2024
12.17

<北朝鮮内部>物価急騰で広がる混乱 年初比でガソリン2倍強、白米1.65倍、貨幣価値は3分の1に…「このままでは死んでしまう」 当局は商人を家宅捜索など強硬策

国際ニュースまとめ

(最新写真)公設市場の裏道で商行為をする人々。2024年10月、両江道の恵山市を中国側から撮影アジアプレス

◆当局は「商売人のせいだ」と強硬取り締まり

北朝鮮で物価が高騰し混乱が急速に広がっている。年初に比べて白米は1.65倍、ガソリンは2.15倍、米ドルは3.3倍に上がり、住民の間からは「生きていけない」と悲鳴が上がっている。当局は買い占めや売り惜しみを厳罰に処すると通告し、商人から物資没収をしたり家宅捜索に乗り出したりするなど強硬策に乗り出している。(石丸次郎/カン・ジウォン)

◆狂乱の物価上昇

アジアプレスでは北部の両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)、平安北道(ピョンアンプクド)で週1回物価調査を行っている。

今年1月の価格と11月末の非公式の市中価格は次のとおりである。燃油類、食糧は1キロの価格で、単位は北朝鮮ウォン。食糧は公設市場での販売が20231月頃に禁止され、個人間で非公式に行われている。燃油と外貨の取引も非公式の価格だ。

      1月      11

ガソリン 13000  →    28000    2.15

軽油   12000  →     21000    1.75

白米          5700  →        9400    1.65

トウモロコシ  3100  →            4300     1.38

1中国元       1260  →            3200     2.54

1米ドル       8450  →        28000      3.3

1000ウォンは、1月初時点で約17.1円、11月末時点で5.4円。

◆国営の食糧専売店でも高騰

(参考写真)中国の1元札のお釣りを渡そうとする商売人の女性。外貨が堂々と街中で使われていたが、現在は強硬な取り締まりで表立っては使えなくなっている。2013年10月両江道にて撮影アジアプレス

高騰しているのは非公式の価格だけではない。国営の食糧専売店である「糧穀販売所」の価格も不安定になっている。

2022年頃から「糧穀販売所」では公定価格が導入され、直近では住民への食糧販売は一月に2回、一世帯あたり710キロ程度を白米5000ウォン、トウモロコシ2500ウォンで販売する規定になっていた。ところが12月初旬、両江道と咸鏡北道の3地点の「糧穀販売所」で調べたところ、白米8500ウォン、トウモロコシで3100ウォンに値上げされていた。

また、両江道の取材協力者A氏は「トウモロコシは湿気ていたり、腐敗したものが混ざっていたりして質が悪くなった」と言う。国が食糧を十分に流通させられなくなっていようだ。

◆「腐った資本主義の残滓のせい」…商品没収に家宅捜索も

当局は、物価高騰は商行為をする者たちによる買い占めと売り惜しみ、不法な外貨流通のせいだとして、強硬策で臨んでいる。北部地域に住む別の取材協力者B氏は、次のように伝えてきた。

「そっと小さな商売をしている人たちを捕まえて品物を没収し、家宅捜索までしている。ちょっと余裕があるように見えるだけで怪しみ、やたらと令状を作って家に押し入って捜索する。12月12日には、私の住む人民班で2軒が家宅捜索を受けた。上の連中は、(物価高騰の)対策を立てることは何もしない」

※人民班は末端の行政組織で通常20~30世帯、約60~80人程の人員で構成される。

A氏は、127日にあった女性同盟の会議での様子を次のように伝えてきた。

「当局者が来て講演をした。『値段を釣り上げているのはトンチュ(金主の意、新興富裕層)と商売人らである。腐った資本主義の残滓を取り除かなければならない。買い占め、売り惜しみ現象と、外貨によって価格に影響を与える行為を厳格に取り締まる。ヤツらは神聖な我が国のお金ではなく、外貨に目がくらんで私たちの経済を食い物にしているのだ』という内容だ。外貨で商売をする者は厳しい法的処罰を与える、と通告した」

※女性同盟:主に職場に籍を置いていない主婦で組織される。

◆商人の財布を強制検閲

またA氏は、125日に恵山(ヘサン)市の市場で起こった騒動についても伝えてきていた。

「市場の商人たちが突然財布を開けろと命じられた。中国元が見つかると調書を作成して強制的に取り上げたので、商人たちが泣いて喚いて騒動になった。市場管理所では、外貨を使ったら無条件に没収すると通告し、同意した人だけが商売できるようにした」

◆収入激減に食糧高騰が追い打ち

今、北朝鮮の都市住民の間で深刻なのは、現金収入の得る当てが乏しいことだ。金正恩政権は2019年頃から商売や運輸、食堂など個人の経済活動を強く規制。市場での商行為にも制約が強まった。2020年からのコロナパンデミック期の経済混乱を経て、都市住民の多くは現金収入の機会を失った。地方の脆弱層の中には飢えと病気で命を落とす人まで現れた。

「商売はまったく不振のままで、最近では、石炭を運んだり、練炭を作ったりするなどの日雇いの力仕事をしてなんとか稼いでいる。そんな仕事も、以前は1時間に3000ウォン~1万ウォン稼げたけれど、(仕事を求める)人が多すぎて、今は昼食付で一日5000ウォンくらいしかもらえない。

収穫が終わって間がないのに食糧価格がどんどん上がるので、このままでは死んでしまうと多くの住民が心配している。不満はすさまじいです」

A氏は、住民の動揺をこのように伝えてきた。

日給5000ウォンは現在の実勢レートで27円に過ぎない。これではコメ600グラムも買えない。金正恩政権がすべきなのは、商行為の取り締まりではなく緩和であり、住民を対象に食糧を放出することだ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

 

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク