2024
11.03

<北朝鮮>露派兵を国内ではどう見ているか?(2) 予想外! 高まるロシアへの期待 なぜ? 「同盟国は助け合わねばというムード作ろうとしてる」

国際ニュースまとめ

平壌を国賓訪問したプーチン大統領と金正恩氏。2024年6月19日、労働新聞より引用。

<北朝鮮>露派兵を国内ではどう見ているか?(1) 兵士の親たちが派遣察知し徐々に拡散 「露でチーズや牛乳を腹いっぱい食べられるのでは」「戦闘に行くとはまったく思っていない」

北朝鮮国内で、ロシアへの派兵情報が少しずつ広がり始めている。その一方で、ウクライナ侵攻戦でロシアが将兵7万人の戦死者を出していることや、派遣される北朝鮮の若い兵士の任務についてはまったく情報がないようである。そのためか、国内はロシアとの関係深化を歓迎する雰囲気で、派兵についても否定的な反応は出ていない。背景には、情報統制に加えて深刻な経済難があった。10月末、北朝鮮北部地域に住む3人の取材協力者に現状を聞いた。(石丸次郎/カン・ジウォン

◆ロシアへの派兵について国内の雰囲気は?

10月18日に韓国の国家情報院がロシア派兵情報を発表した。咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む労働党員の取材協力者のA氏は、アジアプレスが伝えるまで派兵についてまったく知らなかった。その後、周囲の人たちから慎重に話を聞き、ロシアとの急速な関係深化について、国内の空気を次のように伝えてきた。

「ロシアについては、同盟国なので困難な時には互いに助け合うべきだというのが、私の周囲の雰囲気だ。派兵について知っている人は少しいた。しかし『我われの軍隊がロシアの紛争地域に警戒、防衛の任務で送られているらしい』という程度の認識だった」

両江道(リャンガンド)に住む取材協力者B氏は、派兵の理由について自身の見方を次のように言う。

「(今年6月に)プーチン大統領が来た時、借款で多くの物資をくれたという話があった。実際、羅津(ラジン)を通じてロシアからプロパンガスや砂糖、小麦粉、原油などがたくさん入って来た。政府は大変助かっていると思う。ただ、以前、国際的な支援が入って来た時のように、市場の価格が下がったということはない。すべて国家に入るので、一般の人が助かっていると感じる部分はあまりない。ロシアとは親善関係なので、内戦をしている(ウクライナ戦争のこと)ロシアを助けに行ったのでしょう」

平壌を国賓訪問したプーチン大統領と金正恩氏。2024年6月19日、労働新聞より引用。

◆原油、食糧、機械設備受け取りか…「恩恵は民に回っていない」

2023年9月、金正恩氏はロシア極東地域を訪問し5泊6日の滞在中にプーチン大統領と会談するなど歓待を受けた。今年6月にはプーチン大統領が北朝鮮を国賓訪問し、「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名。軍事面での相互の支援も明記された。

北朝鮮住民の間では、ロシアと急速に親密になっているという実感があり、経済苦境を脱する助けになると、それを歓迎、期待するムードがある。A氏は咸鏡北道との関連を調べ、次のように伝えてきた。

「原油がロシアからたくさん送られているようだ。羅先(ラソン)の『勝利化学工場』の精製設備が老朽化しているので、ロシアの設備でリニューアルが始まり、ガソリン、重油、軽油、道路舗装用のアスファルトまで生産する予定だそうだ。ただ、ロシアからの石油は国家が独占していて業者に回されるものがなく、市中のガソリンや軽油の取引価格はまったく下がっていない。

国営企業はどこも不良設備だらけなのだが、ロシアからモーターや重工業に必要な機械設備がかなり入って来ていて、一気に更新されるムードだと聞いた。ただ、生産原料は今もほとんど中国産に依存している。

ロシア産品が羅先にたくさん入って来ているけれど、市場で個人の商売人の手には出回っていない。ロシアとの貿易は会社ではなく国家間でやっているからだ。わからないことが多い。

ただ、ロシア産の小麦や小麦粉を国営企業が配給で出していた。住民に対しては、8月に『糧穀販売所』で小麦粉を販売したことがあった。ロシアから入る食糧の大部分は軍部隊に優先的に供給されていて、一般社会にはほとんど出回っておらず、市中の食糧価格が下がることもない」
※「糧穀販売所」は国営の食糧専売店のこと。2023年1月頃に主食の白米とトウモロコシの市場での販売が禁止され、「糧穀販売所」だけで購入するようになった。

北朝鮮最大の鉄鉱山である茂山(ムサン)鉱山でも、ロシアから機械設備が導入されることになったとして、現地の取材協力者が次のように伝えてきた。

「鉱山の設備を現代化するためにロシアから機械設備を導入することが決まり、調査のために中央から鉱山に人が何度も来ている。2025年の上半期には更新されるそうだ」

ウクライナ軍傘下の情報保安センター(SPRAVDI)が10月18日に公開した映像には、ロシアに派遣された北朝鮮兵と見られる一団が補給品を受け取っているような場面が映っていた。

◆ロシアへの労働者派遣のために家を売って賄賂作る

現在、北朝鮮の都市住民の困窮の原因は、食糧難ではなく現金収入の激減にある。個人による商行為や運送、個人間の雇用などの経済活動が、2020年のバンデミック以降、政府によって厳しく制限されためだ。

国営企業は昨年末に月額労賃を一斉に10倍以上引き上げたが、それでも日本円換算で600~800円程度に過ぎず、白米5~7キロ程度しか買えない金額だ。貯えが尽きた老人世帯、母子世帯などの脆弱層には飢えと病気で死亡する人まで出ている。

住民が窮乏する中で、ロシアへの派遣労働者の募集が拡大している。韓国政府は、今年に入り北朝鮮から6000人の労働者が派遣され、その月収は800米ドル程度だと推測している。

「今は、一日に1ドル稼ぐのも簡単ではないのだ。中国の経済制裁が厳しいため、水産物や鉱物の輸出もできない。賄賂のために家を売って他人と同居暮らしをしながら金を作ってでも、ロシアに伐採工や建設労働者として行こうとしている。過去に派遣された経験のある人やロシア語ができる人が優先的に選ばれている」(咸鏡北道の取材協力者のA氏)

両江道(リャンガンド)に住む取材協力者C氏も同様に次のように伝えてきた。

「中国やロシアに働きに行けるなら、朝鮮の人間は皆行こうとするだろう。国がどれだけ中間でピンハネしても、ここで働くよりずっといい。親戚中から金を集めて賄賂を払って行こうとする人もいる。選ばれるためには忠誠心が強いという評価が必要なので、模範的に出勤して(金日成、金正日の)銅像や記念碑などの掃除をする人もいる」

◆ロシア派兵は最後の選択では?

韓国政府は、ロシアが北朝鮮政府に兵士1人の派遣に1カ月に2000米ドルを支払うと推測している。この情報を伝えると、取材協力者たちは次のように述べた。

「いったい兵士は金をもらえるのか、もらえるならいくらなのか、兵士を送って国にどれくらい利益があるのかなど、まったく情報がない。もし2000ドルを直接兵士が受け取れるなら、私でも行くと思う。今、お金を稼げる方法は、外国に出ることしかない。ロシアに行ってこき使われてたとしても食べていかなければならないから。派兵は最後の選択のようなものだ」(A氏)

「米国がウクライナを支援するなら、我々は同盟国のロシアを支援しなければならない、政府はそんな雰囲気を作ろうとしていると思う。ロシアと手を組むこと以外、他に(国の運営を)うまくできる道がないのだろう」(C氏)

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク