2025
04.19

性暴力が日常の少女は「レイプが悪」とさえ知らない。USAIDの支援がなくなった、紛争地の女性たちに今起きていること

国際ニュースまとめ

スーダンの国内避難民キャンプで女性と話をする新垣尚子さん(左)=2024年4月、UNFPA提供スーダンの国内避難民キャンプで女性と話をする新垣尚子さん(左)=2024年4月、UNFPA提供

世界各地の紛争地で、女性や少女たちへの性暴力が、民族や地域住民らに恐怖心を植え付けてコミュニティを弱体化させるための「武器」として使われる事態が急増している。

国連の統計によると、人道危機にさらされた地域では、ジェンダーに基づく暴力からの保護を必要とする人は2025年に推定9200万人以上に上る。この数字は、レバノンやパレスチナ、スーダン、ベネズエラなどでの人道危機の急速な拡大を背景に、2024年から増加している。

性暴力などジェンダーに基づく暴力の予防・対策や、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の推進に取り組む国連人口基金(UNFPA)の人道支援局長、新垣尚子(あらかき・しょうこ)さんは、中東やアフリカをはじめとする紛争地や被災地の難民キャンプなどに足を運び、女性たちが日常的に暴力にさらされている現状を目の当たりにしてきた。

「少女たちが自らの権利について知らないままに育っていくことが利益になると考える政治的リーダーや権力者が、世界中にいる」と語る新垣さん。

今、紛争下を生きる女性と少女たちに何が起きているのか。

米国による資金援助が停止し、その影響が人道支援の現場に出ている中、新垣さんが「それでも希望はある」と明言する理由とは。新垣さんに聞いた。

スティグマを抱えて生きるより、死を選ぶ女性たち

妊産婦が安全に妊娠・出産できるよう医療を提供したり、危険にさらされた女性たちに緊急の人道支援を行ったりと、2019年の発足以降、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを掲げて任務に当たってきたUNFPA。

新垣さんも度々現場に入り、2024年にはウクライナやスーダン、アフガニスタン、ミャンマーなどを訪問して、少女や女性たちの訴えを聞いた。

「紛争地ではレイプが常態化しています。ヨーロッパでも日本でも、ジェンダーに基づく暴力は山のように起きていますが、紛争や災害が起きるとそれがさらに悪化し、女性や少女たちの体が『政治的な道具』として使われるケースが増えます。

被害者本人の体と尊厳を傷つけるだけではなく、性暴力によってコミュニティ全体に恐怖心や屈辱感を植え付け、支配する意図があります。

建物やインフラは壊されてももう一度直せますが、人間は一度壊されたら、元に戻すのが難しいことが極めて多いのです。

スーダンでは、民兵が村にやってくると聞いた女性たちが、集団で自殺する事案が発生しています。宗教上の問題で、性暴力の被害に遭った女性は二度と地域コミュニティに戻れないからです。

中絶を禁止された国では、レイプであっても妊娠したら産むしかない。少女たちは、上の世代の母親たちが、子を産んだ後もスティグマと苦難を抱えながら生きる姿を見ているわけです。そういう目に遭って生き延びるよりは、自分で命を絶つことを選ぶと彼女たちは言います」

長年にわたって政府軍と反政府勢力との衝突が続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国。東部では2025年1月、ルワンダが支援する非政府武装組織M23と政府軍との間で戦闘が激化した。650万人以上が避難生活を強いられ、このうち260万人は子どもだ。

「レイプの被害が日常になっている東部の都市ゴマでは、ある少女に『これっておかしいことなの?』と問われ、非常にショックを受けました。

シリアでもそうでしたが、戦争が長期化するほど、学校がストップし続けて子どもたちは教育を受けられなくなります。教育を受けられずに識字率がどんどん下がるとどうなるか。情報を得られず、自分に人間としての権利があることすら知る機会がなくなります。

なのでレイプされ、搾取され、どれほど暴力を振るわれても、それは加害者が悪いのだということにも気づけない。

女性や少女たちが自らの権利について知らないままに育っていくことが利益になると考える政治的リーダーや権力者が、世界にはたくさんいるのです」

社会に根付く性差別が、紛争で表面化

国内避難民のキャンプを訪問した新垣尚子さん=ミャンマー・ラカイン州シットウェ、2024年10月、UNFPA提供国内避難民のキャンプを訪問した新垣尚子さん=ミャンマー・ラカイン州シットウェ、2024年10月、UNFPA提供

女性の中でも、障害者や少数民族といった複合的マイノリティは特に支援から取り残されやすい。例えば障害のある女性と少女は、ない場合と比べてジェンダーに基づく暴力を受ける可能性が10倍高いと報告されている

「ミャンマーの難民キャンプを訪れると、障害のある子どもと女性が明らかに多いことに気づきます。食料を探し、水を汲みにいく時に地雷を踏んで足を失うケースが多発していました。

地雷で両足を失くし、レイプされて妊娠出産した女性は、私たちのミーティングに必死になって参加してくれました。障害者となった後も、彼女は何重もの暴力に遭っていました。

私たちは現場に入る時、どういう属性の人たちがより困難な状況にあるか、そこにどんなニーズがあるかを見ていきます。障害者、LGBTQI+、高齢者など、現地で支援の枠組みから疎外されているマイノリティが誰なのかを調べ、重点的にサポートするプログラムを組む。誰も取り残されないためにすべきことを見つけていきます」

新垣さんが数々の人道危機の現場を訪れて気づいたのは、「紛争地であれ、地震や気候変動の被災地であれ、女性や少女たちが受ける暴力の形はそれほど変わらない」という現実だ。

「なぜ変わらないのか。それは、元々どの社会にも性差別的な考え方や慣習が根付いているからです。

そうした土壌がある中で、紛争や自然災害、新型コロナのようなパンデミックといった動的な要因が加わると、平時からあった性差別が表面化し、悪化してしまう。女性の権利に対する社会の根本的な認識を変えていくことが最大の課題です」

人生の選択を、政治に決められることへの憤り

援助物資を手にする新垣尚子さん(左から3番目)=アフガニスタン・バーミヤン、2024年9月、UNFPA提供援助物資を手にする新垣尚子さん(左から3番目)=アフガニスタン・バーミヤン、2024年9月、UNFPA提供

各地で人道支援のニーズが一層高まる中、資金面でも厳しい状況が続いている。2024年には、UNFPAの活動に必要な資金のうち確保されたのは同年10月時点で43%にとどまった。

米国による海外援助の停止が、苦境に追い打ちをかけている。

今年2月末時点で、USAIDと米国務省からのほぼ全ての助成金が終了。国連は、米国政府の決定が「世界最悪の人道危機の中で女性や少女、そして彼女たちのために力を尽くす医療従事者や援助従事者に壊滅的な影響を及ぼすことになる」と指摘している

新垣さんは、影響は米国だけにとどまらないと話す。

「米国の政治的な方向性が、他の国にも飛び火しています。2024年は世界の70以上の国で国政選挙が行われ、今年はその結果が現実のものになります。

紛争地や被災地でジェンダーに基づく暴力が長期化する中で、米国や欧州の国々で保守化が進むなど、女性の人権をめぐる世界の政治状況は非常に厳しくなっている」

こうした苦難にあっても、「大事なのは妥協しないこと」だと新垣さんは強調する。

「政治的に大きな波がきている中で、私たちは女性と少女たちの声と権利を常に忘れないし、決して希望を捨てません。

国家による国際法への明確な違反が起きています。それでも、国際社会が第二次世界大戦後の80年間にわたって大事にしてきた人道援助や国際人権といった普遍的な価値観を、どんなことがあっても諦めないし、声を上げるのをやめない。それがこの大変な状況の中で、最も大切なことだと私は思っています」

大国からの援助が期待しにくい今、UNFPAにとって個人や民間部門による支援の強化と拡大が事業継続の鍵になる。

「例えば米国では、小さな町や村で人々が地元政府に対してUNFPAの活動を支持する嘆願書を書いてくれたり、SRHRの大切さやジェンダーに基づく暴力に抗う意識の向上を訴える運動が起きたりしています。

特に若い世代の女性たちが、『妊娠出産といった人生の選択が政治によって決められることは許せない』と憤り、声を上げている。さまざまな試練はあるものの、そうした若い人たちの期待に応えなければいけないと強く感じています。

また、世界中の政治傾向が女性の権利にとって困難な状況へと向かっている今、民間企業などによる支援がより重要になっています。民間部門の柔軟性がある点に、希望を感じています。

UNFPAは世界中の民間セクターとのパートナーシップを強化しています。その利点は資金面だけでなく、社会に根差した経済活動をする大切なアクターである民間部門が、女性の権利やSRHRを重視する環境づくりにとって大きな影響力があるからです。

もちろんお金は必要ですが、長期的な視点で考えると、女性や少女への投資を継続するには社会の認識が変わることが大切です。そうした認識を持って人々が政治的な指導者を選べば、ゆくゆくはSRHRに対する資金も継続して確保されるようになるのではないでしょうか」

コントロールできることに焦点を当てる

武装勢力や軍、権力を持つ者が女性たちの尊厳を踏みにじり、暴力で支配する紛争地へと支援に入っていくのは困難が伴う。どのように道を切り開いているのだろうか。

「私たち国連職員はよく『Stay and Deliver』という言葉を使います。これは『いかなる時も現場にとどまり、故郷を追われた人々に支援を届け続ける』という意味です。

もし私たちが諦めて出ていってしまったら、そこで生きる女性と少女たちは希望も、何もかもなくなってしまう。だからこそ暫定政府であれ武装勢力であれ、そういったアクターとも交渉します。

決して簡単ではないですが、文脈によっていろんな交渉のやり方があり、それを身につけることが必要です。

例えば、アフガニスタンを統治するイスラム主義勢力タリバンの構成員たちにとって、自分の母親や娘、姉妹が他の男性に触られることは許せない。

なので、彼女たちが病気になったり出産したりする時、女性の医師や助産師、ケアをする看護師がいなければ、男性の医師らが女性の体に触れざるを得なくなると伝えると、『それはいけない』と聞く耳を持つようになります。

続けて、医療に携わる女性がいなければならないから、女性が教育を受ける場が大切だと説得する。

そうした交渉もあり、UNFPAが運営するアフガニスタンの助産師育成の学校は、今でもどうにか機能しています。

国連機関の中でも、各方面から『一番難しいマンデート(使命)』だと言われるくらい難しい任務です。でも、だからこそやりがいがある」

新垣さんが心掛けているのは、「自分がコントロールできることに焦点を当てる」思考だという。

「生きていると、自分ではコントロールできないたくさんのことが起きるわけです。でもそこだけを見ていると絶望してしまいますよね。

そうではなくて、自分に何ができて、何を変えられるのかに集中することで、小さくても希望が見えてくるんです。いろんな困難や挑戦があるにしても、必ずしも悪いことばかりではないと、常に思い起こすようにしています。

人道危機の現場で起きるジェンダーに基づく暴力をなくすために、新垣さんが日本で暮らす人たちに望むこととは何か。

「特に西欧だと、個人の支援行動が宗教に基づいていることが多いですが、日本は一人ひとりの倫理観や、『人のためになること、人の役に立つことに喜びを感じる』として支援に関わる人が多いように感じます。そうした価値観を私は素晴らしいものだと考えていて、この先も続いていくことを願っています。

また紛争地に入る時、日本は政治的にそれほど強いスティグマを押されていないので、他の国の人が入っていけない場所にも踏み入れることがあります。もちろん地域や国によりますが、日本から来たことが信頼になる場合もある。そういった良い面を利用して、国際社会でリーダーシップを発揮する人が増えてほしいです」

◆ 新垣 尚子(あらかき しょうこ)

国連人道問題調整事務所(OCHA)援助調整部長、国連防災機関(UNDRR)政府間プロセス・機関間協力・パートナーシップ部長などを経て、2019年にUNFPA人道支援局の初代局長に就任。スイス・ジュネーブを拠点に活動している。

(取材・執筆=國﨑万智 @machiruda0702.bsky.social

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Source: HuffPost