08.30
330匹の猫が不審死…原因はペットフードか 重症猫は犬から輸血も 英
<今年5月ごろからイギリス各地で猫たちの衰弱と不審な死が相次いで報告が目立ちはじめ、症例は報告された数だけで520例を数えるようになった。原因として疑われているのがキャットフードだ> イギリスで5月以降、ペットとして飼われている猫たちの衰弱と不審な死が相次いで報告され、共通して特定のペットフードを食べていたことがわかった。 症状を発症した猫の多くは、「猫汎血球減少症」と診断されている。ウイルス性の感染症であり、感染すると数日の潜伏期間を経て赤血球・白血球・血小板の数が急速に減少する。初期の症状としては食欲不振や発熱などであるため、一般的な風邪と区別しづらい。重症化するにつれて目と鼻を含む体の各部からの出血や、嘔吐・下痢など消化関連の異状がみられるようになり、最悪のケースでは死に至る。 今年5月ごろからイギリス各地で報告が目立ちはじめ、症例は報告された数だけで520例を数えるようになった。獣医から報告が挙がっていないケースが大半を占めるとみられ、実際の数はこれを大幅に上回る可能性がある。報告された例のなかでは、感染した猫の6割以上が命を落としている。 原因として疑われているのがキャットフードだ。感染した猫のいる家庭から回収したキャットフードのサンプルを英食品基準庁(FSA)が分析したところ、カビが生成する毒素のマイコトキシンが検出された。 ただし、マイコトキシンが飼料や食品などから検出される事例はたびたび発生しており、ペットフードから検出されたことをもって直ちに猫汎血球減少症の原因であると断定することはできない。FSAは他の規制当局と連携して調査を続ける方針だ。 フェイスブック・グループが手がかりを発見 イギリス各地で体調を崩す猫が続出するなか、当初その原因は謎に包まれていた。究明に大きく貢献したのが、SNSを通じたオーナーたちの連携だ。 南西部ウェールズ地方に住むある女性は5月下旬、愛猫の感染を知った。その原因を突き止めたいという思いに駆られた彼女はフェイスブック上でグループを立ち上げ、猫汎血球減少症と診断を受けた猫の飼い主たちに情報提供を呼びかけた。 すると、すぐに共通の特徴が浮かび上がった。どの家庭でも、特定のペットフード・メーカー3社が販売する低アレルギー性のキャットフードを与えていたのだ。さらに調査を進めると、いずれの製品にも同じ製造コードが記載されており、ある1社の製造工場で生産されていることが判明した。 女性がロンドンの王立獣医科大学に内容を報告すると、早くも翌6月15日にはFSAが製品の回収措置を講じた。ペットフード3社による計21製品を対象とした、大規模なリコールだ。 迅速な対応の一方で、ペットフードの購入者に正しくリコール情報が伝わらないという不手際も明るみに出ている。英ガーディアン紙は、リコール対象となった販売者の1社が技術的エラーにより、広告メールを拒否している登録ユーザーにリコール情報を送信していなかったと報じている。重要な情報であるため、本来は広告受信の可否にかかわらず送信対象とすべきであった。 ===== 同社はリコール前にも、「我々としてはこの病状の原因は、当社製品によるものではないと感じている」との立場を示していた。現在100名以上の飼い主たちが法律事務所とコンタクトを取っており、同社は集団訴訟のリスクを抱えている。 ドナー不足の危機 犬からの輸血に頼る 感染により、多くの猫が輸血を必要としている。しかし、輸血ニーズの急激な高まりを前に、ドナーとなる猫とのマッチングが追いついていない状況だ。そこで獣医たちは、急場凌ぎとして犬の血液の輸血に踏み切った。英インディペンデント紙は「毒入りキャットフードの危機 輸血需要急増で獣医らは犬の血液を使用」と題し、緊急的に犬の血液が猫用に用いられていると報じた。猫用の大規模な血液バンクはイギリスに存在せず、今回のように輸血の需要が急増する局面では、他の供給源に頼らざるを得ない。 とはいえ、これはあくまでその場凌ぎに過ぎない。犬の血液を猫に使う場合は24時間ごとに再度の輸血が必要となるため、あくまで猫のドナーが見つかるまでの時間稼ぎという位置付けだ。また、猫愛護団体のトップはインディペンデント紙の取材に対し、犬からの輸血には一定のリスクが存在するが、その点が十分に認知されていないと警鐘を鳴らしている。 高額治療費に、飼い主は苦渋の決断も 飼い主たちは愛猫を救おうと必死だが、あまりに高額な医療費を前に厳しい判断を迫られている。英デイリー・メール紙によると、イギリスの20代と30代の夫婦は3月下旬、ペットの猫の「オレオ」の体調がすぐれないことに気づいた。 オレオは問題のペットフードのうち1種を食べており、猫汎血球減少症と診断されることになる。輸血が必要とされていたがイギリス国内に在庫はなく、ポルトガルから取り寄せるのに1万ポンド(約150万円)を要すると獣医に告げられた。二人は熟考の末、オレオを永い眠りに就かせることを選んだ。 また、これとは別に、ある20代の夫婦も辛い選択をしている。飼っていた猫に2回の輸血を施したが、病状に改善はみられなかった。もし治療を続けたとしても、必ずしも快方へ向かう保証はない。万一の備えにと加入していたペット保険の補償枠も使い果たし、夫婦は愛猫を安楽死させる決断をした。 辛うじて命を取り留めた例もある。中東部イースト・ヨークシャーに住む40代の夫婦は、愛猫の「パンサー」と「チーター」を連れて獣医のもとへ駆け込み、輸血と血液検査などを受けさせた。チーターは逝去したものの、輸血によってパンサーは快復したという。 この問題を調査している王立獣医科大学の発表によると、リコールの実施以降、症例の報告数は減少傾向にあるという。突然の悲劇的な別れを生んだ一連の騒動は、ゆっくりと収束に向かっている。
Source:Newsweek
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