2024
09.25

神宮外苑再開発「いちょうが枯死する危険がある」事業者も見直し案の調査で認める

国際ニュースまとめ

日本イコモス国内委員会は9月24日、東京・明治神宮外苑の再開発事業者が提出した「見直し案」には問題があるとして、厳格な審査や公開説明会などを求める要望書を東京都に提出した。
日本イコモスが指摘した問題の一つが、いちょうの衰退に対する対策不足だ。
事業者は東京都に提出した評価書で、4列いちょう並木のすべての樹木の活力度を「健全」と記載していたが、新たに提出された見直し案では「一部のいちょうが枯死しかねないダメージを受けている」という報告が含まれていた。
しかし、見直し案には衰退原因の一つとみられている「熱」からいちょうを守るための対策は含まれていなかった。
日本イコモスは「現在の見直し案では神宮外苑の緑や利用者の安全は守れない」として、今後行われる都の環境影響評価審議会へのイコモス委員の出席や、同審議会での厳格な審査、都市計画審議会での再審査を求めている。
東京都庁で9月24日に記者会見し、事業者が提出した見直し案の問題を指摘した日本イコモス国内委員会の石川幹子氏東京都庁で9月24日に記者会見し、事業者が提出した見直し案の問題を指摘した日本イコモス国内委員会の石川幹子氏

「いつ上部枯死に至っても不思議ではない」

日本イコモスは、2022年から一部のいちょうで衰退が見られると指摘してきた。同年12月には調査報告書を発表して、いちょうの中には、活力度が 「D評価(著しく枯損)」のものもあると訴え、対策を求めた。
しかし事業者は2023年1月、すべてのいちょうの活力度を「A評価(健全)」とした環境影響評価書を東京都に提出。都は2023年2月に、この再開発計画を認可した。
日本イコモスはその後も、この問題を含めて「評価書では数多くの虚偽の報告や資料の提出が行われている」と訴えたものの、都の環境影響評価審議会も2023年5月、「予測評価に変更が生じるような誤りや虚偽はないことが確認されたと思う」と結論づけて、審議を終了させた
しかし事業者が今回見直し案に含めた外部企業による調査報告書では、一部のいちょうが「衰弱傾向にある」と判断され、D評価がつけられた。イコモスの主張の正しさが事業者側の調査でも裏付けられた形だ。
特に、イコモスが2022年から問題を指摘してきたハンバーガーショップ「シェイクシャック」前のいちょうについて「いつ上部枯死に至っても不思議ではない」としている。
日本イコモス国内委員会の石川幹子氏は 、「事業者は2023年1月に提出した評価書でイチョウはすベて健全だとし、それが東京都に受理され、計画が認可されました。ところが今回事業者が提出した資料で、イチョウが枯死寸前だというレポートが出されました」と記者会見で述べた。
「事業者が自らがいちょうが弱っているのを認め、『健全』という評価が間違いだったということが証明されたことになります」
石川氏は、評価書に記載された誤った情報が都の環境影響評価審議会で見逃された理由についても考える必要があると述べた。
日本イコモス国内委員会の2022年11月の調査で、枯れが確認され、活力度「D」と評価されたいちょう日本イコモス国内委員会の2022年11月の調査で、枯れが確認され、活力度「D」と評価されたいちょう

高層ビルの熱がダメージを与える可能性

なぜいちょうは衰退しているのか。複数の原因が考えられるが、石川氏が指摘する一つが、気候変動がもたらした高温によるダメージだ。

「近年、地球温暖化で猛暑日が増加しており、いちょうに影響を与えていると思います」

事業者の報告書でも、ヒートアイランド現象がいちょう衰弱の原因の可能性の一つとして挙げられている。

都市の気温が高くなるヒートアイランド現象は、舗装の拡大や中高層の建物の増加、そうやって造られたビルなどからの人工排熱が増えていることが原因と考えられている。

神宮外苑の再開発では、ホテルや高さ190メートル、185メートルの高層ビルなどを建築する計画になっており、石川氏は「巨大な熱源となったビルからの風がいちょうに悪影響を及ぼす可能性もある」と懸念を示す。
一方、事業者は今回の見直し案で野球場を約10メートル後退(セットバック)させて根を守るという案を示したものの、暑さ対策は含まれていない。
石川氏は高層ビルなどによる熱環境の変化をシミュレーションしなければ、いちょう並木のサステナビリティを検証できないと述べた。
石川氏は新国立競技場の建設前に、学術会議のメンバーの一人として、周囲の熱環境がどう変わるかを海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ-「地球シミュレータ」を使って分析した。
「根を守るだけでは不十分です。 熱やビル風、日照の悪化、野球場の地下に打ち込む杭など、開発でどのような影響が生じるかについて、基本的な検証がなされていません。ホテルや超高層ビルが出現した場合、どうなるかというシミュレーションが必須です」
著しい枯損が確認されたシェイクシャック前のいちょう(左側)=2024年9月8日撮影著しい枯損が確認されたシェイクシャック前のいちょう(左側)=2024年9月8日撮影
イコモスは他にも、神宮外苑で歴史的に重要な樹木であるヒトツバタゴの保全計画が十分に行われていない点など、再開発事業者の見直し案について複数の問題点を指摘している。
東京都は今後、事業者から見直し案を反映した「事後調査報告書」を受け取り、環境影響評価審議会で審議する予定だ。
日本イコモスは、環境影響審議会に出席して、意見を述べさせてほしいと求めている。
この要望に対し、都の環境局の担当者は「環境アセスは条例で手続きが定められ、やり方が決まっている。基本的にはその条例に沿って手続きを進める」とハフポスト日本版の取材に述べ、日本イコモス委員の出席の可否について明言を避けた。
神宮外苑再開発について、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は2024年5月、広く市民や専門家、関係者の意見を募る「パブリック協議」が不十分だと指摘した。
日本イコモスの岡田保良委員長は、国連人権理事会が求めるパブリック協議を実現するためにも「今回の事業者の報告が、いかに不十分で不適切かについて、事業者や東京都に問う機会を設けてほしい」と記者会見で語った。
「東京都や事業者、私どものような専門家の集団、市民の方々と、できれば(神宮外苑)現地で事業の見直しに関する説明をして、私たちの意見も聞いていただきたい」
神宮外苑のいちょう並木については、市民団体からも名勝に指定して確実に保全するよう求める声が上がっている。

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Source: HuffPost