2024
06.07
06.07
映画『関心領域』が突きつけるもの、ウクライナとパレスチナにつながる戦争と人間のありよう
◆アウシュヴィッツ収容所長の家族描いた『関心領域』
戦争と人間のありようを問う映画『関心領域』(2023年:ジョナサン・グレイザー監督)を観た。アウシュヴィッツ強制収容所の所長だったルドルフ・ヘスと、その家族を描いた作品だ。収容所に隣接するヘスの自宅と彼の家族の日常を淡々と映す形で、ストーリーは進む。
収容所に移送されてきたユダヤ人は人間ではなく「荷」であり、それをいかに効率よく処分するかがヘス所長の関心事だ。
一方、夫人ヘートヴィヒのもっぱらの関心は、子どもたちや庭に咲いた花である。収容所のユダヤ人が着ていた毛皮のコートを平然とまとう彼女は、自宅のすぐ先で殺戮が行なわれているのを知っている。いまの幸せな暮らしが、夫の地位と「功績」ゆえのものともわかっている。
◆幸せな生活のために「関心」を閉ざす妻
ヘートヴィヒは、ようやく手にした豊かな生活を守るため、家の外で起きていることへの関心を自身で徹底的に閉ざす。彼女を訪れた母は壁の先にある収容所で起きていることを悟り、耐えられずに逃げ出してしまう。それでも彼女は、ユダヤ人虐殺の上になりたっている幸福な生活を手放そうとはしない。収容所わきの暮らしのなかで歪む夫婦の心理や、子どもたちの異変も暗示的に描かれる。
虐殺されるユダヤ人の映像は出てこない。だが、壁向こうの煙突から昼夜を通して立ち上る赤い炎と黒い煙りが、ホロコーストの場であることを伝え、悲鳴や銃声の音が無数の死を表現する。映画では、夜、収容所のまわりにひそかにリンゴを置いてまわる少女の映像が挿入されている。実際に収容者のために食べ物を置いた少女がいた史実をもとにしているが、そこに暗闇のなかでもわずかに残る人間の良心の部分を見せている。
<ナチス時代の記憶を聞く> 祖父はドイツ軍兵士 伯母は少女同盟メンバーだった
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