2024
11.14

<北朝鮮内部>金政権が「貨幣交換」を準備か 噂広がり買い占めで物価高騰など混乱 当局は打消しに躍起 

国際ニュースまとめ

(最新写真)公設市場の裏道で商行為をする人々。2024年10月、両江道の恵山市を中国側から撮影アジアプレス

北朝鮮政府が「貨幣交換」(新ウォン切り替え)を断行するという情報が、国内で広く流布している。現通貨が使用できなくなるという疑心から、現物の買い占めや中国元、米ドルなどの外貨を求める動きが広がり物価が高騰している。当局は「貨幣交換」をデマだとして否定に躍起になっているが、住民の間で不安と混乱が広がっている。(石丸次郎/カン・ジウォン

◆「トンチュ」と幹部らの買い占めの動きで不安拡散

「貨幣交換があるらしい」との情報は10月末頃から、突如広がり始めた。

11月初旬、咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者のA氏が、「政府が『貨幣交換』を企んでいるようだという情報が広がっている」と一報を伝えてきた。11月12日には、両江道(リャンガンド)に住む取材協力者B氏が、混乱発生の動向について詳細を伝えてきた。

 

2地点からの報告はほぼ共通しており、内容は以下のようなものであった。

・「トンチュ」(金主)と呼ばれる新興富裕層や幹部たちが、密かに家電製品や家具、自転車、食料品などの買い占めや外貨購入に走り、それを察知した住民たちが「貨幣交換」を疑い始めたことが情報拡散の端緒だった。

・銀行では、破損した紙幣の交換に一切応じなくなった。

・新しく500、1000、2000ウォンのコインと5000、1万ウォンの紙幣を発行するらしい。

・個人間の外貨取引を、以前にも増して厳格に取り締まっている。

・貨幣交換は11月中に始まるという未確認情報が流れている。

・当局は、「流言飛語」(デマ)に過ぎないとして、「貨幣交換」という言葉自体を使うことを取り締まっている。物資の買い占めや個人間での売買を摘発した場合は、没収すると警告している。

 

(参考写真)中国の1元札のお釣りを渡そうとする商売人の女性。外貨が堂々と街中で使われていたが、現在は没収までする強硬な取り締まりで表立っては使えなくなっている。2013年10月両江道にて撮影アジアプレス

◆北朝鮮式キャッシュレス制と関連付けか

特徴的なのは、「現金カード」の使用督励と関連づけられた情報が拡散していることだ。

金正恩政権は、2023年末頃から国営企業や公務員への労賃(月給)の支給を、現金ではなく、「現金カード」を渡してそれに入金にする方式を導入。現在では農村部を除き大部分の職場の労賃や、老齢年金の支給をカードへの入金に切り替えている。カードは国営商店や食糧専売店の「糧穀販売店」などで決済できる。個人で現金をチャージすることも可能だ。

「政府は全世帯がカードを1枚は持つよう指示している。『貨幣交換』が行われても、カードにある金はそのまま新ウォンに変えることができるという噂が流れていて、トンチュや幹部らは、手持ちの現金をどんどんカードに入れている。買い占めや外貨買いに走っているのもそうだし、『貨幣交換』の情報を事前に知って、いい金儲けのチャンスが来たと考えて動いたのだろう」(協力者B氏)

◆15年前の「貨幣交換」の悪夢

2009年11月30日、当時の金正日政権は新旧通貨を切り替える「貨幣交換」を電撃的に断行した。ウォンを100分の1に切り下げるデノミネーションであったが、交換の上限額を1世帯あたり旧ウォンの現金10万ウォンまでとし、交換期限を1週間に限定した。寝耳に水だった多くの住民たちは、保有していた10万ウォン以上の旧ウォンが使用不能の紙くずになり、大混乱を招いた。

金正恩政権が本当に「貨幣交換」を実行するのか、現時点では不確かである。もし断行するとして、それが通貨切り下げを伴うものなのか、交換できる額や期間に制限が設定されるのかも不明だ。それでも混乱が発生しているのは、住民たちの間に政府と自国通貨に対する根深い不信があるからに他ならない。

「政府は、ずっと人民を統制することばかりしてきたので、住民の暮らしのことなんかお構いなしに、『貨幣交換』を実施しても何の不思議もない」

協力者のB氏は、こう嘆いた。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク