10.07
台湾緊張、飛来した中国機の数だけでなく編成が物語る本気度
<日本近海で民主主義陣営が合同演習を繰り広げるなか、中国軍機が大挙して台湾の防空識別圏に進入> 台湾はここ数十年で「最も厳しい」状況に直面している──過去最多に上った中国軍機の接近を受け、台湾の国防トップがそう警告を発した。 今月に入り中国軍機は4日連続で台湾沖の上空を飛行。10月4日には過去最高の56機が飛来し、台湾に揺さぶりをかけた。飛行したのは国際空域だが、台湾国防軍は挑発行動のエスカレートを警戒している。 台湾の邱国正国防部長(国防相に相当)は議会で10月6日、中台間の緊張の高まりは「私が軍隊に入ってからこの40年間で最も厳しい」レベルに達していると発言した。 台湾近海で同盟国と共に合同演習を行ったばかりのアメリカも、中国の行動は地域の「不安定化」を招く、「リスクを伴う」動きだと強い懸念を表明した。 以下はAP通信が伝えた詳細。 攻撃のための編成 すぐにも軍事衝突が起きるようなことはないとの見方が有力だが、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、中国が「必要とあらば武力で台湾を併合する」との脅迫を実行に移せば、大損害を被るのは台湾だけではないと国際社会に訴えた。 「台湾が陥落するようなことがあれば、地域の平和と民主主義的な同盟は壊滅的な打撃を受けるだろう」と、蔡は10月5日発行の米誌フォーリン・アフェアーズに寄稿した論説で力説した。「(台湾陥落は)価値観をめぐる今日のグローバルな競争において、権威主義が民主主義より優位に立ったことを世界に知らしめるシグナルとなる」 中国はこれまでも繰り返し台湾の「防空識別圏」(ADIZ)に軍用機を飛ばしてきたが、これほど大挙して進入したことはない。 軍用機の数以上に重要と見られるのは、戦闘機、爆撃機、早期警戒機から成るその編成だと、国際戦略研究所シンガポール支部の軍事アナリスト、ユーアン・グレアムは指摘する。 「(重要なのは)技術的な洗練度だ。これは攻撃編隊と見ていい。圧力を一段と強化する動きの一環だろう。これまでのように2機の戦闘機が接近し、(中台の事実上の停戦ラインである)中間線をかすめて飛び去るのとは訳が違う。はるかに明白に(攻撃の)意図を見せつけるオペレーションだ」 ===== 軍備の刷新と拡大を急速に進めてきた中国は、今回のオペレーションで軍用機の性能と操縦技術の向上を見せつけたと、台湾のシンクタンク・国防安全研究院の研究員Chen-Yi Tuは言う。 わずか2、30年前まで中国空軍は空中給油もできなかったと指摘するのは、スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所の研究員、オリアナ・マストロだ。 「その頃とは状況が変わり、今では自分たちにも複数の選択肢があると、中国はアメリカと台湾に見せつけたいのだろう。自分たちはやりたいことをやる、抑止力など効かない、と」 一方で、民主主義国が続々と台湾支援を表明し、台湾近海での合同演習に参加している。 中国が軍用機を台湾のADIZに飛ばしたまさにその時期、アメリカ、イギリス、オランダ、カナダ、ニュージーランドの5カ国の海軍と日本の海上自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋」構想の一環として、日本の沖縄と台湾北東部に近い海域で、空母3隻と日本のヘリコプター搭載護衛艦1隻を含む17隻の艦船による合同演習を実施した。 日本も中国の脅威を認識 9月末には英海軍の空母打撃群所属のフリゲート艦「リッチモンド」が台湾海峡を通過したことを公式ツイッターで明らかにした。中国はこれに猛反発し、「陰湿な意図による無意味なプレゼンスの誇示」だと非難した。 自国の行動はアメリカの動きに対抗するものだと、中国は繰り返し主張してきたが、民主主義陣営はこれを認めず、海事に関する国際法と国際的な規範を守り抜くという明確な意思表示をしていると、グレアムは言う。 「イギリスが2008年以来初めて台湾海峡に艦船を派遣し、中間線に沿って航行させたのは、この線を越えることは許さないと中国側に警告するためだ」 中国を牽制するため、9月にイギリスとアメリカから技術供与を受けて原子力潜水艦を建造する計画を発表したオーストラリアも、今回の中国軍機の飛行を非難している。 これまで長年、重要な貿易相手国である中国と良好な関係を保とうとしてきた日本も、東シナ海や台湾海峡における中国の挑発的な行動のエスカレートを自国の安全保障に対する脅威とみなすようになった。 ===== 「この地域では、中国の行動に対抗できる何らかのメカニズムを構築する必要があると見て、民主主義陣営の国々が徐々に手を組み、ある種の連合を形成しつつある」と、米シンクタンク・グローバル台湾研究所の台湾駐在上級研究員J・マイケル・コールは指摘する。 アメリカは台湾と外交関係を断ってからも、引き続き政治的・軍事的な支援を行なってきたが、「中国が攻めてきたら守ってやる」と台湾にはっきり約束したわけではない。 それでもインド太平洋地域における米軍の活動は活発化していて、それに対抗して中国軍の行動も増えていると、中国陸軍の元大佐で、北京在住の軍事コメンテーターであるYue Gangは言う。 「バイデン政権になってから、多数の軍艦や軍機を派遣し、同盟国との連携を誇示して、盛んに中国を牽制するようになった。中国としては『われわれの力を見くびれば痛い目にあう』とアメリカに知らせようとしているのだろう」 中国軍機が台湾のADIZに進入すれば、台湾はそのたびにスクランブル(緊急発進)をかけねばならず、装備も人員も消耗し、防衛能力が低下すると、Yueは指摘する。「軍用機は飛び立つたびに、少しずつエンジンの寿命が縮む」 狼少年効果も狙う? ADIZ進入は台湾をイラつかせるだけでなく、中国軍のパイロットを優位にし、「中台統一の最後の手段として中国が武力行使に踏み切った場合」にも、またいつもの挑発かと思わせて、台湾の意表を突くことができると、グレアムは指摘する。 もっとも、今のところ中国がすぐにも「最後の手段」に出る可能性は低いというのが大方の見方だ。 「(ADIZ進入は)どちらかと言えば心理的な作戦で、『台湾にこれ以上近づくな』と、アメリカに警告するためのシグナルと見ていい」と、マストロは言う。 =====
Source:Newsweek
台湾緊張、飛来した中国機の数だけでなく編成が物語る本気度