07.16
育児・介護休業取得の職場に“マンパワー”を供給。あいおいニッセイが「みなチャレ」を始動、カギは障害者雇用社員
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育児休業や介護休業を気兼ねなくとってほしい。同時に、今いる社員の活躍の場を広げたいーー。
損害保険大手「あいおいニッセイ同和損害保険」(東京)は、ワークライフマネジメントと障害者雇用社員の活躍推進を同時に行う「みなチャレ」を4月から始めた。
育児や介護休業で誰かが抜けた職場の業務を障害者雇用社員が一部代替する取り組みで、職場の負担軽減につながることが期待されている。
これまでは誰かが抜けたとしても、「お互い様」精神で乗り越えてきた企業が多かったが、近年は育休を取得する人の増加に伴い、抜けた分の業務負担が同僚に押し寄せるという問題が顕在化し始めた。
このような不公平感から、SNSでは育児中の社員らを揶揄するネットスラング「子持ち様」という言葉も生まれており、各社は働き方改革の「次」の課題として様々な対応策を練っている。
「事務サポートセンター」を社内に置き、そこから“マンパワー“を供給するというあいおいニッセイ同和損保の取り組み。どのような経緯で始まり、どれくらいの効果を生んでいるのだろうか。
みなチャレとは?始まった経緯は?
みなチャレは、1カ月以上の育児休業や介護休業が出た職場の一部業務を、障害者雇用社員で構成する「事務サポートセンター」が代替する取り組み。
これまでは誰かが抜けた分の業務を残った同僚たちがカバーしていたが、みなチャレによってマンパワーが供給されるため、職場の負担軽減につながると期待されている。
また、代替してもらう業務をピックアップするにあたり、仕事の“棚卸し”もセットで行うため、属人化した業務の見直しなどを進めることもできる。
では、みなチャレはどのような経緯で始まったのか。
人事部ダイバーシティ推進室課長補佐の宮岸安弥子さんによると、制度を始めたきっかけは管理職や育休取得者へのヒヤリングだった。
「男性社員も長期で育休を取得することが増えたため、管理職や育休当事者にどのような支援があれば望ましいか聞いたところ、『抜けた分の人手がほしい』『同僚に業務のしわ寄せがいかないか不安』といった声が多く聞かれた」
このような声に応えようと思いを巡らせた結果、「依頼した仕事に正確に取り組んでもらえる障害者雇用社員が頭に浮かんだ」という。
宮岸さん自身も営業担当時代に障害者雇用社員と仕事をしたことがあり、「事務作業の早さや正確さが素晴らしかった。さらに可能性を広げられれば」と思っていた。
そして、「みんながチャレンジしよう」「みんなで生産性のある働き方や両立を考えてみよう」という思いを名前に込め、みなチャレを具体化していったという。
カギは障害者雇用社員
みなチャレの“カギ”となる障害者雇用社員は、東京(2カ所)と大阪、名古屋の計4カ所に設置されている事務サポートセンターに在籍している。
普段は約40人の社員が近隣部署の事務作業を請け負っているが、なかにはWordやExcelなどの利用スキルを証明する国際資格「MOS(エキスパート)」を有する社員もおり、社内でも「仕事が正確で早い」「依頼した仕事に付加価値がついている」と評判だ。
今回、事務サポートセンターがみなチャレで請け負う業務は、データの集約・加工や募集契約事務・保険金支払に関する点検業務など、障害者雇用社員がリモートで完結できる業務。
担当の社員がみなチャレの依頼先と打ち合わせを行い、代替業務の優先順位をつけてもらった上で障害者雇用社員に仕事を割り振っていく。
人事部ダイバーシティ推進室推進役で、障害者雇用の統括責任者である小谷彰彦さんは、「活躍の場が広がることで『会社の一翼を担っている』という意識が生まれ、モチベーションの向上につながっている。元々素晴らしい仕事をしてくれているが、さらに可能性を広げてほしい」と話した。
「現場任せの『お互い様』にならないようにサポートしたい」
みなチャレには2024年6月時点で4職場がエントリーしており、うち2職場で既にサポートが始まっている。
そのうちの一つが、「横浜支店企業営業課」だ。
同課は17人の職場で、3月中旬から男性社員が1年間の育休に入った。現在、この男性社員を含め、3人が産休・育休、1人が時短勤務となっており、職場のマンパワー不足をどう解消するかが課題だった。
同課課長補佐の越智千景さんは、みなチャレにエントリーした経緯について、「人事部からみなチャレの話が回ってきた時、ぜひ手を挙げようと思った」と話す。
越智さんは大阪に赴任していた時代、事務サポートセンターと仕事をする機会が度々あり、業務上で大きな支えになっていたという。
「(所属部署が入る)ビル全体が助かっていたと言っても過言ではないほど、みんなが頼っていた。マンパワーの補充はとても大きく、横浜でも必ず力になってくれると思った」
職場からも異論は出ず、4月から事務サポートセンターとの打ち合わせ、仕事の棚卸し、依頼する業務のリストアップを進めた。
実際に業務の代替が始まったのは5月。データの取得など15の仕事を依頼したが、既に3分の2ほどの業務が締め切りまでに返ってきたという。
同課課長の高木耕作さんは、「企業営業課という特性かもしれないが、営業社員は外回りをしながら1日の半分ほどはデータの処理などの事務仕事に追われている。これらの一部を請け負ってくれるため、従業員の不安や負担の軽減につながっている」と評価した。
また、介護休業についても触れ、「将来、私も介護休業を取得する日が来るかもしれない。みなチャレがあれば休業することへの精神的な不安を少しでも減らすことができる」と語った。
同社の男性育休取得率は、2023年度末時点で97.3%、平均期間は約2週間だが、最近は「1カ月は取得したい」という男性社員も増えている。
障害者雇用社員の活躍推進も同時に進めており、25年度末に雇用率を2.7%以上にすることを目標としている。
人事部ダイバーシティ推進室推進役の小谷さんは、「これまで以上に業務を請け負うようになったが、事務サポートセンター側がオーバーフロウしないように調整している」とし、「現場任せの『お互い様』にならないようにサポートし、みんなが安心して働ける風土を作っていきたい」と話した。
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あいおいニッセイ同和損保は、子どものいない社員が育児中の社員になりきり、仕事中に突然舞い込んでくる早退・休暇要請を体験する「なりきりプロジェクト」という取り組みも実施している。
育児中の社員は、子どもの体調不良で早退したり、急に休んだりすることが必ずといっていいほどあるが、なりきりプロジェクトを通して仕事と育児などを両立できる雰囲気を職場でつくっていくことを目的としている。
また、誰かが抜けたら回らない職場運営は適切と言えるのか、生産性があるのか、といったことを考えてもらう狙いもある。
1回目は2023年9〜10月に開かれ、参加者からは「仕事と何かの両立に対する理解の促進に効果的だった」や「属人化の解消やマニュアル化の推進など、業務の見直しを考える機会になった」といった声が聞かれた。
同社はこのプロジェクトも引き続き続けていく予定で、担当者は管理職にも体験してもらうことを考えている。
Source: HuffPost