03.08
アスベストの飛散事故、国「通告調査」で4割超 基礎的な現場管理できず
2024年度の環境省調査で、吹き付けアスベスト(石綿)などの除去工事のうち、4割超で外部に漏えいしていたことが明らかになった。2月13日に開催された同省アスベスト大気濃度調査検討会(座長:山﨑淳司・早稲田大学理工学術院教授)の資料を精査して判明した。(井部正之)

◆発がん性の高いアモサイトも検出
同省が毎年実施しているもので、全国数十カ所の大気中の石綿濃度を調査して公表している。その一環として、建物などの改修・解体にともなう石綿除去の周辺測定も件数は少ないながらも継続している。
筆者は同省が走査電子顕微鏡(SEM)による石綿繊維数濃度の分析結果を公表するようになった2010年度以降のデータから、同省調査で測定した現場数と石綿飛散があった現場数から独自に「漏えい率」を算出している。
調査対象は吹き付け石綿や石綿を含む保温材、断熱材など高濃度の飛散・ばく露が起こりやすく危険性が高い、いわゆる「レベル1~2」建材の除去工事とした。そのため波形スレートなど石綿を含む成形板など「レベル3」建材の撤去工事は除外してある。
2024年度に同省は解体現場など11カ所を調査。そのうち6カ所が石綿を含む吹き付け材、1カ所が断熱材の除去である。
石綿の外部飛散があったのは、これら7カ所の石綿含有吹き付け材、断熱材の除去のうち3カ所で、漏えい率は4割超の42.9%だった。
石綿飛散のあった3カ所はいずれも石川県で能登半島地震の被災地における2024年8月から10月の解体にともなう除去現場だが、場所などの詳細は非公表。
同省や調査を請け負った委託業者の報告書によれば、同8月28日の漏えい事故は建屋2階の天井や鉄骨のはりに施工されたクリソタイル(白石綿)の吹き付け材に加えて、配管エルボに含まれた基準超のアモサイト(茶石綿)を手工具で除去していた。法令で義務づけられたように、作業場内をプラスチックシートで養生のうえ、場内を減圧し、石綿を吸着しつつ清浄な空気だけを外部に排出する「負圧除じん装置」を使用。また石綿飛散を抑制する薬剤を吹き付け材に噴霧していたという。
◆作業中に養生が解けて漏えい
しかし作業員が場内に出入りする際に防護服に付着した石綿を洗浄するエアシャワーや更衣室を備えた「前室」と除去現場を区切るビニールシートのカーテンが薄く、「0.1ミリメートル未満」とみられ、「3枚重ねていたが機密性は低かった」「養生シートの膨らみが弱い」と場内の負圧が十分でなかった可能性を指摘している。排気のビニールダクトは窓から1階まで垂らしていて、曲がり部分に環状の支えがなく折れ曲がっていて排気風量に悪影響をおよぼしているとの印象を受けたと報告している。
実際に作業員が前室を通って出入りした際に石綿を含む繊維状粒子の自動測定器でも数値の上昇が確認された。
案の定、前室と外部の境界付近(前室側)で測定したところ、石綿を含む可能性のある「総繊維数濃度」が2時間平均で空気1リットルあたり34本で、同省の目安1本超のため、走査電子顕微鏡で石綿を同定。その結果、石綿繊維数濃度は同4.3本検出された。そのうち白石綿が11.1%を占めたが、発がん性の高い茶石綿も1.6%含まれていた。
委託業者は測定地点が前室側で、作業場内に向かって空気が流れていたことから、「負圧は担保されており大気環境中への石綿の漏えいは無かったものと推察される」と報告。ただし前室のすぐ外では測定しておらず、裏付けはない。事実、同検討会の委員から「作業員の出入りの際に外部漏えいがあった可能性が否定できない」と指摘された。筆者の取材に同省環境管理課もその可能性を認めた。
2カ所目の漏えい事故は9月27日。建屋2階の天井やはりに施工された白石綿を含む吹き付け材を手工具で除去していた。この現場でも法令で定められた負圧隔離養生や飛散抑制剤による湿潤をしており、当初除去現場内では差圧計で「-2パスカル」と負圧を確認。ところが測定中の午前10時から11時30分までの間、前室では「0パスカル」と負圧が確保されておらず、外部漏えいが疑われる状況だった。
作業員に聞き取りしたところ、はりの石綿除去では隔離養生ができていたが天井面での除去のためはりを撤去したところ、隔離が解けてしまい、負圧が維持されなくなったと認めた。養生し直してから除去を再開したという。この現場でも排気のビニールダクトが折れ曲がって排気を阻害し、「風量が弱い」との印象だった。
測定ではやはり前室と外部の境界付近(前室側)で、総繊維数濃度が同1本超の5.1本。石綿繊維数濃度は同0.2本で、白石綿4.5%だった。
◆石綿除去する装置から飛散
最後の現場は10月8日の解体で、これも建屋2階の天井やはりの白石綿を含む吹き付け材の除去である。負圧隔離養生や飛散抑制剤による作業で、除去現場内では差圧計で「-7パスカル」と負圧を確認したが、前室の外部との出入口付近では繊維状粒子の自動測定器で数値が上昇。また2階に1台だけ設置した負圧除じん装置は、排気のビニールダクトが窓から1階に垂らしてあり、やはり折れ曲がって「排気口の風量に影響している」と印象だったという。
測定では場内を負圧に維持し、石綿を除去して清浄な空気だけを排出するはずの「負圧除じん装置」の排気口付近で総繊維数濃度が同1本超の同2.3本。石綿繊維数濃度は同0.5本で白石綿22.2%検出だった。
いずれも2時間平均の濃度であり、低濃度ながら、外部に石綿が漏えいした飛散事故といってよい。一歩間違えれば高濃度飛散につながる事故だった。しかも3件とも負圧や養生の管理が適切にできていないという基礎的(かつ最重要)な現場管理の不備が原因であり、お粗末というほかない。
そして重要なのは同省調査は、測定に同意した事業者に対し、あらかじめ日時を通告して実施する「通告調査」なのだ。当然、事業者は準備して臨んでいる。そのため同省の検討会でも「実際にはもっと悪い」と認めている。国の測定があるから必死に対応したのにもかかわらず、4割超で漏えいしていたことは深刻である。
前もって国の測定があることを知っていても3件とも負圧管理すらままならず外部漏えいが起きた状況からは、技術力の低さを感じざるを得ない。
じつはこれまで筆者が作成してきた漏えい率のまとめでは、石綿飛散の判断について、同省が「目安」とする空気1リットルあたり1本超の石綿が作業場外(出入口にあるセキュリティーゾーン内更衣室の飛散含む)で検出した場合として、同省の判断基準に合わせてきた(また除去工事における石綿の漏えいは現場単位とし、1つの現場で複数の箇所から石綿の漏えいがあった場合も1地点として計上)。つまり、同省でも飛散事故と認めざるを得ないものにしぼってきた。
そのため今回の漏えい事案3カ所のうち、2カ所は石綿繊維数濃度で同1本以下だったことから飛散件数には含めていない。よって2024年度に同1本超の漏えいがあったのは7カ所の現場のうち1カ所で、漏えい率は14.3%になる。
2010年度からの計15年の累計では94カ所の調査のうち、34カ所で同1本超の漏えいを確認。累計漏えい率は36.2%。
石綿はきわめて強力な発がん物質で、吸うことで数十年後に中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで予後が非常に悪い)や肺がんを発症するおそれがある。かねて日本では女性の中皮腫発症率が高く、環境ばく露の可能性があることが指摘されてきた。
すでに石綿の使用などは禁止され、現在の発生源は建物などの改修・解体に移っている。こうした外部への石綿飛散をともなう不適正作業により知らず知らずのうちに少しずつ石綿を吸ってしまい、将来被害を発症することが懸念される。
とくに日本では規制が緩いこともあって、飛散事故だらけというのが実態だ。2020年の規制改正で石綿を含む成形板の除去などは原則破砕禁止にようやくなったが、実際には現場は「何も変わってない。いまも普通に違法工事してますよ」と真面目な除去業者が嘆くように大半が不適正作業ともいわれる。むしろ「以前より悪くなっている」との声も聞かれるようになった。そうして事実上の石綿“公害”が続く。
【関連写真】環境省「通告」調査にみる除去工事のアスベスト漏えい率の推移
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Source: アジアプレス・ネットワーク

