2021
09.10

「レオ様」激似の顔を持つ男…その数奇な運命と、たどり着いた境地

国際ニュースまとめ

<行く先々でうり二つと言われてウンザリもしたが、ファンが喜ぶ顔を見て今の仕事を続けることに> 「似ている、そっくりだ」と言われだしたのは『ギルバート・グレイプ』が全米公開された1993年頃からだ。自分でも映画を見に行って、「確かに」と思った。 以来、レオナルド・ディカプリオがスターダムを駆け上がるにつれ、会う人たちに言われるようになった。「うり二つだ、他人とは思えない」 ディカプリオ主演の『タイタニック』が大ヒットすると、事態はさらにエスカレートした。当時私は20代初め。サンフランシスコに住んでいたが、街を歩いていると観光客がぞろぞろついて来たり、仲間と行ったバーで知らない人たちにじろじろ見られたりした。 俳優を目指して2003年にロサンゼルスに拠点を移し、オーディションを受け始めた。映画やTVドラマのチョイ役にありつけたが、どこに行っても「レオ様似」と言われる。自分としては当惑するばかりだった。ディカプリオに似た容姿ではなく、自分という人間を見てほしかった。 転機は映画『最終絶叫計画5』 12年のこと。勧められるままにパロディー満載の映画『最終絶叫計画5』のオーディションを受け、その一場面でディカプリオを演じることになった。それまでディカプリオの物まねをする気はさらさらなかったが、彼になり切るために特訓を受けることに……。 服装や髪形、メークも似せて、彼のボイストレーナーの指導まで受けた。この仕事は最高に楽しかった。 これがきっかけで、ディカプリオのそっくりさんとしてイベントなどに出てほしいという依頼が次々に舞い込むようになった。やってみると、この手の仕事はなかなかやりがいがあり、面白かった。しかも、次にどんな依頼が舞い込んでくるか予想もつかない。 17年には現代アートフェア「フリーズ・ニューヨーク」でのパフォーマンス作品に出演した。映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の一場面を再現する試みだ。 私はディカプリオが演じたやり手証券ブローカーのジョーダン・ベルフォートに扮して会場で待機している。 そして、いきなりマイクを手にし、映画の中でベルフォートが自社のトレーダーたちを奮起させるためにぶった演説を始める。通り掛かった来場者たちは最初何が始まったか分からずポカンとしているが、やがて映画のあのシーンだと気付いて演説に聞き入る。 そのうちに大勢の人だかりができて、見物人がみんな映画の中のトレーダーになり切り、演説が終わると、ベルフォートの熱弁に心動かされたとばかり拍手喝采してくれる。 来場者を巻き込んで映画の名場面を即興で再現するというシュールな試みで、実に面白かった。 ===== 空港で日本人女性に囲まれて ディカプリオはカリフォルニア州パームスプリングスに広壮な邸宅を構えている。彼がそこで過ごすのはおそらく年に数週間程度。残りの時期は管理会社が企業や個人に貸している。希望があれば、私が呼ばれ、ディカプリオなり、彼が映画『華麗なるギャツビー』で演じたジェイ・ギャツビーに扮して滞在客を迎え、敷地内を案内する。 そっくりさんと分かっていても、レオ様に会った気分になるだけで、お客はとても興奮する。私はディカプリオになり切って誠実な対応を心掛ける。女性たちは私を質問攻めにし、私と並んで自撮り写真に収まり、「レオ様に夢中なの」「レオ様は初恋の相手」などと熱っぽく語り掛ける。 もっとも、彼女たちは節度を心得ている。「ごめんなさい。私には妻がいるので」などと断わらざるを得ないような厄介事はまず起きない。 あるとき休暇旅行でイスタンブール空港にいたら日本人のツアー客に囲まれ、女性たちにサインをねだられた。本物ではないと説明したが、言葉が通じないらしく諦めてくれない。やむなく自分の名前をサインして回り、そそくさとその場を後にした。 ディカプリオ本人に会ったことはないが、彼と仕事をした人には大勢会ってきた。10年以上彼のスタントを務めてきた男性によると、とてもいい奴で、冗談もよく言うし、浮ついたところは皆無だという。彼を知る人はみんなそう口をそろえる。そんな評判を聞くと、私もうれしくなる。 今より若かった頃は、自分が「ディカプリオのそっくりさん」で通っていることに今より抵抗があった。誰だって他人の似姿ではなく、自分自身を見てほしいと思うものだ。それでも、そっくりさんの仕事をするうちにそこは割り切れるようになった。 「苦痛の種」に今では感謝 イベントに行くと、誰もがとびきりの笑顔を見せたり、頰を赤らめたり、時には涙ぐみながら私に近づいてくる。映画を通じて、ディカプリオがどれほど深くファンの心を動かしたか、改めて気付かされる。大好きなスターに会えた気分になってうれしそうにしている人たちを見ると、こっちまでうれしくなる。 そんな経験を積むうちにベン・コーニッシュとして見られなくてもいい、みんなに喜んでもらえるなら満足だ、と思うようになった。 『最終絶叫計画5』の撮影でプロデューサーのデービッド・ザッカーと親しくなった。撮影が終わる頃、彼はこう言ってくれた。「ベン、君に最初に会ったときはレオそのものだと思ったよ。うり二つで度肝を抜かれた。だけど3週間付き合ってみて、今じゃ君はベン以外の何者でもない」 最高にうれしい言葉だった。 そんなわけで今では「レオ様に激似」の自分をまずまず受け入れている。おかげで信じられないほどぶっ飛んだ面白い経験もできた。それも全てこのビジュアルのたまもの。とても感謝している。 ===== <【写真】ディカプリオ主演作の名シーンを再現するコーニッシュ> ディカプリオ主演の映画を再現するコーニッシュ。人に喜んでもらえるなら満足 BEN CORNISH

Source:Newsweek
「レオ様」激似の顔を持つ男…その数奇な運命と、たどり着いた境地