2025
01.20

ロシア派遣北朝鮮兵は何者か? 「暴風軍団」出身の記者が分析(3)粗末な訓練と空腹…特殊部隊の実態に失望 それでも「自爆勇士になるつもりだった」

国際ニュースまとめ

ロシアのクルクス地域に送り込まれた北朝鮮兵。初めて見たのであろうドローンに銃を向けて攻撃をしようとしている。ウクライナ軍がドローンで撮影し、2024年12月23日に公開

ロシアに派兵された北朝鮮兵は12000人、うち死傷者数は3千人を超えると韓国とウクライナ当局は推定している。派兵の中核を占めると伝えられているのが精鋭部隊の「暴風軍団」だ。日韓のメディアでは、超人的な身体能力が強調されることが多い。一方で、ロシアの戦場で「泥酔している」「ドローン攻撃で簡単に戦死している」など、精鋭に疑問符が付くような情報も伝わってくる。果たして、「暴風軍団」とはどんな集団なのか? 暴風軍団で服務した記者が自身の経験を基に解説する。(カン・ジウォン)

ロシア派遣北朝鮮兵は何者か? 「暴風軍団」出身の記者が分析(2)死亡兵士の謎の遺留品「労働党入党請願書」 入党をエサに若い兵士の戦意鼓舞か

◆エリート、入党保障、大学推薦…羨望の対象

官製メディアが公開する北朝鮮の特殊部隊の訓練の様子。朝鮮中央通信より引用

私は1990年代後半に朝鮮人民軍に入隊した。北朝鮮では、男子の場合、高校を卒業した満17歳で軍に入隊する。身体検査や面接もあるが、大学や専門学校に進学する場合を除いて、ほぼすべての卒業生が軍に入隊する。

「暴風軍団」と言えば、屈強な肉体の兵士たちが、瓦を割ったり体に巻かれた鎖を引きちぎったりする超人的な姿が映像で流れる。しかし、それらは外部にアピールするための「ショー」に過ぎない。特殊部隊といえども、「暴風軍団」の兵士も一般の兵士とほぼ変わりはない。ただ、健康で頑強という点が重視され、選抜されたのみだ。

一方で「暴風軍団」は、入隊を志望する若者にとって羨望の的でもある。理由はいくつかある。

まず、優れた戦闘技術と体力を持つエリート集団という社会の認識がある。そして、他の部隊より相対的に食事がいい。さらに、除隊後に朝鮮労働党への入党が保証され、大学入学推薦を受けられる可能性もあるなどの「恩恵」があるためだ。

つまり、「暴風軍団」の大部分は、特殊部隊で服務することを通じて「階級変更」や大学進学を夢見る、農民や普通の労働者家庭出身の若者たちなのだ。

※階級変更:北朝鮮は階級社会だ。特に農業は、貧しく将来の可能性が閉じられた最下層の職業とみなされている。農民家庭に生まれたら、子々孫々までが一生を農場員として過ごさなければならない。

私が入隊した当時は、「ホンギルドン」や「命令027号」などの戦闘映画が流行しており、私自身は実際に戦闘技術が学べること、そして友人に自慢できるという理由で「暴風軍団」を志願した。同年代の新兵たちは、飛行機に乗れるから、大学に行けるから…などという理由だった。特殊部隊への配属が決まると、同期らと歓声を上げて喜んだ。

◆鉄塔からのパラシュート降下訓練に失望

「暴風軍団」の主目的は、後方攪乱だ。戦闘時に後方地域に投入され、爆破や重要人物の拉致・暗殺などを担うとされていた。

しかし訓練の実態は、それとはほど遠かった。

初めて配置されたのは、黄海北道(ファンヘブクト)谷山(コクサン)郡にある58旅団航空陸戦部隊だった。航空部隊なので落下傘の訓練がある。しかし、指揮官が送電塔のような鉄塔を指さして、「あの塔から落下傘訓練をする」と言った時は非常に失望した。

北朝鮮では一生涯で飛行機に乗れるのは、人口の5%に満たないだろう。特殊部隊に行くのを引き留めた私の親も、飛行機には一度乗ってみたいと話していた。けれど、エネルギー不足の北朝鮮では、鉄塔から降下訓練をするのが現実だった。

鉄塔に上り150メートルの高さから飛び降りて訓練をした。怖気づいて失禁する兵士もいて、洗濯のために2時間の休憩が与えられたこともあった。1年に1回だけ、飛行機を使って800メートルの高さから落下する訓練があったが、初めて飛行機に搭乗して降下訓練した際、350人のうち2人が墜落死した。

その他にも、強行軍、体力訓練、気圧訓練など様々な訓練を経験した。殴打に耐えることも学ばなければならないと、集団で殴打されてから目的地まで戻る訓練はとても辛かった。あまりの厳しさに自殺する者もいた。

◆食事は米に油一さじのみ

中国との国境に配置された「暴風軍団」と見られる兵士たち。2020年10月に中国側から撮影アジアプレス

期待していた食事も悲惨な状況だった。例えば2000年初頭頃の食事は、粘り気のない米に油一さじのみ。おかずとなる副食物は軍の副業地で採れた野菜で賄っていた。栄養失調になる者も多く、12人からなる私の組のうち、少なくとも2人は栄養失調になった。
※食糧配給制が崩壊し、大量の餓死者が発生した1990年代後半の「苦難の行軍」から数年は、軍の食事事情も極めて劣悪だった。

劣悪な食事事情のために脱走兵も発生した。厳しい訓練に疲れ、ひどい食事に失望し、なぜ親の言うことを聞かずに特殊部隊に来たのか、後悔する同僚兵士も多かった。

◆「総爆弾精神」による盲目的な集団

「暴風軍団」で何よりも重視されるのは、「総爆弾精神」だ。これは、首領のために自分のすべてを犠牲にするという思想である。

落下訓練の時には、背中のパラシュートとは別に、腹に予備傘を括りつけるが、予備傘の代わりに爆弾を与えられれば、敵陣に爆弾になって落ちるという忠誠を誓った部隊としても有名だった。

1993年の韓米合同軍事演習に備えた準戦時態勢の時、「暴風軍団」では金正日氏に「予備傘の代わりに爆弾をくれ」という手紙を送り、忠誠を認められたという逸話もある。

当時の私も、将軍様の特攻隊だという自覚を持っていた。それは、自分たちは特別な軍人だという優越感でもあった。何も分からないまま、「自爆勇士」という誇りを持ち、気づけば身を投げだすように訓練に励んでいた。

北朝鮮では9歳から少年団組織に加入し、政治的な組織生活を始める。学校でも思想教育を集中して行う。そんな環境で育った17歳の若者が、外部世界と遮断されたまま、「総爆弾」、「決死擁護」、「自爆勇士」などのスローガンが四方に張られている駐屯地の中で、血を吐くような訓練ばかりの日々を過ごせば、いとも簡単に盲目的な集団になる。

◆忠誠の先に…あまりにも残酷な行く末

「暴風軍団」の兵士の実体は、満足に食べることもできず、まともな社会経験もない洗脳された若者たちだ。当時の自分を振り返ると、分別なくむやみに突き進む火蛾のような存在だったと思う。

しかし、批判すべきは無垢で無分別な若者を利用する北朝鮮当局だ。どこの国でも、軍人である限り命令には無条件で従う。ウクライナへ派兵されている兵士は、主に1824歳だと推定されている。戦地で北朝鮮兵士が泥酔した、ロシアの指揮系統に従わないなどの報道もあったが、若い兵士らは初めて戦争を体験し、極限の心理状態に置かれ、ひどく混乱した故ではないかと思う。

金正恩氏にとって、「暴風軍団」は一つの道具に過ぎない。閉鎖的な階級社会の中で、自分の将来を切り拓くために国家に忠誠を誓う道を選んだ若い彼らの行きつく先が、戦地であり死であったことは、あまりにも残酷だ。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

 

Source: アジアプレス・ネットワーク