06.17
「声を出せないカフェ」に人が集まるわけ。新しいコンセプトで働きかたの未来を作る方法とは。
ノスタルジックな街並みが広がる大阪・中崎町にカフェ「清浄(しょうじょう)」がオープンした。特徴的なのは、基本的に声での会話は禁止で、注文などのやり取りも筆談や指差し、手話を使ったコミュニケーションが行われていることだ。
静浄は、抹茶や季節の和菓子を提供する和風のカフェだ。
シャカシャカとお茶を立てる音が心地よく、足音や雨音など、普段かき消されている音が主役となって、リラックスした時間を過ごすことができる。
このカフェのもうひとつの主役は働いているスタッフ。
明るく笑顔で接客し、「体験」メニューでは、お茶のたて方を丁寧に身振り手振りで伝えてくれるほか、希望があれば手話も教えてくれる。
実はここのスタッフは、耳の聞こえない・聞こえづらい、大きな音が苦手といったような特徴を持っている。しかし、訪れる人にとって、言葉以外のコミュニケーションを取ることとなるため、耳が聞こえないことなどが障害にならない、といった感覚を体験できる場となっているのだ。
カフェ「清浄」を手掛けたのは「障害のない場所づくり」を目指す一般社団法人Possibleの松本はるなさんだ。
「自分の人生に対して青天井の可能性を持って欲しい」 障害のない場所づくり
「障害を理由に働くことができていない人はたくさんいると思うんですけど、環境次第でみんなが楽しく働ける場所をつくることができます。」
「清浄」を開くきっかけは、大学の卒業旅行で行ったベトナムのカフェでの体験だ。たまたま入ったそのカフェは、聴覚障害者が働いていて、「私達は耳が聞こえないので筆談か手話で会話してください」というメモを渡された。
松本さんは指差しでコーヒーを注文し、静かな環境だったため、一緒に行った友人ともつい口パクでの会話になっていた。その時、ふと「障害って何だろう?」と思ったそうだ。
音を取り除いたカフェにおいては、耳が聞こえないなどの障害をなくせることに気づいたという。また、スタッフが楽しそうに生き生きと働いてるのも印象的だった。
ベトナムで体験したカフェを日本で開きたいと思ったが、すぐに起業して経営するのは難しいと感じ、大学卒業後はボディケア商品などを手掛けるメーカーへ就職し、ブランドの宣伝責任者などの経験を積んでいた。
2023年、障害者の就労支援を手がける人との出会いをきっかけに「障害を理由に働けていない人に、楽しく働ける場所を提供したい」と再び思い一般社団法人Possibleを立ち上げた。
Possibleは、SNS運用代行をメインの事業として、動画の台本づくりや編集、クリエイティブの制作を行っている。メンバーは、会社でパワハラにあったり、耳が聞こえないことで職場で孤立してしまったりするなど、一度社会に出てしんどくなった経験を持つ人が多い。
例えば高次脳機能障害で手を動かすのが苦手なスタッフが、音声入力で台本を作ったり、車椅子のスタッフが動画を編集したり。Possibleは個人の得意を活かしたキャリア形成ができる場所となっている。
「社会の役に立たないと思っていた人も、ここに来たら仕事をできるとか、できることを増やしていくことで、自分の人生に青天井の可能性を持てるようになってもらいたいです。」
障害をなくす環境づくりが、誰でも楽しく働ける社会をつくる
SNS運用代行以外でも「障害がない場所をつくる」という目的でオープンしたのが「清浄」だ。現在は16人のスタッフが働いているが、聴覚障害を持つ人達などから働きたいという声が絶えないという。
接客したいと思っていても、聴覚障害者が面接で落とされるケースがある中で、このカフェは多様な特徴と個性を持つ人が、当たり前に活躍できる場となっている。今後は、全席車椅子対応のカフェなど、「障害がない場所」を増やしていく計画だ。
「20人に1人、100人に1人でも、障害のある人とコミュニケーションをした結果、『何の障害もなかったな』って思ってくれたら嬉しい。でも何より私は、スタッフがみんな楽しく働くことが一番だと思って、様々な事業を手がけていきたいと思っています」
清浄 -shojo-
住所:大阪府大阪市北区中崎西1-10-13 1F
営業時間:月~日/11時~18時
Instagram:https://www.instagram.com/shojo_cafe
Possible公式HP:https://abpossible.com
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Source: HuffPost