12.04
<ミャンマー現地報告2>抵抗勢力の暫定統治進むカレンニー州、戦闘と空爆の爪痕(写真12枚+地図)
2023年6月、ミャンマー東部のカレンニー州メーセで国境警備隊(BGF)が蜂起。軍事政権と闘う抵抗勢力に合流し、国軍基地や官署を攻撃した。国軍側は空爆で応じ、住民の大半が町を脱出。戦闘と空爆で破壊されたメーセの町をカレンニー州警察(KSP)の警官たちと歩いた。(赤津陽治)
◆住民脱出の町を警官が巡回
メーセ町内を巡回する警察のパトロール隊に同行した。隊員は二丁の銃を装備。うち一丁を持って歩く女性警官(18歳)に志願した動機を尋ねた。
「クーデターを起こした軍事独裁政権が嫌でした。人びとを守りたい。戦っている抵抗運動の仲間たちを何らかのかたちで支えたいと思ったのです」
メーセの町は閑散としていた。ほとんどの店は閉まり、住居に人が住む気配は感じられず、路上で住民の姿を見かけることもほとんどない。
住人のいない家々に盗みが入らないよう、パトロール隊が1日に3回、巡回する。
役所や官舎の大半が破壊され、焼かれていた。
旧メーセ警察署を訪れると、入口の壁は崩れ落ち、内部は破壊しつくされていた。
1階に残る鉄格子から留置場があったことが辛うじて分かった。
瓦礫の上を歩いて2階に上がると、床には警察文書を綴じたファイルが無造作に散乱していた。
その上を踏み歩いていく。
◆蜂起から始まったメーセの戦闘
「クーデター後もあの日までは、平和な町でした」。地元出身の男性警官(20歳)はそう話す。
2023年6月13日朝、銃声で目を覚ました。カレンニー武装勢力の合同部隊がメーセ警察署や周辺の国軍基地を一斉攻撃。
大半の基地を短時間のうちに攻略したが、警察署には、軍事政権側の警官や兵士が立てこもり、抗戦。
約2週間の戦闘の末、ようやく制圧した。
合同部隊で重要な役割を果たしたのが、元々メーセ地域に影響力を持つ、カレンニー諸民族人民解放戦線(KNPLF)という組織だ。
同組織は、1978年に創設され、ビルマ共産党の支援を受けて、勢力を保った。
その後、1994年に旧軍事政権と停戦。2009年に国境警備隊(BGF)として、国軍指揮下に編入された。
しかし、クーデターから2年4カ月が過ぎた2023年6月、ついに国軍に反旗を翻した。ミャンマー全国に数多くのBGFが存在するが、KNPLFは国軍に蜂起した最初のBGFだった。
◆結束するカレンニー武装勢力
「軍事クーデターを国民全体が認めていません。我々は人民とともにあるという立場から、停戦を正式に破棄し、攻撃したのです。準備に時間がかかりましたが、我々は、クーデター後、正式に反旗を翻すまでの間、多くの若者に軍事訓練を施し、武器を提供し、逃れてきた公務員や議員の安全を確保するなど、さまざまなかたちで支援していました」
KNPLF共同書記のローレンソー氏(53歳)は、そう明かす。
KNPLFは2009年以降、第1004・第1005国境警備隊(BGF)として、国軍傘下に組み込まれていた。一方で、KNPLFという母体組織は独自に存続。反旗を翻す以前から、KNPLF幹部のひとりは、軍事政権と対立する並行政権の国民統一政府(NUG)で連邦問題担当副大臣を務めていた。均衡を保ちながら、蜂起するための力を蓄えていた。
カレンニーの武装勢力は、KNPLFのほか、1957年に設立されたカレンニー民族進歩党(KNPP)、クーデター後にカレンニーの若者たちで結成されたカレンニー諸民族防衛隊(KNDF)、地域ごとの人民防衛隊(PDF)がある。これら複数の武装勢力が、作戦ごとに指揮官を変え、ひとつの指揮系統で共同して作戦にあたっている。
KNPPの軍事部門カレンニー軍(KA)のアウンミャ総司令官(74歳)の話では、現在、カレンニー州の約70パーセントを抵抗勢力側が掌握しているという。
◆空爆の爪痕
メーセの町には、国軍による空爆の爪痕が生々しく残っていた。
「ここには空から投下された爆弾が不発のまま、道路に突き刺さっていました。あそこに一発、あちらの建物にも一発落ちました」。巡回中の男性警官が指さした。
建物のひとつは、内務省総務局の官舎だった。2023年6月にメーセの戦闘が始まった直後、国軍の空爆で破壊されたという。天井が抜け落ち、壁には爆弾の破片による穴が所々に開いていた。残った壁には、額縁やハンガーがそのまま掛けられていた。
メーセ周辺の住民の大半は、それまで空爆を経験したことがなく、戦慄し、強い恐怖が胸に刻み込まれることとなった。
(つづく)
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<ミャンマー現地報告2>抵抗勢力の暫定統治進むカレンニー州、戦闘と空爆の爪痕(写真12枚+地図)
<ミャンマー現地報告3>内戦続くカレンニー州、戦時下で支え合う国内避難民(写真9枚+地図)
Source: アジアプレス・ネットワーク