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国歌を二つの言語で歌う国がある。多民族の文化をアートで伝える、カナダ大使館「国歌」展の見どころ【観光スポット】
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東京の都心、東京メトロ青山一丁目駅から徒歩5分。在日カナダ大使館は青山通り沿いの便利な所にある。
大使館というと、政治や外交にかかわる仕事をしているところで、簡単には入れないと思うのではないか。ところが、在日カナダ大使館には一般開放スペースがあり、一定の手続きをすればだれでも入れる。知る人ぞ知る、都心のおすすめお出かけスポットなのだ。
2024年5月下旬には、「高円宮記念ギャラリー」で、グループ展「ANTHEM(国歌)」が開催されていた(9月20日まで)。
でも、アートと国歌? どういう掛け合わせなのか。
展覧会の案内文には次のように書かれていた。
“Our home and native land” という(国歌の)一節に焦点を当て、遺産、言語、植民地主義、移民、多文化主義に思いを馳せる機会を提供します。
大使館の広報部長マット・フレーザーさんが、その背景を説明してくれた。
「カナダ人にとって、カナダとは何か、国歌がどういう意味を表しているかは、生まれた時からの問題なのです。私の祖先はイギリスから移ってきましたが、ほかにもいろいろな移民のルートがあった。そして、もともと暮らしていた先住民がいます。それぞれの文化、言葉があり、朝ごはんに何を食べるかも、家によって違うのです」
カナダでは、英語とフランス語の両方が公用語として使われている。国歌の歌詞も英語版とフランス語版があるのだという。「どちらで歌うかは、地域によって、また歌う場面によっても違います。公式行事では、1小節ごとに英語とフランス語で交互に歌うこともあります」
大使館によると、国民に広く歌われていた「オー・カナダ」が正式に国歌となったのは1980年。もともと英語の歌詞には“True patriot love in all thy sons command”というフレーズがあったが、2018年には「sons(息子たち)」を「all of us(私たちすべて)」に改め、性差をなくす法律が制定されたという。
二つの言語で歌う国歌。その内容や由来については、カナダ政府のウェブサイト「カナダ国歌」で詳しく知ることができ、歌も聴ける。
さて、展覧会には13の作品が展示されている。
The Heart in Conflict with itself(自分自身との葛藤)という題名がつけられた木版画インスタレーションがあった。カナダ北極圏を舞台にしており、「英国船の航海日誌やイヌイットの口承資料から引用した小さな物語を挿入し、新参者と先住民の異なる視点を表現している」という。
FALLEN LEAVES(落ち葉)と名付けられた作品は、さまざまな形の木の葉を並べている。作者は「幼少期から移り住んだ様々な国の大自然から集めたピースを表現している。移民である私のアイデンティティーは、これらの無数のピースで構築されている」と解説する。カナダ国旗にもメイプルリーフが描かれていることが思い浮かぶ。
Songs We Carry, Poems We Hold(私たちの歌と詩)という題のインスタレーションは、愛国心を声高に歌う「国歌」とは正反対の感性が込められているという。「それは優しい歌であり、憧れの歌であり、喜びの歌であり、同時に誇らしげな歌です。(中略)私たちには、母国の物語や祝日、故郷への愛情を守りながら、大きな社会に融合したいという願いがあります。子どもたちは、複数のアイデンティティーからなるこの豊かな道を歩んでいます」と解説されていた。
展覧会は、カナダの国、社会、コミュニティーの多様性を称える「カナダ多文化主義の日」(6月27日)に合わせて開催されているという。休館日をのぞく平日(月〜金)の午前10時〜午後5時半に観覧できる。
もともとカナダ言語博物館で開催されていた同展を解説するウェブサイト「国歌 カナダの多様なアイデンティティーを表す」もある。
観覧を終えて建物の外に出ると、赤坂御所の広大な緑を借景に、眺めのよい石の庭園「カナダ・ガーデン」が広がっていた。この屋外アートも一見の価値ありだ。くわしくは別の記事「カナダ大使館は、東京タワーも見える『映え』観光スポットだった。旅気分を味わえる庭園アートの魅力」で紹介している。
一般公開スペースへの入場は無料。ただし入館時には、公的機関が発行した顔写真付きの身分証明書(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)を提示する必要がある。
Source: HuffPost