2025
02.15

札幌市・西区役所で“最恐”アスベスト大量飛散か 最大で住宅地の400倍超の可能性

国際ニュースまとめ

札幌市は2月6日、西区役所(同市西区琴似)の玄関付近でアスベスト(石綿)の「漏えいのおそれがある」として、同日午後3時から区役所を閉鎖したと発表した。ところがもっとも発がん性の高い“最恐”のクロシドライト(青石綿)が外部に大量飛散した可能性が高いことがまったく報じられていない。(井部正之)

札幌市・西区役所の臨時玄関のようす。この付近でも石綿を含むとみられる総繊維の漏えいがあった(札幌市提供)

◆最大で住宅地の400倍超

西区役所は1971年竣工。玄関にある約20平方メートル(3.756×約5.5メートル)の風除室の天井裏と壁の金属パネル裏に石綿含有の吹き付けロックウールが施工されていた。今回の工事はこれを除去するもの。

発表によれば、2月4日に西区役所の玄関に設置されている風除室の壁パネル裏の石綿の除去工事を実施していたところ、清浄な空気だけが排出されるはずの排気口で粉じん濃度が上昇するという異常が起きた。現場確認したところ、排気ダクトに穴が開いていた。同社は損傷部を補修し、再度粉じん濃度を測定したが、値が検出されなかったため作業を再開。同日除去作業を終了した。

ところが同日の午前10時から午後0時、午後1時から午後3時まで、それぞれ周辺の4カ所で気中濃度測定をしたところ、2月5日午後7時の速報で作業管理の目安を超えていたことが明らかになった。

これまで報じられていないが、問題は吹き付けられた石綿がもっとも発がん性の高い青石綿で、その含有率が重量の5%超から50%という高濃度だったこと、そして外部への漏えいが最大で空気1リットルあたり80.53本にも達したことだ。しかも一般の利用者や職員が居る区役所1階の待合ホールで午前に同0.68本、午後に同11.9本。臨時に設けられた出入口の外側でも午前に同5.1本、午後に同1.36本だった。

単位は、石綿以外も含む繊維を計数する「総繊維数濃度」で、2時間測定の平均値。石綿がどの程度含まれるかは、走査電子顕微鏡(SEM)で検査中という。

だが発注元の市建築工事課に筆者が「まず間違いなく石綿が漏えいしたのではないか」と指摘したところ、取材に応じた課長は「非常に可能性が高い」と認めた。

大気中の石綿濃度について環境基準は定められていないが、すでに使用禁止のため、発生源が基本的にない地域ではほぼ検出されない。2023年度の環境省調査で住宅地域の平均濃度はわずか同0.19本。定量できる限界の同0.056本を下回っていることも珍しくない状況で、2021年度調査では「定量下限未満」がじつに32%に達したほど(2022年度16.7%、2023年度12.8%)。それほど住宅地など発生源がなければ、石綿の飛散はないというのが実態だ。

そうした状況をふまえて上記の平均濃度と比較すると、今回漏えいが見つかった最大値の同80.53本は住宅地域のなんと423倍に達する。1階待合ホールでも午後には62倍におよぶ。

ただし前述のとおり、これは石綿以外も含む総繊維数濃度で、おそらく吹き付け材に含まれたロックウール繊維も含むはずだ。石綿繊維だけの計数結果は現段階では出ていないが、市も認めるように青石綿の漏えいはまず間違いないはずだ。

◆事故報告せず工事強行

事故原因はなんだったのか。

除去工事を1067万円(税込み)で落札した地元の菅原工業(同市白石区北郷)によれば、同社の直接施工で、除去は3人の作業者に加えて石綿作業主任者が常駐して対応した。

同社によれば、作業開始は2月4日午前9時。石綿の飛散を抑制する飛散防止剤の散布などをして、10時ごろから金属パネルの取り外しを始め、吹き付け材のかき落とし作業もしていた。

通常ビス留めの金属パネルが溶接で固定されており取り外しに手間取ったこと、壁の金属パネル片側にだけ石綿を含む吹き付け材があるはずが実際にはすべての金属パネルにびっしり吹き付けがあり作業量が増えたことの2つが想定外だったという。

もともと除去は1日の予定だったこともあり、約3.7×約5.5メートルと狭い風除室内で、金属パネルを外して移動する際に、(作業場内の)足下にあった排気ダクトを金属パネルでこすって穴を開けてしまったのではないかと同社は説明する。

午前11時ごろの粉じん測定でそのことに気づいて補修した。同社担当者は「本来ならそこで市に連絡して工事を止めるべきだったのですが」と悔やむ。だが同社は補修後の確認で、排気口出口から粉じんの検出はなかったことから作業を継続。同日中に除去を完了した。これが市側の対応を遅らせることになった。

5日午後7時に分析機関からメールで速報値が届いて漏えいが判明。6日朝9時ごろ、電話で市側に知らせた。だが後の祭りである。

しかも6日に作業場内を測定したところ、総繊維数濃度で同10.77~12.13本の飛散が確認された。

同社に聞くと、場内においてあった金属パネルの周りに吹き付け材の破片が散乱するなど清掃不足があったと明かす。再度清掃したところ、同1本を下回ったという。

ところが11日、市環境対策課の立ち入り検査で、鉄骨と壁のすき間の狭あい部に石綿を含む吹き付け材が残存している箇所がいくつもあるとして、すべて除去するか困難な場合はきちんと記録して市側に知らせるよう指導した。市は改めて文書指導の予定だ。

同社は「手が届く範囲に限界があった」と残存を認識していたが、市に知らせていなかったことを認めた。担当者は「報告のタイミングが間違っていた」と釈明した。

石綿飛散の可能性が高い今回の問題について、同社担当者は「皆さんに多大なご迷惑とご心配をお掛けした。誠意を持って対応させていただきたい。今後はより丁寧な施工に努めたい」と反省の弁を述べた。

◆石綿調べず「石綿飛散なし」発表

事故から2日後に飛散事故を知らされた市側には気の毒な面もあるが、その後の対応ぶりには問題がある。

市は6日の再測定で環境省「アスベストモニタリングマニュアル」の目安である空気1リットルあたり1本超を下回ったことを「アスベストの飛散は確認されませんでした」と発表。「一時閉庁も再測定で安全性を確認」などと報じられた。

ところが実際には石綿の有無は検査されていなかった。発注元の市建築工事課に確認したところ、6日の測定は石綿以外も含む可能性のある総繊維数濃度を調べただけで、石綿濃度を特定する走査電子顕微鏡による検査はしていないことを認めた。

市環境対策課による待合ホールの測定では定量下限より低い同0.11本未満だったが、事業者の測定では同0.22本で、若干とはいえ検出されている。石綿が含まれる可能性があるのだ。しかし市は石綿濃度を調べないまま「安全性が確認された」と宣言。翌7日から利用再開した。

つまり市はもっとも発がん性の高い青石綿であっても同0.22本ならば市民が吸い続けても問題ないと判断したことになる。

市建築工事課に石綿濃度を調べなかった理由を尋ねると、同課課長は「同マニュアルの目安の総繊維数濃度で同1本を上回っていないので」と答えた。しかし同マニュアルはあくまで環境省による大気調査の一般的な手順を解説したにすぎず、今回のように石綿が飛散した可能性が高い事故における安全宣言に向けた手順を示したものではない。そもそもこの「目安」を設定した同省アスベスト大気濃度調査検討会の2013年報告書は〈科学的根拠をもって管理基準を設定することは困難〉と健康リスクに基づいて定めていないことを認めているのだ。

さらにいえばマニュアルでは、総繊維数濃度が同1本を超えた場合に電子顕微鏡法で石綿の同定をするよう指示した箇所に、総繊維数濃度を調べずに〈直接、電子顕微鏡法で分析しても良い〉とわざわざ下線を引いて強調して注記し、必要に応じた対応を求めている。よって市の対応はマニュアルの記載にすら必ずしも従っていないともいえよう。

市の利用停止の解除は手順が間違っていたのではないか。市建築工事課に改めて尋ねると同課課長は「6日段階ではそういう対応した」「当時はそう判断した」と繰り返した。

石綿の同定をせず「アスベストの飛散は確認されませんでした」というのは明らかに事実と異なり、事実を誤認させる説明ではないか聞くと、「そのとおりかもしれません。すいません」(同)と半ば認めた。

石綿を調べてから解除すべきだったのではないかとの指摘に対しては「ご意見として承ります」(同)というのみ。改めて石綿の同定をすべきではないかというと、「検討します」(同)と若干前向きの回答だった。

石綿は発がん性のきわめて高い自然に存在する鉱物繊維で、吸うことで中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)や肺がんを発症するおそれがある。とくに中皮腫はほとんど石綿が原因とされ、根治療法が見つかっていないうえ、発症から約2年で亡くなることが多いなど予後が非常に悪い。

中皮腫による死亡者数は統計を取り始めた1995年の500人から30年で3倍増。2023年は1595人。累計で3万3000人に達する。世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)の合同調査では、石綿が原因の職業ばく露による肺がんなどで、2016年に1万6702人が日本で死亡していると推計。アメリカに次いで世界第2位の石綿“消費”大国のうえ、規制の緩さなどにより、深刻な被害が顕在化しつつある状況だ。

石綿の危険性については、この濃度までのばく露なら安全という「しきい値」が明らかになっておらず、少量でも健康被害につながる可能性があるとされる。そして、現在では建物などの改修・解体工事が石綿のおもな発生源だ。つまり、今回のような不適正施工などで少しずつ石綿を吸っていくことで少しずつ将来に中皮腫などを発症するリスクが上昇する。まして日本は規制が緩く、全国さまざまな場所で石綿が飛散する事故が起きているのだ。最近では原因がはっきりしない比較的若い世代の被害が増えつつあると専門家は指摘する。

今回のような事故によるばく露を極力減らすことが今後の被害防止においてきわめて重要だ(もちろん現場の労働者らのばく露もできる限り減らす必要がある)。そうした観点からは、石綿の有無を調べずに盲目的にマニュアルの断片的な記載を根拠に安全宣言した市の対応は、少量の石綿ばく露なら構わないとの安全軽視の判断といわざるを得ない。

もっとも発がん性の高い青石綿による飛散により市民をばく露させた可能性を考慮し、市は一連の対応や事故原因、石綿ばく露によるリスクについて第三者の専門家を入れて検証すべきではないか。市建築工事課は「ご意見として承る」というだけだが、安全軽視の対応で本当によいのか。

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク