2025
04.17

【DE&I】人事評価に求められるのは「時間からの解放」?資生堂の研究から見えてきた、女性活躍が切り開く未来

国際ニュースまとめ

社内のDE&Iの推進に注力する企業が増えている現代、特にジェンダーギャップは日本社会全体にとって優先すべき課題となっていることもあり、「女性管理職比率の向上」や「女性活躍」がDE&Iの第一歩として注目されている。

そうした中、国際女性デーのある3月、資生堂DE&Iラボは公開シンポジウム「女性活躍という言葉がなくなる未来へ~資生堂の実践から見えてきたジェンダー平等のヒント~」をオンラインで開催。

女性管理職比率40%以上を達成した同社の実践例や最新の研究知見をもとに、企業におけるジェンダー平等を促進するためのヒントをひもといた。

DE&Iは「経営戦略」であり「基本的人権」

右から、山本真希さん(資生堂DE&I戦略推進部部長)山口慎太郎さん(東京大学大学院経済学研究科教授)林孝裕さん(dentsu DEI innovations 代表)右から、山本真希さん(資生堂DE&I戦略推進部部長)山口慎太郎さん(東京大学大学院経済学研究科教授)林孝裕さん(dentsu DEI innovations 代表)

同社ではDE&Iを重要な経営戦略と位置付けている。資生堂DE&Iラボでは、社内におけるジェンダー平等の現在地をデータとして定量化しながら、その調査結果をサイトで公開している。

政府目標である女性管理職比率30%を達成したのは、日本の大手企業の中でもおよそ3%(TOPIX500構成銘柄対象、2023年10月パーソル総研調べ)とも言われている中、同社では女性管理職比率41.1%(速報値)を達成しており、2030年には50%を目指している。しかし、資生堂DE&I戦略推進部部長の山本真希さんは「2010年時点での比率は僅か15%ほど」と意外な事実を明かした。今日に至るまで、高い熱量を持ってジェンダー格差の是正に取り組んできたことがうかがえる。

モデレーターを務めた林孝裕さん(dentsu DEI innovations 代表)がDE&Iの促進によって得られる企業のメリットについて聞いたところ、山本さんは「同質性の高い組織では、同じような意見しか出なくなり、組織のイノベーションが止まってしまいます。多様なお客様に良いサービスを提供し続けるためには、多様な働き手の存在が欠かせません」と説明した。

また、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎さんは「DE&Iの促進は一国の経済成長の重要な源泉の1つだと研究でわかってきています。第2次世界大戦後の50年でアメリカの経済は大きく発展しましたが、その3割は女性や有色人種などのマイノリティが管理職や専門職に就いたことだと言われています」と回答。能力のある人を適した役職に割り当てないことは、企業や社会にとって大きな損失になると説明した。

さらに、経済的なメリット以上に重要な意義として「ラベルに捉われずに正当な評価をする、多様な人材が活躍する組織であるということは『人権を尊重する組織である』ということです」とコメントした。

無意識の偏見から生まれる、男女の「時計の数」の違い

企業やアカデミアなど、多様なステークホルダーの尽力により、こうしたDE&Iのメリットは広く浸透しつつある。では、なぜ「やった方がいい」と認知されているにもかかわらず、多くの企業でジェンダー平等の促進が進んでいないのだろうか。

そこでキーワードとして議題に上がったのが「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」と「時計の数」だ。

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資生堂DE&Iラボの社内調査では、女性の方がジェンダー平等に対する意識が高い一方で、アンコンシャスバイアスをより抱きやすい傾向があることも分かったという。この結果について、山本さんは「女性の方が、男女平等を自分事としてとらえている一方で、自分で気づいていない部分では男女の『らしさ』や『こうあるべき』という感覚を持っている、板挟み状態にある可能性を示唆しているのではないか」と話し、この溝を埋めていくことが1つの有効な手段になるだろうと語った。

また、女性の管理職比率が上がらない大きな要因として「労働時間に依存した人事評価」にも光が当てられた。厚生労働省の調査では、週45時間以上働いている男性が約半数であるのに対し、女性では24%だったという。しかし、dentsu DEI innovationsが制作した「ジェンダー課題チャートvol.1(女性版)」では、女性の余暇時間が男性よりも少ないという総務省の調査結果も紹介されている。

林さんは、この2つのデータから「女性の方が多くの時計をやりくりして働かなくてはいけない現状があるのではないか」と問いかける。例えば、家事や育児の負担が女性に偏りやすい日本では、女性は仕事だけを軸にスケジュールを組むことが困難になりがちだ。一方で「男性は家庭よりも仕事を優先すべき」という社会規範の影響もあり、男性の「時計」は仕事だけになりやすい。それを裏付けるように「ジェンダー課題チャートvol.2(男性版)) 」では「男性の方が転勤を命じられることが多い」という実態も紹介されている。このように、男女それぞれに異なる形で社会規範の影響を受けている延長線で、労働時間のギャップが開いていることが推察された。

山本さんは「可視化された参考値の少ない『人事評価』という仕事において、労働時間はとても手軽な指標となります。しかし、実際に労働時間が長いからといって、その人が仕事に高いモチベーションを持っているのか、本当に良いパフォーマンスを発揮しているのかと考えてみると、必ずしもそうとは限りません。そして何より、労働時間に依存した人事評価は、社会や組織の構造によって長時間労働が困難ではあるけれど、高いパフォーマンスを発揮している人材を見落とすことにもつながります」とコメントした。

多様性を輝かせるマネージメントスキル

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同社では、そうした「労働時間に依存した人事評価」から脱却する仕組みとして「パフォーマンスマネージメント」を採用している。山本さんは、この仕組みについて「年齢や性別、労働時間ではなくグレード(個人が働き手として今どの役割を担っているのか)で目標設定することが大前提です。個人の目標を明瞭にした上で1on1などを通じて結果を追いかけていく。そして期末に『これを達成できましたね』『この目標まではあと一歩でしたね』と答え合わせをして、それが直接評価になります」と説明した。個人ごとに最適化された目標を設定することは難しい業務である一方、そうした柔軟なマネージメント能力を持つリーダー育成にも注力しているという。

山本さんは「公正な評価は、働き手のウェルビーイングやインクルージョンにも欠かせません。働き手不足が深刻化する現代、多様な働き手の能力を活かす『新しい指針の人事評価』は、ポータブルスキルとして、マネージメント層にとってもキャリアの強い味方になるので、ぜひ学んでみてください」と視聴者にメッセージを送った。また「産休や育休取得の際、『ゆっくり休んでね』という優しさだけでなく、『帰ってくるのを待っているよ』『期待してるよ』という言葉に勇気をもらって、早期の復帰を目指したり、管理職に挑戦してみようと一歩を踏み出したりする女性もいます」と話し、部下とのコミュニケーションが組織の未来を切り開くと提言した。

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イベントの終盤、山本さんは「女性活躍の推進は、DE&Iラボの目的である『社内環境をより良くすること』を達成するための入り口の1つです。女性活躍推進における課題に、他企業よりも少し先に直面した資生堂だからこそ、今後も提供できるデータや実体験からの学びがあるのではないか、と考えています。『資生堂だからできた』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここに辿りつくまで、そしてこれからも試行錯誤の繰り返しであることは変わりありません。『多様性があるチームから、いかにイノベーティブな価値を生み出していけるか』が問われる時代、共に歩みを進めていきましょう」と視聴者にメッセージを送った。

続いて、山口さんは「日本経済全体でDE&Iと向き合っていかなくてはいけません。仮に今、日本の出生率が上がったとしても働き手として輝くのは20年後以降の話です。日本の女性の就業率は約80%ですが、賃金や役職などの内訳を見てみると『活躍したい人が活躍できている』とは言い難いです。簡単なことばかりではありませんが、DE&Iは10年後の企業を支える大切な投資です」とコメント。

さらに「自社の実情は意外と見えにくくなっていたりもします。『重要な会議が男性ばかりの場になっていないか』などの確認作業を通じて組織内のDE&Iを見える化(定量化)し、その目標に達するために必要なことを洗い出すことで、DE&Iにはジェンダーに限られない多様性が求められていることを確かめられると思います。私も引き続き、多様な働き手が多様な形で活躍できる組織作りを、DE&Iラボさんと共に研究していきたいです」と話し、イベントを締め括った。

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Source: HuffPost