12.12
<北朝鮮>危険すぎる「速度戦」アパート工事を分析(1)「水準は日本の90年前。耐久性は10~15年か」と専門家 高層なのに資材の圧倒的不足、動力源はゼロ…
◆人力で突き進む突貫工事
北朝鮮の突貫工事は有名だ。「速度戦」という煽動スローガンの下、建設や土木の工事現場に多くの人員が昼夜を分かたず作業に動員される。目的は無理な工期を達成するために人々を駆り立てることにある。こうした無茶な大規模工事は60年以上前から繰り返されてきたが、作業中の事故や建物の倒壊により、多数の人命が失われてきた。7月末の集中豪雨で被害を受けた鴨緑江下流では、8月初旬から数十を優に超える被災者向けアパート建設が強行されていた。金正恩政権は12月中の完工を命じている。だが、果たしてこれら「速度戦」アパートには、安全に住むことができるのだろうか? 専門家に現地で撮影した写真と映像を分析してもらった。(洪麻里)
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◆廃墟? 杜撰な建設現場を専門家が分析
アジアプレスは10月中旬、被災者向けとされるアパート建設現場の平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市と義州(ウィジュ)郡を中国側から取材した。
廃墟だろうか? というのが、遠目から現場を見た正直な第一印象だった。ガタガタな型枠、色ムラが目立つ外壁、バラバラな方向に伸びる鉄筋――。かき集めてきたような細くて不揃いな木材で組んだ足場の上で、多数の作業員が異様なほど密集して作業にあたる様子は、素人目からしても、完工後に深刻な問題が起こるように見えた。
専門家の目にはどのように映るだろうか。コンクリートの強度や耐久性などの材料特性が専門の東京理科大学の今本啓一教授に、現地で超望遠レンズ撮影した写真と映像を見てもらい、アパート建設の特徴と問題点について聞いた。
◆コンクリートが固まりきる前に脱型…「相当急いでいる印象」
――北朝鮮の建設現場の写真を見て、どんなことが分かるでしょうか?
今本:まずは、相当急いで施工をしていることが分かります。この写真(①)のコンクリートの色を見ると、コンクリートを打設(流し込んで固める)した後、まだ十分に硬化していない時点で型枠を外し(脱型)、上部階などに転用しているようです。
――一般的に、型枠はどのくらいで外されますか?
今本:当時の気温が20度前後だとすると、コンクリートが十分な強度を持つためには、日本の仕様書(基準)では4~6日置いておく必要があります。短くても2~3日でしょう。しかし写真を見ると、長くて1日、もしかすると半日程度で外している可能性もあります。
◆ひび割れや剥落が憂慮
――脱型が早いと、どのようなことが起こりえますか?
今本:建物の耐久性に深刻な問題を引き起こします。専門的な話になりますが、コンクリートはアルカリ性です。鉄筋は大気中では錆びますが、アルカリ性の中にあれば錆びません。ただし、コンクリートのアルカリは大気中の二酸化炭素(弱酸性)と反応して中性になり、これが鉄筋位置にまで及ぶと鉄筋は錆びるとされています。だからこそ鉄筋コンクリート造は、コンクリートの強度が強く、緻密なほど、この反応が進みにくく耐久的な構造だといえます。
しかし、脱型が早まると、当然コンクリートの組織が十分緻密化しにくくなり、空気中の二酸化炭素や水分が鉄筋に到達するスピードが速まります。つまりコンクリートの寿命…ひび割れや剥落などが早くなります。
◆機械による動力ゼロ、すべて人力でカバー
――とにかく人の多さが目立ちます。
今本:(機械などを動かす)動力源がないようです。通常、工事現場では、コンクリートを作るミキサー、それを打ち込むポンプ車、締固めを行う振動機などが使われます。これらの機械を動かすためには、電気や燃料などの動力源が必要です。
しかし写真を見る限り、そうした動力源は見当たらず、機械があれば最小の人数で済むところを人力でカバーしているようです。だからこれほど人が多いのでしょう。施工現場において重要な動力源を回す余裕がないのかもしれません。
◆あまりに少ない鉄筋…明らかな資材不足
――北朝鮮では、資材不足も深刻です。
今本:資材不足は、様々な場面で見て取れます。最初に指摘した型枠もそうですが、足場や(重さを支える)支保工などの仮設資材が全て木です。鋼(はがね)が一切使われていません。
木材が豊富なアジアでは、竹などを仮設資材に使うことは多いですが、それでもコンクリートの重量を支えるべき部分やしっかりと固定すべき部分など、要所では鉄などを使用します。
――建物に使われる鉄筋の量はどうでしょうか?
今本:鉄筋の量も非常に少ないです。建物の安全性を図る指標のひとつに「構造安全性」があります。これは、地震などの外部の力に対して耐えうるかを測る指標で、コンクリートの強度と鉄筋の量によって決まります。
柱に縦に通る鉄筋を「主筋」(②赤枠)と言いますが、写真で見ると、最低限の4本しかありません。日本では一般的に12~20本は使います。
この主筋を帯状に巻いている部分を「せん断補強筋」と言います。間隔を密にするほど耐震性が高まります。地震国の日本では、15センチ以下の間隔で巻くことが求められています。しかしここでは、横にいる作業員のヘルメットの大きさから推測すると約30センチの間隔でしょう。
また壁の中には、通常、縦横に最低20センチくらいの間隔で鉄筋が入っています。この写真(③)では縦の鉄筋が見えますが、1メートル以上も間隔が空いています。
◆関東大震災クラスでは全壊、安全に住めるのは10~15年
――総合すると、北朝鮮の建設水準はどう評価できますか?
今本:施工状況や工法を総合的に判断すると、日本の1920~40年代の施工状況に近いと思われます。約90年前の状況です。その時期に日本で建てられた鉄筋コンクリート造の5、6階建てアパートのコンクリートの強度を調査したことがあるのですが、近年建てられた同条件の建物のコンクリートの強度と比べると、3分の2から半分程度でした。
――具体的には、どのくらいの強度のイメージでしょうか?
今本:関東大震災クラスの地震が北朝鮮で起きた場合、当時の日本の建造物の被害と同じくらい、つまり、多くの建物が全壊するような被害が起きてもおかしくはないでしょう。
――北朝鮮は地震が非常に少ないです。その場合、建物はどのくらいもつのでしょうか?
今本:「構造安全性」と併せて、もう一つ重要な指標が「耐久性」です。「どのくらい安全に住めるか」と言い換えることもできます。今回見た北朝鮮のアパートの耐久性は、せいぜい10~15年と考えてもおかしくはないでしょう。
例えば、コンクリートの中の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートにひびが入って剥落すれば、それは安全に住める状況ではありません。脱型が非常に早い状況などを鑑みると、残念ながら長く安全に住める場所とは評価できません。(続く)
※建設現場の写真はいずれも平安北道新義州。2024年10月撮影アジアプレス。
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Source: アジアプレス・ネットワーク