02.17
<北朝鮮内部>破格の「10倍賃上げ」その後どうなった?(1)拡大するデジタル通貨とカード決済 「停電多いのが問題だ」

2023年末、北朝鮮政権は国営企業や公務員の労賃(月給)を一斉に引き上げた。その年初に比べて約10倍。破格の大幅賃上げであった。また、合わせて労働者本人分に限り7~10日分程度の食糧配給も実施した。企業や職場によって多少の差はあるもの、各機関、企業の判断ではなく「国策賃上げ」であったのは明らかだ。その後、「労賃」はちゃんと支払われているのか? 金正恩政権の意図は何だったのか? 2回に分けて報告する。(石丸次郎/カンジウォン)
◆10倍賃上げでも350円程度
朝鮮中央銀行が発行する「全盛カード」。北朝鮮の官営ウェブサイト「朝鮮の今日」に2016年に掲載された写真を引用
2023年12月、アジアプレスでは咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)で、地方政府の公務員の他、銅鉱山、鉄鉱山、製紙工場、靴工場などで、「大幅賃上げ」の実態を調査した。1カ月の労賃の概要は次のようなものだった。企業や職位により多少の差があるという。(北朝鮮では「月給」ではなく「労賃」と呼ぶ)
公務員 3万5000~5万ウォン
教員 3万8000ウォン~5万ウォン
国営企業の一般労働者 3万5000ウォン~5万ウォン
「年老保障」(退職者の年金) 2万5000ウォン
※この時点では1000ウォンは約17円。現在は約7.2円。
その後の調査で、咸鏡北道、両江道以外の地域でも、同様の「賃上げ」が行われており、各地の取材協力者たちによれば、その水準は今年2月も維持されていた。

◆基本給は国が支給か
これらの労賃は、基本的に国家によって支払われているようだ。さらに収益に応じて上乗せする企業があって、企業間に格差がある。また、昨年から、追加勤務や成果を出した労働者に対して3000~5000ウォンの追加賃金を支払う企業が出ている。一種のボーナスの概念である。
「企業によって待遇に差が大きいので、悪い所から良い所に移ろうとする人が多い」と、両江道の取材協力者は言う。
◆労賃支給は決済カードで
労賃の支払いのほとんどは決済カードで行われるようになり、現金支給は徐々になくなっていった。個人の銀行口座や、企業や機関が発行した決済カード(デビットカードのようなもの)に入金される。これは、国営商店や、市場、食糧専売店である糧穀販売所で使用できる。両江道の協力者はこのように言う。
「現金での支払いを受け付けない店もあるし、カードが便利なこともあって現金を使う機会が減った。電話料金でも決済できる。問題は頻繁な停電だ。店の機械が使えない時は現金で支払う。政府は将来、すべてカード払いにして現金取引を無くすと言っているが、いつのことになることやら」
電気供給が不安定な地方の農村では、まだ決済カードはほとんど普及していないという。
◆糧穀販売所に誘導
政府は2023年1月頃に、市場での食糧販売を禁止した。コメやトウモロコシの売り場自体が市場から消滅した(雑穀や粉、麺類の販売は可能)。並行して、2019年から徐々に復活させてきたのが国営の「糧穀販売所」だ。国営の食糧専売店である。平壌の事情は不明だが、地方都市では食糧を購買できる唯一の場となっている。
「上がった労賃で、配給では不足する食糧を国営の『糧穀販売所』で購入せよというのが当局の指示だった。労賃をカードに入金するのは、現金を支給すると、食糧を個人間で取引したり、お金が市場へ流れていったりして、再び国に入ってこないのが問題だからだと説明された」
両江道の取材協力者はこのように言う。
この1年余りで、ウォンのデジタル通貨化が一気に進んだわけだが、その意図は、お金の流通を国が管理統制し、食糧をはじめとした物流を、個人から切り離して国営ネットワークに集中させようとするものだと言える。
金正恩政権は、2021年10月に「電子決済法」を採択して、デジタル通貨の普及の制度整備に取り組み始めた。その第1条=「電子決済法の使命」には次のよう書かれている。
<朝鮮民主主義人民共和国電子決済法は、電子決済事業における制度と秩序を厳格に確立し、現金流通量を減らし、非現金流通量を増やし、貨幣流通を円滑にすることに貢献する。> (続く)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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Source: アジアプレス・ネットワーク

