的な定めがないなどとして、これらの規定に基づく調査義務を認めなかった。

一方で、生まれた子を看護する内容を記した「分娩助産契約」に関して、判決は「生物学上の親に引き渡される請求権が確実に履行されることは、親子の関係性の根幹に関わる問題」だと指摘。その上で、新生児の取り違えが起きた場合、医療機関側にできる限りの対応をとるべき義務があると認定した。

加えて、分娩助産契約に基づく権利義務を解釈する際に、上述の憲法や国際人権条約の規定を踏まえると、「同契約に基づく調査義務は、(中略)条約上の公的義務という側面があると解することが相当である」と結論づけた。

裁判所のこの判断について、原告代理人の小川隆太郎弁護士は、「契約上の義務を解釈する根拠として、憲法と国際人権条約をはっきりと引用した判決は非常に珍しい」と述べた

出自を知る権利は日本で法制化されていなく、それは判決文でも言及されています。裁判官は通常、『法律がないから(認定するのは)無理』だと逃げてしまう。しかし今回、法律の上位概念である憲法と条約を基に、しっかりと骨太の議論を展開してくれた」と高く評価する。

江蔵さん「母の願いを叶えてあげたい」

判決で平井裁判長は、都が実施するべき調査方法についても示した。

具体的には、
▽東京都は、江蔵さんが出生した時期に近い1958年4月1日〜30日に作成された戸籍受付帳を墨田区から取得する
▽そのうち性別が男性の人と、その両親の現住所を調査する
▽該当者に、取り違え事件の情報や、江蔵さんが生物学上の両親と連絡をとることを希望していることなどを通知する
▽墨田産院で出生していないことが明らかな人を除いた全員に対し、DNA鑑定を依頼し、承諾を得られた場合に鑑定を実施する
▽江蔵さんの母との親子関係が確認できた人に対し、連絡をとることを江蔵さん側が強く希望している旨を伝えた上で、連絡を希望するかの意思確認をする
▽江蔵さんに調査の経過と結果を報告する
━という内容だった。

江蔵さんは判決後の記者会見で、「DNA鑑定をしてからもう20年以上も経っている。その時から両親の顔が見たい、きょうだいがいるなら会いたいと思ってきた。それは今も変わりません」と心境を語った。

江蔵さんの育ての父親はすでに亡くなっている。90代の母は以前、「(産んだ子の)顔だけでも見たいよ」と江蔵さんに話していたが、現在認知症の症状が進んでいるという。

江蔵さんは都に対して「もう時間がありません。母の願いも叶えてあげたい。東京都には一日も早く調査していただきたい」として、控訴しないよう求めた。

(取材・執筆=國﨑万智)

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Source: HuffPost