10.18
国民審査の対象の裁判官6人、顔ぶれは?「性別変更の手術要件」など注目裁判での判断は【衆院選2024】
10月27日投開票の衆院選に合わせて、最高裁判所の裁判官の「国民審査」も実施される。
今回の審査対象は、前回の衆院選(2021年10月)後に就任した6人(告示順に尾島明、宮川美津子、今崎幸彦、平木正洋、石兼公博、中村愼の各氏)。
6人の経歴と、社会的な関心を集めた「性別変更の手術要件」「トランスジェンダー女性のトイレ使用制限」「犯罪被害者給付金の同性パートナーへの支給」という3つの裁判でどんな判断をしてきたかをまとめた(いずれも訴訟に関わった判事のみ)。
6人の顔ぶれは?(敬称略)
尾島明(おじまあきら)
昭和33年(1958年)生まれ。東京大学法学部卒業。内閣法制局参事官(第二部)、静岡地裁所長、大阪高裁長官などを歴任。2022年7月に最高裁判事に就任。
宮川美津子(みやがわみつこ)
昭和35年(1960年)生まれ。東京大学法学部卒業、ハーバードロースクール修了。弁護士出身。エステーや三菱自動車工業の社外取締役などを歴任。2023年11月に最高裁判事に就任。
昭和32年(1957年)生まれ。京都大学法学部卒業。水戸地裁所長や東京高裁長官を経て、2024年8月に最高裁長官に就任。
昭和33年(1958年)生まれ。東京大学法学部卒業。行政官出身。内閣総理大臣秘書官や国連日本政府代表部大使などを歴任。2024年4月、最高裁判事に就任。
注目裁判の判断は?
①「性別変更の手術要件」
トランスジェンダー当事者が戸籍上の性別を変更するためには、生殖機能をなくす必要があると定めた性同一性障害特例法の「手術要件」ついて、最高裁大法廷(戸倉三郎裁判長)は2023年10月25日、個人の尊重を定めた憲法13条に反し「違憲」と判断した。
一方、「変更する性別の性器に似た外観を備えている」と定めた「外観要件」については、審理が不足しているとし、高裁に差し戻した。
「手術要件」について最高裁小法廷は2019年に「現時点では合憲」とする判断を示しているが、2023年の裁判では裁判官15人が全員一致で違憲とした。
今回の国民審査の対象で、裁判に関わったのは尾島氏と今崎氏。いずれも「違憲」と判断している。
最高裁の決定全文はこちら⬇︎
【決定全文】最高裁はなぜ、性別変更の生殖機能をなくす要件を「違憲」としたのか
②トランスジェンダー女性のトイレ使用制限
戸籍上の性別を変更していないことを理由に職場で女性用トイレの使用制限などをされるのは違法として、経済産業省の女性職員が国に処遇改善などを求めた訴訟の上告審の判決で、最高裁の第三小法廷(今崎幸彦裁判長)は2023年7月11日、トイレ使用制限は「違法」とする判断を示した。
裁判官5人の全員一致の意見として、使用制限を「適法」とした二審の東京高裁判決を覆した。
この裁判に関わったのは、国民審査対象の6人のうち今崎氏のみ。今崎氏は、トイレの使用制限を「違法」とした上で、次のように補足意見を述べていた。
「トランスジェンダーの人々が、社会生活の様々な場面において自認する性にふさわしい扱いを求めることは、ごく自然かつ切実な欲求であり、それをどのように実現させていくかは、今や社会全体で議論されるべき課題といってよい」と言及。
今崎氏は、この裁判から得られる教訓として、同様の問題に直面することとなった職場の施設管理者や人事担当者などには「トランスジェンダーの人々の置かれた立場に十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき責務があることが浮き彫りになった」点があると述べた。
加えて、類似する事例があった場合に「同じトイレを使用する他の職員への説明(情報提供)やその理解(納得)のないまま自由にトイレの使用を許容すべきかというと、現状でそれを無条件に受け入れるというコンセンサスが社会にあるとはいえない」と指摘。
現時点では「トランスジェンダー本人の要望・意向と他の職員の意見・反応の双方をよく聴取した上で、職場の環境維持、安全管理の観点等から最適な解決策を探っていくという以外にない」と結論付けた。
また、今回の判決は「トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない」と説明。「この問題は、機会を改めて議論されるべきである」とも付け加えた。
今崎氏の補足意見を含む判決全文はこちら⬇︎
【判決全文】最高裁はなぜ、性同一性障害職員の女性用トイレ使用制限を違法としたのか
③犯罪被害者給付金の同性パートナーへの支給
パートナーと同性であることを理由に遺族に支払われる被害者給付金を支給されなかった男性が愛知県を訴えていた裁判で、最高裁の第三小法廷(林道晴裁判長)は3月26日、原判決を破棄して、名古屋高裁で裁判をやり直すよう命じた。
最高裁は判決で、犯罪被害者等給付金法(犯給法)の目的に照らして、事実婚と同様の実態があった同性カップルも同法の対象に該当しうると判断した。
この裁判に関わったのは、審査対象の6人中、今崎氏のみ。今崎氏は、「上告は棄却すべき」として、判決に反対意見を述べている。
この中で「私は、同性パートナー固有の権利として、精神的損害を理由とした賠償請求権については、もとより事案によることではあるが、認める余地があると考えている」と前置きした上で、扶助義務を定めた民法752条の準用を念頭に「犯罪被害者の同性パートナーに認められる損害賠償請求権は、仮に認められるとしても異性パートナーに比べて限定されたものとなる」と主張。
「遺族給付金が損害填補の性格を有することを考えると、前提となる民事実体法上の権利との間でこのようなギャップが生じることは説明が困難と思われる」との見解を示した。
また、「犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受け、その軽減を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が異性であると否とで異なるものではない」という多数意見に対し、今崎氏は「異を唱えるつもりはない」と説明。
一方で「そのことと、犯給法の規定がそうした理念を矛盾なく取り込める造りになっているかは別問題である」とも指摘している。
同性パートナーシップに対する法的保護の在り方をめぐり、憲法解釈や社会において議論の蓄積があるとは言い難いとして、多数意見の結論は「現時点においては、先を急ぎすぎているとの印象を否めない」と結論付けた。
今崎氏の反対意見を含む判決全文はこちら⬇︎
【最高裁判決全文】同性パートナーも「犯罪被害給付金の支給を受けられる遺族」と判断した理由や背景は
国民審査とは?
総務省は国民審査について、最高裁判所の裁判官が「その職責にふさわしい者かどうかを国民が審査する解職の制度であり、国民主権の観点から重要な意義を持つもの」と説明している。
国民審査では、審査を受ける裁判官の氏名が投票用紙に印刷されている。裁判官ごとに、辞めさせたい意思があれば「×」を記載、なければ何も記載せずに投票。「×」以外を記載した投票は、無効になる。
「×」が記載された票が、何も記載されていない票の票数を超えた場合、その裁判官は罷免される。(ただし、投票総数が選挙人名簿登録者数の100分の1に達しないときは、この限りではない)。
Source: HuffPost