2024
04.26

<特集>コロナ鎖国の4年間に北朝鮮で何が起こっていたか(4) 発生した飢餓 金政権は公開処刑を再開

国際ニュースまとめ

鴨緑江沿いを銃を携行して巡回する兵士。2023年10月に中国から撮影アジアプレス

◆飢えで人が死ぬ風景とは

2023年に入り、都市住民の暮らしは悪化の一途を辿った。春先から「餓え死に」という言葉が取材パートナーの報告に頻繁に上るようになった。例えば、5月中旬の両江道から以下のような文字メッセージが届いた。

「5月になって死人が大勢出ている。うちの町内では4月にも4人が亡くなったが、今にも死にそうな人が2人いる。結核、肝炎、喘息などの持病がある人たちが多かったが、皆1日1食を食べられるかどうかという世帯だ。死人が出ても、当局は絶対に飢死したとは判定しない。皆病気で死んだことにしている。食べられなくて死んだのに、なぜ病気で死んだと隠す必要があるのかと不満を言う人もいる」

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私は、北部地域に住み連絡が取れるパートナー6人に、4~7月の間に所属する人民班で死亡した人数を集計するように依頼した。ひとつの人民班の住人数は概ね60~100人ほどである。毎日顔を合わせ、集まりも頻繁にあって、居住者の消息の把握は容易だ。

死者数の回答は3~6人だった。もちろんすべて餓死だと判断できない。栄養状態が悪くて免疫力が低下しているところに感染症などを患って落命するケースが多いというのが、調査者たちの共通した見解だった。

痩せた北朝鮮兵。20年夏以降に撮影されたと見られる。「ウナビョル」収集動画より

この期間、道端で行き倒れている子供の死体が発見されたとか、絶望して幼子と服毒心中した事件が近隣であったとか、食べ物を手に入れて来ると言って家を出た夫婦が戻らず、残された老親と幼子が家から這うように出て路上で物乞いをしているなど…読むのが辛い報告が連日届いた。

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◆窮地に人民はどう対処したか

苦しい時に採る方法は、どこの国でも同じだ。

「現金が尽きたら、隣人や知人、親戚からお金や食糧を借りる。それが難しくなったら家財を質に入れたり売りに出したりする。借金取りが押しかけて、鍋釜まで奪うように取り上げていく光景が、近所でもしばしば見られる。残された手段は、盗みに走るか、女性なら売春。最後に家を売るか、自殺だ」

咸鏡北道に住むパートナーの説明だ。貯えと現金収入が尽きた人から順に「没落」していったわけだ。ただ、私たちが直接調査、情報収集できるのは、中国に近い北部の三道に限られるので、危機が全国に広がっていたのか確認は取れていない。

付言すると、国連児童基金(ユニセフ)と国連食糧農業機関(FAO)が23年7月に共同発表した報告書によると、20~22年の北朝鮮の栄養不足人口は1180万人で、総人口の45.5%を占めると推測した。これは長く内戦状態にあるソマリアに近い水準である。

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脱北者のチャン・ハンギルさんが直接見た公開裁判を再現して描いた絵。脱出した中国で2000年頃に制作。

 

◆再開された公開処刑、恵山市では4カ月間に3度執行

「国家の統制圏外で物資取引をしたり外貨を流通させたりする行為を徹底的に禁止することについて」

今年8月初旬、金正恩政権は突然、外貨使用の厳禁と物資の流通を国家の統制管理下でのみすることを命じる布告を出した。社会安全省(警察)の名義だった。当局は各地で人民班会議に出向いて布告の内容を説明し遵守を求めた。布告には、「情状が厳重な違反者は死刑に処す」と記されていた。私たちと同時期に米国の自由アジア放送(RFA)もこれを報じた(8/7付)。

布告との関連は不明だが、8月30日午後、両江道の恵山(ヘサン)市で9人の公開銃殺刑が執行された。容疑は国家財産の役牛を密かに屠畜して肉を流通させた、というものであった。私のパートナーの一人が動員されて一部始終を目撃している。彼女は次のように伝えてきた。

「この日の午前、犯罪者に対する公開批判集会を行うので恵山飛行場に集合せよという指示が当局からあり、雨が降る中を仕方なく向かうと、市内の機関、企業、人民班を通じて大勢の住民が動員されていた。ところが、その場は裁判になり、銃殺刑が執行された。9人のうち2人が女性だった」

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恵山市で3度の公開処刑が行われたのは、高台にある恵山飛行場だ。赤丸で囲った地点だ。写真上部に流れるのが鴨緑江で対岸は中国。グーグルアースに著者が加工

 

◆青年たちに最前列で処刑を見させる

同じ場所で9月25日にも公開処刑が執行された。銃殺されたのは男性一人で、戦時物資の医薬品を薬商人に横流しした罪だったという。この2件の公開処刑について、私たちはすぐに記事化したが(9/1,10/9付)、RFA(8/31、9/29付)と東京新聞(10/11付)も、ほぼ同内容の記事を出した。恵山市は鴨緑江に面する中国との国境都市であり、2社は中国の携帯電話を通じて情報を入手したものと思われる。

さらに12月19日にも同所で公開処刑が執行された。パートナーによれば、銃殺されたのは23歳の男性で、農村から穀物を運ぶ商売人の女性を石で打って殺害した強盗殺人の罪だった。彼は当日の様子を次のように説明した。

「午前中に、各職場の労働者に公開裁判に参加するよう指示があった。特に青年同盟員は無条件に参加するようにと。また、すべての人民班に対しても洞事務所を通じて無条件に参加せよと指示があった。

昼食後に、職場から隊列を組んで恵山飛行場に移動した。裁判に引き出されたのは全部で13人。皆、頭を丸刈りにされていた。裁判の間中ずっと震えている人がいた。人間があんなに震えるのは初めて見た。裁判は最前列に機関と企業の青年同盟員を立たせて進行した。

銃殺されたのは一人で、他の男女12人は殺人未遂、強盗、脱北と密輸の幇助、麻薬密輸などの罪に問われた人たちで、8~10年の教化刑(懲役)が宣告された」

※青年同盟=社会主義愛国青年同盟 高級中学の生徒、大学生から概ね30歳までの勤労青年までを組織する労働党傘下の大衆組織。

※洞事務所は町役場に該当。人民班は末端の行政機関。地区ごとに20~30世帯程で構成される。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

◆外部への露呈より恐怖を与えることを優先

住民を動員しての公開処刑があったという情報は、私はこの10数年間、一度も聞いたことがなかった。限られた関係者だけを集めた「非公開処刑」はあったようだが、多くの目撃者がいると情報が外部に漏れてしまうので、政権のイメージ悪化を危惧して公開処刑は中断していたと思われる。

8月と9月、12月に連続して、しかも中国に隣接する地域で、衆人環視の場をあえて準備して執行したのは、外部に知られることよりも住民に恐怖を与えることを優先したのだろう。国家の命令に服従しない者は容赦しないという警告だ。経済悪化に因る秩序の乱れを絶対に看視しない、そして個人の商行為を断固として統制し、「反市場」策を貫徹するという強い国家意思が見て取れる。( 続く 5 >>>

 

Source: アジアプレス・ネットワーク