10.09
<北朝鮮内部>中国から送還された脱北者に5~10年の重刑 家族も連座して追放 コロナ後に厳罰化
コロナパンデミックの収まりを受けて、2023年8月から朝中間の人的往来が再開されたが、同時に中国は逮捕した脱北者の強制送還も始めている。北朝鮮北部地域に住む2人の取材協力者が調べたところ、北朝鮮当局は被送還者に重罰を科していることが分かった。(石丸次郎/カン・ジウォン)
◆かつては送還されても刑期1~2年だったが
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)市に住む取材協力者A氏によれば、パンデミック以降に会寧に移送されてきた脱北者は、ほとんどが鴨緑江下流の新義州(シニジュ)に強制送還された人たちだという。会寧にも通称口があるのだが、北朝鮮当局が防疫を理由に入国を認めていたないためだと考えられる。
A氏によれば、中国から送還されてきた場所で最初の調査が行われ、元の居住地に移送された後、保衛局(秘密警察)の取り調べを経て保安署(警察署) に送られる。かつては概ね「労働鍛錬隊」に収容されるのが普通だった。
ただ、韓国や日本への逃亡を図ったと見なされると政治犯として扱われる可能性が高い。また人身売買業に関わっていたり、中国からの送還が2回目以上の場合は、1~2年程度の教化刑(懲役刑)を受けるのが「相場」だったという。
※労働鍛錬隊とは、社会秩序を乱したと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のこと。全国の市・郡にあり警察が管理する。
◆少なくとも懲役5年か コロナ後に厳罰化
ところがA氏は、パンデミック以降は重刑に処されるようになったとして、次のように説明する。
「最近は中国から送還されてきた人は刑期が5年以上になっているようだ。私の知人の娘が8月に中国で捕まって送還されてきた。10代の時に行方が分からなくなり死んだと思われていたが、中国に逃げて子供を2人産んで暮らしていた。彼女は5年の教化刑になったと聞いた」
また、A氏によると、中国から送還されてきても家族に知らせず、教化所に収監された後に通知するケースが多いという。ただ、「送還されてきた脱北者が管理所(政治犯収容所)に入れられたという話は聞いたことがない」という。
両江道(リャンガンド)に住む取材協力者B氏も、最近強制送還されてきた脱北者が教化5~10年の重刑を科されていると伝えてきた。
「少なくとも教化5年の判決を受けいると思う。ほとんどは7~10年だ。なぜ中国に行ったのか、中国でどんな境遇だったのか、子どもはいたのか、何の仕事をしていたのかなどによって、刑期に1~3年ほど差が出るようだ」
脱北した理由が貧困の場合や、中国で監禁されていたなど不遇のケースは、情状酌量の余地があるとのことだ。
「知り合いの娘で、去年中国から送還されてきた女性がいる。20代で中国に売られて行って子供が二人産んで今は30代。この女性は教化7年の刑期を受けて、全巨里(チョンゴリ)教化所(咸鏡北道にある12号教化所)に送られた後に、安全局から家族に通知があり面会に行って来たそうだ。教化所の中では『農産班』で働いているが、中国や教化所の外のことを話しただけで処罰を受けるので、一言もまともに話せないそうだ」
◆残された家族は連座して追放
中国に逃亡した人については、北朝鮮当局は、証拠がないがきり行方不明者として扱わざるを得なかった。残された家族の中には、韓国や中国から地下送金を受ける場合が少なくないが、家族は監視対象となることはあっても、連座して処罰を受けるようなことはほとんどなかった。
ところがバンデミック以降は、逃亡を疑われただけで処罰を受けるようになったという。B氏は次のように言う。
「今では、行方が分からなくなって、中国に逃亡したのではと疑われただけで、容赦なく家族を追放するようになった。両江道では、雲興(ウンフン)、三水(サムス)、白岩(ペクアム)の方に送っているそうだ。中国に逃げるのは、もう家族が犠牲になることを覚悟しなければできなくなった」
※追放は、拘留ではなく山間僻地の農村に強制移住させる形で行われる。
◆「子供が逃げても申告せよ」と住民に通告
仮に家族が中国への逃亡を知らなかったとしても通用しないという。B氏によれば、人民班会議に、安全員(警察官)が度々来て、中国への逃亡を申告しなかったり隠したりした場合も処罰を受けると警告し、自分の子供であっても、少しでも逃亡の疑いがあれば申告せよ通知したという。
また、中国は監視カメラと顔認識技術が発達したので、身分証がなければ移動もままならず、すぐ捕まると、当局が頻繁に宣伝しているという。
「中国側に助けてくれる人がいなければ、越境するなんて考えられなくなった」とB氏は嘆いた。
※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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Source: アジアプレス・ネットワーク