09.10
自分を信じ続けるって難しい。体や心を壊す時もあった『i☆Ris』の芹澤優さんが辿り着いた「自分が1番」の形
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ありのまま、自分らしくーー。
きっと多くの人が共感し、そして日々、その難しさを感じている生き方だ。特に、常に笑顔でメンバー同士の仲が良いといった「アイドルらしさ」や、大衆に受け入れられる「個性」が求められる「女性アイドル」は、それを貫くハードルがなおさら高いと言えるだろう。
そんな中で、2012年にデビューした声優アイドルユニット『i☆Ris』(アイリス)は、「自分らしく」という言葉を、体現してきたグループだ。
メンバー同士の「仲がとても良いわけではない」等身大の関係性をオープンにしたり、番組で嫌な仕事を求められた時、はっきり嫌だと言うメンバーがいたりという姿も見せてきた。
メンバーの芹澤優(せりざわ・ゆう)さんも、「自分が大好き」な部分や、売れたいという思いなど、多くのアイドルが隠しそうな「リアル」で我が強い部分も前面に出してきた。
そんな芹澤さんの合言葉は「Seriko is No.1」。大切にするのは「自分を信じることが最強」という生き方だ。端的に言うと「自分が一番」。どんな意味で使ってきたのだろうか。
ドキュメンタリー映画『Live & Documentary Movie 〜i☆Ris on STAGE〜』の公開(9月13日)を前に、「自信が揺らぎ、体や心を壊した時期もあった」と語る芹澤さんに、心から「自分を信じることが最強」だと思えるようになるまでの過程を聞いた。
見えてきたのは、私たちの近くにもきっといる「ある存在」との向き合い方、その大切さだった。
*全2回。9月14日掲載予定の後編は、メンバーの茜屋日海夏さんに、映画のネタバレも含めて、「自信が持てない自分」との向き合い方について聞いた。
◆最初の「自分が一番」は、まわりを傷つけていた
「Seriko is No.1」という言葉は、どんな経緯で生まれたのか。芹澤さんは、「(日本最大級のアイドルイベント)『TOKYO IDOL FESTIVAL』のイベントで『フリップ芸』を求められて、とっさに思いついたものでした」と振り返る。
「MCだった『AKB48』元メンバーの指原莉乃さんがいじってくださったんですよ。嬉しくて、インスタグラムのIDにしたりライブで使ったりする中で、定着していきました」
ファンからは、月日が経つ中で、「優ちゃんの考え方の変化とともに、『Seriko is No.1』という言葉の意味が、少しずつ変わってきたように感じる」という声もある。
芹澤さんは「最初は、自分は無敵だと思っていて、『誰にも負けない!』、文字通り『私が一番!』という意味で使っていました」と振り返る。
実際、「私以外、(i☆Risの)オーディションに受かる意味がわからなかった」と語るインタビューが残っている。結成当初は集合写真を撮る際、「優がセンターが良い」と言って、メンバーの空気を凍らせたというエピソードもある。
だが10周年ライブでは、MCでメンバーの若井友希さんに「君がいないと、i☆Risから逃げていたかもしれない。こんなに良い子、見たことない」、同じくメンバーの久保田未夢さんには「尊敬しています。根性が怖いくらいあります」など、メンバーそれぞれの好きなところを伝える場面があった。
最近ではラジオやYouTubeなどで、「なんだかんだ優ちゃんはi☆Ris愛が強い」といじられ「そ、そんなことないし…!」などと照れ隠しするのが、お決まりの一つになっている。
この変化には、どんな背景があるのだろうか。1つは、「メンバーと活動していく中で、井の中の蛙だと気づいたから」だという。
中でもパフォーマンスの中心として、競い合ってきた茜屋さんに、10周年ライブで伝えたのは「(歌もダンスも)優が一番うまいと思っていたのにそうでもないと確信したのは君がいたからだ」という思いだった。そして自信が持てない茜屋さんに「もっと好きになれ自分を!」と背中を押した。
茜屋さんも、「芹澤には負けたくなかった」と本音を明かす。「たまたまコンビニで初めて会った瞬間、『この子も合格者だ!』と分かるくらい、オーラがあって。レッスンでも歌やダンスがうまい、努力家だからこそ刺激を受けました」と振り返る。
芹澤さんは「メンバーと競い合う中で、ひとりひとりに、良いなって思う部分が出てきて。もちろん私を推してほしいのですが(笑)、他のメンバーも推せるなって」とほほ笑む。
メンバーに敬意を持てるようになったからこそ、次第に丸くなっていった芹澤さん。
もう1つ、メンバー同士の関係性がうまくいかない時期もあったが、「メンバーが徐々に受け入れてくれたことも大きい」と振り返る。
中でも、目標としていた武道館ライブ(2016年)で、リーダーの山北早紀さんが「優ちゃん、i☆Risでいてくれてありがとう」と言ってくれたことは大きかった。「さきさまがやるなら(自分も)ずっとやるからね」と思ったという。
「ひどいことを言ってきたのに、みんなありがとうって、強く思っています」
◆自分を信じられない時期から生まれた歌詞「無理すんな」
まわりが見えるようになることは、自分の至らなさに気づくことも意味する。活動中期は自信が持てなくなり、「Seriko is No.1」という言葉を、「自分が一番だよ」と己に言い聞かせたり、鼓舞したりする意味で使うこともあったと振り返る。
リーダーの山北さんが作詞したメンバー5人の紹介ソング「5STAR☆(仮)」(2021年)にはこのような歌詞がある。
芹澤さん:「Seriko is No.1」
他4人:「無理すんな」
芹澤さん:「む、むりしてないし!」
SNSなどでは弱音を吐かないことを信条としている芹澤さんだが、当時は「大丈夫かな?」と勘づくファンもいた。
芹澤さんは「ほんと必死で、無理すんな!って感じだったと思います(笑)」と振り返る。
そんな時期の支えになったのは、長きにわたり「好き」だと伝えてくれたファンの存在だ。陰での努力や不器用なところなど、「完璧でない」部分も含めて好きだと言ってくれた。
だから、「最近はどんな瞬間の自分も愛おしく感じられるようになったんです」。
「ファンが好きだと言ってくれる私を、私が愛せていないと、ファンと意見が違うことになっちゃうじゃないですか。 みんなと同じ気持ちでいたいという思いも、自分を好きだという気持ちを加速させてくれるんです」
自分を信じきれない時期を乗り越えた今、芹澤さんは「Seriko is No.1」という言葉を、どんな意味で使っているのだろうか。
「私に興味がない人もいると思うけれど、私の中では芹澤優ちゃんが1番なんですわ!という気持ちです」と、笑顔で返ってきた。
月日がたち、「自分を信じることが最強」という思いと、「Seriko is No.1」という言葉がシンクロしたという芹澤さん。「自分を信じることが最強」を体現する姿に「救われた」と語る人もいる。
芹澤さんは「ファンに教えを説きたいというのはないのですが…」と前置きし、こう語る。
「自分を信じるって最強だなって、12年を通して改めて思ったんです。だから私を好きになってくれたファンも、私の背中を見て、自分のことを好きになってくれたら嬉しいな!」
◆自分と「ある存在」からの言葉を信じてほしい
「自分を信じることが最強」、そして「自分らしく」ーー。
この言葉に憧れたり、共感したりする人はきっと多いだろう。だが時に、とても難しい。
特にアイドルという仕事は、SNSのフォロワー数など、「数字」も求められる厳しい世界だ。好きになってもらうために、目を引くような趣味や特技を作ったり、清楚なキャラを演じたりする人も少なくない。
そんな中でなぜ芹澤さんは、王道ではない、「自分のことが大好きな自分」を包み隠さないのだろうか。
「誰かの好みに合わせて、評価を高めるための行動って、絶対にしんどいし、疲れちゃうと思うんです」
「一般受けする『好き』に寄せにいくのではなく、自分で良いと思えるものを表現する。私たちがそっちにいくのではなく、『みんながこっちに来て!』という思いでやっています!」
芹澤さんはラジオやYouTubeなどで「売れたい!」という思いも正直に語ってきた。それは、「私たちが素敵だと思うから。もっともっともっともっとみんなに注目されて良いはずだ!って思っているから」だ。
「どんなイベントに行っても、i☆Risのパフォーマンスがやっぱり1番だって思うんですよ!」
こう思えたのはやはり12年間、ファンからたくさんの「好き」をもらえたからだ。今は心から「自分を信じることが最強」「Seriko is No.1」と思えるようになった。
自分に対する「好き」という気持ちに支えられた芹澤さんは、感謝と同時にもう一つ、みんなに伝えたいことがある。
「みんなが私のことを好きでいてくれるように、みんなの周りにもあなたを好きでいてくれる人がいると思うんです。そんな、自分に向けられた『好き』を大切にしてほしい。自分を、というのはもちろん、それを信じることも、すごく素敵なことだと思うんです!」
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉
Source: HuffPost